第35話「手がかり」エリオット視点
エリオット視点
イリオス侯爵令嬢は控室のソファーで眠っていた。
メイドが揺すったり、声をかけたりしているが、彼女は一向に目を覚ます気配がない。
まさか狸寝入りしてるんじゃないだろうな?
「どいていろ!」
俺は彼女の介抱をしていたメイドを下がらせた。
俺は部屋に飾ってあった花瓶から花を抜き取り、花瓶の水をイリオス侯爵令嬢の頭からかけた。
彼女は「きゃあっ! 冷たい!」と言って目を覚ました。
俺は覚醒した彼女の胸ぐらを掴み問い詰めた。
「お前がアメリー様の誘拐に関わっていることは分かっている!
吐け!
彼女をどこにやった!」
彼女は状況が理解できないようで、目を白黒とさせていた。
「素直に吐かないのなら、拷問を加えるぞ!」
拷問という言葉に、イリオス侯爵令嬢は身体をびくりと震わせた。
「エリオット、そんなやり方では彼女が萎縮してしまうわ」
「少し落ち着いた方がいい。
それに女の子を乱暴に扱うのは良くないよ。
取り調べは僕がやろう」
そのとき、王太子殿下と姉上が部屋に入ってきた。
「彼女は犯人と共犯です!
情けは無用です」
「今のところは重要参考人ってところかな。
まあ見てて、僕はこういう取り調べが得意なんだよ」
殿下にそう言われては、取り調べを代わるしかない。
「誰かハサミを持ってきてくれないかな?
なるべく切れ端がいいやつね。
彼女の指を切るのに必要なんだ。
これをやるとね、みんな素直に話をしてくれるんだよ」
殿下はにっこりと笑って恐ろしいことを口にした。
どっちが残酷だよ。
イリオス侯爵令嬢がブルブルと震えながら、証言を始めた。
「わ、私は何も知りませんわ……!
本当です!
信じてください!
廊下で泣いてるところを黒髪に赤い目の男に話しかけられたのです……。
それで……男に赤い宝石のついたペンダントを見せられて……。
体が自分の意志に反して勝手に動いていて……気がついたらこの部屋にいたんです!
本当です!
信じてください!」
「黒髪に赤い瞳の男に、赤い宝石のついたペンダントを見せられて、気がついたら別の場所にいた、その間の記憶はない……。
被害者の証言と一致してるね。
やはり街で貴族令嬢を襲っていた男と、今回のベルフォート公爵夫人失踪事件の犯人は、同一人物のようだね」
殿下がそう言った。
やはり黒髪に赤い目の男の狙いはアメリー様だったようだ。
なぜその男はアメリー様を狙ったんだ?
そいつの目的はなんだ?
「おいお前!
赤い宝石のついたペンダントを見せられる前、その男と何を話した!
言え!
素直に白状しないと、手の指だけではなく、足の指もちょん切るぞ!」
俺は再びイリオス侯爵令嬢の胸ぐらを掴んだ。
「エリオット、顔が怖いよ。
だんだん僕に似てきたね。
やっぱりいとこだから血を争えないかな?」
ニコニコと笑いながら、恐ろしいことを言うあなたよりましだと思いますよ。
「か、彼はお父様に雇われたと言ったわ。
私の願いを叶えてくれるとも。
だから私は……ベルフォート公爵夫人を消して欲しいと願ったの。
そしたらあの男は彼女を遠くに連れて行くと……」
この女、俺の前でよくそんなことぬけぬけと……殺してやりたい!
「エリオット少し落ち着いて。
彼女の取り調べは僕がやるから」
殿下に言われ、俺はイリオス侯爵令嬢から手を離した。
「イリオス侯爵令嬢、君は公爵夫人の誘拐事件に関わっている。
今までのような生活が送れないのはわかるよね?
