第21話「罠」
「アメリー様、今部下から連絡がありました。
ターゲットが部屋を出て、会場に向かっているそうです。
俺は一旦飲み物を取りにいきますね。
後で合流しましょう」
「うん、わかった。
ありがとうエリオット君」
エリオット君が公爵令息であることは 周知の事実だ。
きっと愚かな妹達だって知っていることだろう。
だから一旦エリオット君とは距離を取ることにした。
いかに愚かな妹たちでも、公爵令息と親しげに話してる私を見たら、ひるんで突撃してこないかもしれない。
それでは困るのだ。
あくまでも彼らには頼れる人もない、親にすら見捨てられ、嫁ぎ遅れたかわいそうな姉だと思われなくてはいけないのだから。
エリオット君と離れて数分後、会場内が騒がしくなった。
どうやら妹たちが私の作品に気づいたらしい。
さてさて彼らは私の計画通りに踊ってくれるだろうか?
ちなみに妹の夫や、弟の婚約者が側にいると邪魔なので、エリオット君の友人に廊下で足止めしてもらっている。
ついでに両親と兄夫婦の足止めもしてもらっている。
他の人間はともかく、ヘレナの夫はメンクーイ侯爵だ。
彼を廊下で足止めできるなんて、エリオット君の友人は一体何者なんだろう?
「お姉様、これは一体どういうことなんですの!」
今はそんなことを思案している場合ではない。
妹たちが罠に食いついてきたようだ。
さあここからが本番だ。
今まで散々私をコケにしてくれた妹たちに復讐しようではないか。
「ごきげんよう。
ヘレナ、クラリッサ、イザベラ、カシウス。
今はメンクーイ侯爵夫人、フシアナ伯爵夫人、ミエハリ子爵夫人でしたわね」
私は社交的で上品な笑みを浮かべた。
普段は言葉遣いがアレな私だけど、二十二年間貴族の令嬢として育ったのだ。
気品のあるほほ笑みを浮かべ「ごきげんよう」ぐらい言える。
「ごきげんようではないわ!
私の刺繍を盗んで自分の名前で発表するなんてあり得ないわ!」
ヘレナが私に噛み付いてきた。
私の作品を盗んで、自分のものだと言って人に渡しているだけのことはある。
彼女には刺繍のデザインや縫い方から、私の作品だと気づく目があったようだ。
あれだけヒントを与えたのだから、気づいて貰わなくては困るのだが。
偉い、偉い、お姉さんが褒めてあげよう。
「俺の絵も盗みましたよね!
あの絵はどう考えても俺のタッチです!」
ヘレナに続いて、カシウスが私を怒鳴りつけてきた。
よしよし君もお姉さんが張った罠にかかってくれたんだね。いい子だね。
刺繍と絵は誰が作ったのか分かりやすい。
あとは詩とお菓子に反応してもらえるかどうかだ!
「お姉様、私のレシピを盗みましたわね!
このお菓子の味は私のレシピをもとに作ったものですわ!」
続いてお菓子の乗った皿を片手に持ったクラリッサが、私に言いがかりをつけてきた。
よしよし、いい感じいい感じ。
お姉様の作ったお菓子の味を覚えてるなんて偉いじゃない。褒めてあげるわ。
最後は詩泥棒のイザベラだ。彼女が私の仕掛けた罠にかかってくれるだろうか?
詩は刺繍や絵やお菓子とは違う。
他人が作った文章を、そっくりそのままパクって自分の詩に取り入れでもしない限り、盗作だとは断言できない。
似たような雰囲気の詩などいくらでもあるからだ。
頼むから食いついてきてほしい。
でなければ思春期の心を思い出して詩を書き、死ぬほど恥ずかしいのを我慢して、自分の名前で発表した私の覚悟と努力が無駄になってしまう。
「お姉様ったら酷いわ!
私の詩も盗作しましたのね!」
イザベラが罠にかかった!
ありがとうイザベラ!
あなたがおバカで良かった!
これで私の作品を盗作していた四人全員が罠にかかったことになる。
彼らの言葉はこの会場にいる全ての人が聞いている。いわば会場にいる全員が証人だ。
しかも会場にいる人間の半分は、エリオット君とエリオット君の友人の味方だ。
この状況では、もはや言い逃れは不可能。
さあこいつらをどう料理してやろうかな?
長年君たちにコケにされ続け、お姉さんは実は怒っているんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます