第38話「それからどうなった?」後日談



「催眠術師のゼインは国で一番厳しい監獄に入りました。

 彼は一生牢屋から出られないでしょう」


彼の罪状は貴族令嬢への傷害と、公爵夫人の誘拐だ。


私の予想していた以上に、重い罰が下ったようだ。


まあ命があっただけましだろう。


「古代の遺跡から発見されたという赤い石の付いたペンダントは、封印の施された箱に入れられ、王家の地下で厳重に管理されることになりました」


そうだね。


あんな物騒なものは世に出回らない方がいい。


あのペンダントを手に入れたのが、平民で良かったのかもしれない。


もしあのペンダントを貴族が手に入れて、国王や皇帝を操ったら……大変なことになってしまう。


戦争とか虐殺とか恐ろしいことが始まってしまう。


そういう物騒なものは、地下で一生眠っていた方がいい。


「イリオス侯爵令嬢は実家から勘当され、北の地にある厳しい修道院に入りました。

 彼女は最後まで『自分は男に操られていただけだ!』と主張していました。

 しかし彼女はゼインに対し、ベルフォート公爵夫人であるあなたを消して欲しいと、明確に依頼しているので、情状酌量の余地はありませんでした」


まあそうなるよね。


「イリオス侯爵は娘の不始末の責任を取り、爵位を親戚に譲り隠居しました」


そっか、お咎めはイリオス元侯爵令嬢だけじゃなく、彼女の親にもおよんだんだね。


「あなたに暴言を吐いたストラトス男爵令嬢とプリムローズ子爵令嬢ですが、

 彼女たちはあの件の主犯ではないことと、

 あなたの捜索に役立つ情報を提供してくれたので減刑し、厳重注意処分としました」


あの子達が私がゼイン君に連れ去られるとこを目撃してくれたから、彼が港に向かったと分かって、船が出航する前にエリオット君が助けに来れたんだよね。


彼女たちには後でちゃんとお礼をしないとね。


「今回の事件は、他の被害者も含めて記録には残さず、全て内々に処理することに決まりました。

 事件の関係者には、陛下から正式に箝口令が下りました」


犯人は催眠術師で、人を操る力を持つ古代の遺跡から発見されたアイテムを使っていた。


犯人がそんな危険なアイテムを使用していたなんて、記録には残せないよね。


私と間違えられてゼイン君に襲われた人たちは、全員未婚だったみたいだし、事件が公になったら全員お嫁に行けなくなっちゃう。


私も誘拐されたことが世間に知られたら、公爵夫人にふさわしくないって言われて、公爵家を追い出されてしまう。


みんなの幸せのためにも事件は、密かに処理されるのが一番いいのかもしれない。


「というのが事件後の概要です」


「ありがとうエリオット君、説明してくれて」


「そ、それよりもアメリー様、この体勢どうにかなりませんか?」


「えー、もうちょっとだけ」


私は今エリオット君の部屋に来ている。


寝る前だから二人ともパジャマ姿だ。


エリオット君に絵本の読み聞かせをしに来たら、エリオットくんが事件の概要について話してくれるというので、それならと彼に膝枕をしてもらった。


話が長くなりそうだから、楽な姿勢で聞きたかったんだよね。


「男の足は女性と違って硬いんです。

 膝枕しても気持ちよくありませんよ」


「そっかな?

 案外心地よかったけど。

 じゃあ今度は私が君に膝枕してあげるよ」


「あなたはすぐにそういうことを言う!」


エリオット君は顔を真っ赤にした。


「今俺達は二人きりで、ここは寝室で、しかも二人ともパジャマ姿で……!

 だ、だから……膝枕されたら色々と想像してしまって……!」


彼は耳まで赤くして、顔を自分の手で覆った。


彼の反応はいちいち乙女なんだよね。


「分かった。

 膝枕は諦めるよ」


別に減るものでもないから、膝枕ぐらいいくらでもしてあげるのにな。


「王太子殿下やロクサーヌも、事件解決に協力してくれたみたいだね。

 二人には後でちゃんとお礼を伝えにいかないとね」


事件について、箝口令を敷くように陛下に頼んでくれたのはきっと殿下だろうから。


「そういえば王太子殿下って、やたらとエリオット君に協力的だよね?

