第20話「それはほんの小さな誕生日パーティー」
「エリオット君、小さなパーティーって言ったよね?」
「はい、確かに言いました」
「いやこの規模のパーティーを、『小さい』とかいうのおかしいよ!」
エリオットくんの友達の家の大邸宅。
今日のパーティーはその家の中心にある大広間で行われている。
招待客も侯爵とか公爵クラスの大物ばかり。
その中に異国の服を着た高貴そうな方々を混じっている。
このパーティーのどこが小規模だって言うの!
いやそれはさ、私も今日のパーティーに出すお菓子を作ったり、飾りつけしていた時から疑問には感じたんだけどさ。
「なんか小規模なパーティーにしては お菓子の量多くないっ?」って。
だけどお菓子を並べた後メイクもしなくちゃいけないし、ドレスも着なくちゃいけないし、エリオット君と最終的な作戦の打ち合わせもしなくちゃいけないしで、そんなこと考えてる余裕がなかったんだよね。
「エリオット君のお友達って一体何者?」
「彼は友人というか俺のいとこで……まあ彼の正体については、あとで分かりますよ」
そう言って彼は含みのある意味を浮かべた。
彼は高位貴族の嫡男だけあって話を煙に巻くのが上手だ。
それくらいのことができないと社交界では生きていけないんだろう。
「それよりアメリー様、今日のドレス似合ってますよ」
今日私はエリオット君がおすすめしてきた藤色のドレスと、アメシストの付いた銀製のイヤリングとネックレスを身に着けている。
イヤリングとネックレスは、彼が結婚した翌日にプレゼントしてくれた、婚約指輪とお揃いのデザインだ。
紫はエリオット君の瞳の色、銀は彼の髪の色だ。
「いいのエリオット君?
銀色のアクセサリーは君の髪の色だし、アメジストは君の瞳の色だよね?
君と一緒にいる私が、こんな服を着ていたら、君とただならぬ関係だってばれちゃうんじゃない?」
「だから着せたんです。
むしろ俺はみんなに伝えたいです。
俺の奥さんは……その世界一の美人だって」
今日の作戦通りに進めれば、皆に私がエリオット君の奥さんだと伝えないといけない。
それはわかってるんだけど、彼と私は三年間の契約結婚。
こんな大勢の前で彼と結婚していることを本当に伝えてしまっていいのだろうか? と悩んでしまう。
だけど彼の気持ちは変わらないようだ。
それに今、彼は小声で私のことを「世界一の美人」と言ったような?
もしかして、今まで彼が小声でボソボソつぶやいていたのは、私への褒め言葉だったのかな?
そうだったら嬉しいな。
会場内のあちこちに、私の作った刺繍入りハンカチを額に入れて飾り、「製作者アメリー」と記している。
本当はフルネームでアメリー・ハリボーテと書きたかったのだが、私はもうハリボーテ伯爵家の人間ではない。
だからと言ってアメリー・ベルフォートと書いてしまっては、相手に私の作品だと気づかれない恐れがある。
だから作品にはあえて、「アメリー」とだけ記したのだ。
この部屋の壁には他にも、私の描いた絵や、詩が額に入れて飾られている。
もちろんどの作品にも、アメリーという署名を入れてある。
私のお菓子が並んでいるケーキスタンドにも「製作者アメリー」と書いてある。
パーティーで提供するお菓子に、名前を書くというのもおかしな話なのだが、そうしないと相手に気づいてもらえない可能性があるから仕方ない。
エリオット君と彼の友人の協力で、ターゲットを別室に先に案内し、全員が揃ってからこの部屋に来るように仕掛けてある。
一人ずつやってきたところを、各個撃破していたのでは、他のターゲットに逃げられてしまう可能性があるからだ。
後は会場入ってきた妹たちに、パーティー客や使用人に扮したエリオット君の部下が、
「この刺繍はハリボーテ 伯爵家のアメリー様の作品だそうです」
「彼女の作品は素晴らしい」
などと会話させ、
さり気なくターゲットの耳に誰の作品なのかを入れればいい。
私はもうハリボーテ伯爵家の人間ではない。だけど他人が勝手に口にしたことを止めることはできない。紙に書いて記すのと違い証拠も残らない。だからこれは罪にはならない。
パーティー客に扮した仕掛け人に、私の作品を称賛させれば、私が評価されることを忌み嫌っている妹や弟たちは、激怒して私に突っかかってくるに違いない。
単純な思考回路の彼らだからこそ、こういった罠が有効なのだ。
さあ来なさいヘレナ、クラリッサ、イザベラ、カシウス、あなた方の嘘を暴いてあげるわ。
細工(さいく)は流流(りゅうりゅう)仕上(しあ)げを御覧(ごろう)じろ。
◇◇◇◇◇
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