第37話「会いたかったよ!」



エリオット君だ!


エリオット君が助けに来てくれた!


私の瞳から涙がボロボロと溢れ落ちる。


「公爵夫人誘拐事件の犯人だ!

 捕らえろ!!」


エリオットくんの号令で、兵士がなだれ込んできた。


兵士の一人がゼイン君を背後から押し倒し、背中から押さえ込んだ。


「くそ!

 こんなところでやられてたまるか!」


ゼイン君が懐から何かを取り出そうとした。


それを察知したエリオット君が、ゼイン君の腕を踏みつけた。


「ぎゃぁっ!」


ゼイン君が悲鳴を上げた。


「お前の思い通りなんかさせるかよ!」


エリオット君はゼイン君に絶対零度の視線を向ける!


「犯人は催眠術師だ!

 妙な術を使うかもしれない!

 奴の目と耳と口をふさぎ、両手両足を拘束しろ!

 奴は赤い石のついたペンダントを所持している! 

 奴を拘束し終えたら、奴の身体をくまなくチェックし、ペンダントを奪え!」


エリオット君が的確な指示を出し、兵士達がそれに従った。


そしてゼイン君の懐から、赤い石がついたペンダントが発見された。


「公爵閣下ありました!

 赤い石のついたペンダントです!」


「ご苦労だった。

 この箱に入れろ」


兵士の一人がペンダントを発見し、エリオット君に報告した。


エリオット君はペンダントを、持っていた箱にしまった。


エリオット君は懐から鍵を取り出し、その箱に施錠した。


「遺跡から発見されたペンダントだ。 どんな力を持っているかわからない。

 これは俺から王太子殿下に渡し、王家で厳重に管理してもらう」


そうだよね。


どんな力が眠ってるかわからない物騒なもんだからね。


もしかしたらゼイン君ですら、このペンダントの全ての力を引き出せていたわけではないのかもしれない。


そんな危ないものは、お城で管理した方がいい。


「犯人を連れて行け!」


「はい、閣下!」


エリオット君が兵士に命令を下すと、命令を受けた兵士がゼイン君を担ぎ上げた。


ゼイン君は兵士に両手両足を縛られ、目と口をふさがれ、耳に耳栓をされているので、自分の力で立って歩くことができないのだ。


「アメリー様、助けに来るのが遅くなって申し訳ありません」


ゼイン君が運び出されるのを厳しい表情で見送ったエリオット君は、その後すぐに私の元に来てくれた。


そして私の縄を解いてくれた。


「ぐすっ……会いたかったよ……!

 エリオット君……!」


私は彼に抱きついた。


「すみません。

 遅くなって」


「怖かった……!

 犯人に全然話が通じないんだもん……!

 すごく怖かったよ……!」


エリオット君の胸の中で泣きじゃくる私を、彼はそっと抱きしめてくれた。


「だけどね……私信じたよ。

 エリオット君が絶対助けに来てくれるって……!」


私の顔はその時、涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた。


こんな顔で言われても嬉しくないだろうけど、彼に伝えずにはいられなかった。


彼は私のことをぎゅーっと力強く抱きしめた。


「エリオット君?」


「二度と離しませんから!

 絶対に誰にも渡しませんから!

 もう絶対あなたの側を離れたりしませんから!」


私が誘拐されたことに、彼なりに責任を感じていたのだろう。


「私が誘拐されたのは、エリオット君のせいじゃないよ。

 でもありがとう。

 そう言ってもらえて嬉しい」


あーそういえば、私エリオット君に伝えたいことがあったんだ。


エリオット君のことが大好きだって、愛してるって。


あれ? そういえば……。


私、エリオットくんがこの部屋に入ってくる前、ゼイン君に私の好きなのはエリオット君だって伝えてたんだ。


あの話、もしかしてエリオット君に聞かれてた?


ちゃんと告白する前に、自分の気持を偶然聞かれてたら嫌だな。


「エリオットくんさ、私とゼイン君の会話どこから聞いてた?」


「奴が『さぁ、僕と一緒に外国に行って幸せに暮らしましょう!』と言ったあたりからです。

 それがどうかしたのですか?」


「そっか、ならいいんだ」


セーフ!


ギリギリセーフ!


私の告白はエリオットに聞かれてなかったみたい。


「なぜそこでホっとするんですか?

 もしかして奴に何か言われたんですか?」


いけない。


エリオット君の嫉妬モードのスイッチが入ってしまったようだ。


「な、何でもないよ!