 もしかして彼の弱みでも握ってるの?」


「彼の弱みを握るなんて……恐ろしいこと言わないでください!」


王太子の弱みを握るって恐ろしいことなんだ……。


「彼は自分が初恋の人と結ばれなかったから、俺の初恋を応援してくれてるんです」


そっか、そんな切ない理由があったんだね。


「王太子殿下の初恋の相手って誰?」


普段飄々としている彼が、どんな相手に恋をしたのか気になる。


「彼の初恋相手はアメリー様もよく知ってる女性ですよ」


「私のよく知ってる人?

 ……もしかしてロクサーヌのこと?!

 でも二人はいとこ同士で」


歳も五年は離れてる。


私とエリオット君は六歳歳が離れてるから、歳のことはあまり言いたくないけど。


「殿下は姉のことを慕っていたのですが、陛下に『王家の血が濃くなりすぎるのは良くない』と言われ結婚を反対されて……。

 姉は辺境伯家に嫁ぐことになり、そのことを知った殿下はショックを受けて留学を決意されました。

 と言っても姉は辺境伯を愛していたので、殿下の片思いだったんですが」


殿下にそのような初恋の秘話があったとは。


「だから彼は俺の初恋を応援してくれたんです。 

 自分の初恋はうまくいかなかったから、せめて俺には幸せになって欲しかったみたいで。

 だから彼は、俺とあなたが結ばれたことをとても喜んでいます」


そうかそんな事情があったんだね。 


私とエリオット君は結婚してるし、両思いにもなった。


だけどそれだけでは、完璧に結ばれたとは言えない。


キスも一回しかしたことないし。


夫婦らしいことは何もしていない。


「エリオット君、キスして」


「な、ななな……なんですかいきなり!?」


彼はかなり動揺しているみたいだった。


「だってこの前、私からキスしたら怒ったよね?

 だから今日はエリオット君からキスして貰おうと思って」


あの後お互いに色々と忙しくて、甘いムードを作れる機会がなくて、彼からはまだキスされていない。


「な、なんで今なんですか!?」


「だって昼間はお互い忙しくて、二人きりになれないじゃない?

 それに昼間は私がメイクしてるから、キスしたら私の口紅がエリオット君の唇に付いちゃうでしょう?

 だけど今は夜だからメイクを落としてる。

 だから私の口紅が君につく心配はないよ」


私だってエリオット君に迷惑かけないかけないように、色々と考えてるんだから。


「それに明日は土曜日だから、ちょっとぐらい寝坊しても平気だよね?」


エリオット君の学校への配慮も欠かさない。


私って出来る妻だな。


「い、意味が分かって言ってるんですか!

 あなたは……!」


私が彼に近づこうとしたら、彼は少しずつ後退していった。


ついにエリオット君は、ソファーの端まで追い詰められてしまった。


ソファーの端で三角座りをして、身を縮めぷるぷると震わせている彼は、野獣に追い詰められたウサギのようだった。


エリオット君は自分から迫るのは好きだけど、相手に迫られるのは苦手らしい。


綺麗な顔に涙をたたえているエリオット君も可愛いが、私の想像していたキスのシチュエーションとはなんか違う。


うーん、思春期の男子の男心を探るのは難しい。


これでは狼がうさぎを追い詰めて、食べようとしているみたいではないか。


彼より六歳も年上の私としては、一日でも若いうちに彼とイチャイチャしたいんだけどな。


彼を泣かせるのは忍びないし、今日は我慢しよう。


彼とイチャイチャできる日はもうちょっと先みたいだ。





後日談・終わり




オマケ


「初めてのキスはきれいな湖の見えるお花畑で……か。

 よし今度エリオット君を湖に誘おう!」


「初めてのデート」「絶景デートスポット」という本を読み漁りながら、キスのシチュエーションを考える、アメリーがいるとかいないとか。





――終わり――


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