 それより私、少し疲れちゃったな……」


話をそらす目的もあったけど、疲れたというのは本音だ。


今日は朝から忙しかったから。


パーティーの招待客への挨拶回りに、旧友との再会に、三人の令嬢に突られたのを上手く躱して、ようやく一息を付けたと思ったら誘拐されて……。


犯人の説得を試みるも失敗に終わり、犯人の言ってることは意味わかんないし……本当にこのまま外国に連れて行かれて、彼のお嫁さんにされちゃうのかと思ったよ。


緊張と疲労でもうクタクタだよ。


「エリオット君、ごめん。

 ちょっと休んだら動くから……それまでこうさせて」


私は エリオット君の胸に顔をうずめ……彼の胸を枕に少し仮眠を取ることにした。


「アメリー様!」


私が気を失ったと勘違いしたエリオット君が、しばらく心配そうに私を名を呼んでいた気がする。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





気がつくと私は自室のベッドで寝ていた。


窓から朝日が差し込んでくる。


そっか、私あのまま寝ちゃったのか……。


起き上がろうとした時、右手に何かの感触があることに気づいた。


それは人の手の感触で、エリオット君がベッドの横でスースーと寝息をかいていた。


もしかして私が眠ってる間、ずっとそこにいて私の手を握っていてくれたのかな?


エリオット君には本当に心配かけちゃったな。


後でちゃんと謝んないと。


私は彼に握られてない方の手で、彼のふわふわの髪の毛を撫でた。


「ん……アメリー様……?」


身体に触れられた感触があったのか、彼は目を覚ました。


「ごめんね。

 起こしちゃった?」


「アメリー様、気が付かれたのですね !

 あなたがなかなか目を覚まさないから、心配したんですよ!」


「私、そんなに寝てたの?

 えっと今って次の日の朝じゃあ……?」


「今は事件の次の日の夕方です!」


私が朝日だと勘違いしたものは、夕日だったらしい。


朝日にしては赤みが強いし、カーテンが開けっぱなしなのも変だなぁと思ったんだよね。


「そっかそんなに寝たんだ。

 ごめんね、心配かけて」

 

「本当ですよ!

 もう二度とあなたが目を覚まさないんじゃないかと……!

 俺がどれだけ怖かったか……!」


彼はアメジストの瞳いっぱいに涙を溜めていた。


昨日助けに来てくれた時は、凛々しくて大人っぽくてかっこいいなって思ったけど、こういう表情するところは、やっぱり可愛い男の子なんだよね。


凛々しいエリオット君も、泣き虫で可愛いエリオット君もどっちも好きだな。


「昨日、エリオット君に伝えたよね?

 パーティーが終わったら君に伝えたいことがあるって」


「はい、覚えています」


「また何か事件が起きて伝えられなくなったら嫌だから、今言うね。

 私はエリオット君のことが大好き。

 公爵として振る舞ってる時の背伸びしてる君も、

 私の前でだけ泣き虫で甘えん坊になる君も、

 どっちも大好きだよ」


エリオット君の顔が、ボッと音を立てて赤くなった。


「それは友達としての好きですか?

 それとも別の……」


「エリオット君が一人の異性として大好きだよ!

 愛してる!」


私は彼の唇にキスした。


彼は自分の唇を押さえて、目を白黒とさせていた。


「ず、ずるいです!

 アメリー様!

 あなたが俺のことを好きになったら、その時は俺からあなたにキスするって言ってたのに……!」


彼は唇を尖らせ、瞳をうるうるさせていた。


え? 


そういう反応?


もっと喜んでくれると思ったんだけどな?


思春期の男の子には色々あるんだね。

きっと。


「こ、今度キスする時は俺からさせてください!」


「うんいいよ。

 じゃあ今して」


私はそっと目を閉じた。


「えっ!

 いいいいい……今ですか!

 こっ、心の準備が!!」


人にキス待ち顔させといて、そういうこと言うかな?


まあ彼らしいと言えば彼らしいんだけど。


「目を閉じたら眠くなっちゃった。

 もう一眠りするから、心の準備ができたら起こしてね」


私は再びベッドに横になった。


「えっ?

 ちょっと待ってください!?

 この状態で俺のこと放置して寝るんですか!?」


「うーん、だって、エリオット君の心の準備が出来るまで、何時間もかりそうだし…………むにゃむにゃ、おやすみ」


今はキスするより、眠りたい気分だ。


「アメリー様、起きてください!

 キスする準備ができましたから!

 俺とキスしてから寝てください!」


エリオット君が何か叫んでるが、私にはもう聞こえない。


私の意識はもう夢の中だから。








目覚めた時、真っ赤に目を腫らしたエリオット君に、プンスコと怒られてしまった。


ごめんよ。次はもっとムードを考えてキスするからね。


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