父親である侯爵に泣きついてもどうにもならないよ。
厳しい修道院暮らし、もしくは監獄での生活を覚悟してね」
王太子殿下は笑顔のままで厳しいことを言った。
イリオス侯爵令嬢はがっくりと肩を落としていた。
「黒髪に赤い目の少年……その男の子はもしかして、十六歳ぐらいではありませんでしたか?」
その時口を開いたのは姉のロクサーヌだった。
「姉上はその男を知っているのですか?」
「以前辺境伯領地に見世物小屋が来たことがあります。
私も旦那様と一緒にお忍びで見に行きました。
その時黒髪に赤い目の少年がいたのです。
彼に赤い宝石のついたペンダントを見せられた人々は、宝石に操られたように動き出し、宙返りをしたり、側転を始めたのです。
その時は観客を驚かせる為に、客に扮した団員が、操られた振りをしているのだと思っていました。
ですがあの赤い石に人を操る力があったのだとしたら……」
「イリオス侯爵令嬢の証言に信憑性が増すね。
僕も聞いたことがある。
古代の魔術師が作った人を操る力を入れる持った石があると。
その石は誰にでも扱えるわけではない。
しかし才能のあるものがその石を使うと、人間を自在に操り、操っていた時の記憶を消し去ることができる。
一時的に他人に持たせて、別の人を操ることもできると」
なんて恐ろしい石なんだ。
だからイリオス侯爵令嬢に石を見せられたアメリー様は、彼女の後をついて行ってしまったのか。
「僕はとりあえず、見世物小屋で働いてたことがある十六歳ぐらいの少年について調べてみるよ。
兵士を使って空き家をしらみつぶしに捜索する。
その男がどこかにアメリー様を監禁してるかもしれないからね」
殿下は空き家を探すとおっしゃったが、犯人は本当にそんなところに隠れているんだろうか?
「待ってください!
犯人はイリオス侯爵令嬢にアメリー様を遠くに連れて行くと言っていました。
犯人の狙いはもしかしたら……アメリー様を連れて国外に出ることなのではないでしょうか?」
王太子の意見を否定することは不敬になるかもしれない。
だけど今はそんなことは言ってられない。
「その可能性は高いね!
わかった!
王都に続く道を全て封鎖しよう!
念のため船の出航も停止させよう!」
王太子殿下が事件の指揮を取っていてくれるのは頼もしい、彼の判断が早い。
だけどいくら兵士の数が多くても、王都に続く全ての道を封鎖し、船まで封鎖するのは容易ではない!
どっちだ?
犯人は陸路と海路、どちらを使って逃げる気なんだ?
それさえわかれば……!
「お取り込み中申し訳ございません。
旦那様に見せたいものがあると、さる令嬢が申しております」
その時また家令が部屋に入ってきた。
「こんな時にか?」
「ですが彼女たちの話を伺った方がよろしいかと」
家令のおかげで事件について色々なことが分かった。
彼の話を聞いておいた方がいい気がする。
俺は令嬢をこの部屋に呼んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺に話があると呼び出したのは、ストラトス男爵令嬢とプリムローズ子爵令嬢だった。
彼女たちはイリオス侯爵令嬢の元取り巻きだった二人だ。
イリオス侯爵令嬢は自分の行く末を聞いてショックを受けたのか、気を失いソファーに倒れている。
「エリオ……公爵閣下。
お時間を取らせてしまって申し訳ごありません」
ストラス男爵令嬢は、俺の名前を呼びかけて、公爵閣下と言い直した。
ちゃんと身分の違いを理解したようだ。
「それで俺に話とは何だ?
時間がない、手短に話してくれ」
「はい。
私、家に帰ったら今日のことで父親に怒られると思ったら怖くて、憂鬱で……。
それでプリムローズ子爵令嬢と庭に出て、自然に触れて心を落ち着かせていたんです。
そうしたら二階の窓から麻袋を抱えた男が、ぶわぁーーっと降りてきて、だぁーーっと走って行って……!」
ぶわーとか、だーではわからない。
「ストラトス男爵令嬢は感情で話すタイプなので私の説明します。
私達がいたのはこの部屋の真下でした。
麻袋を抱えた男は黒い髪に赤い目をしていました。
男の年齢は私達と同じくらいです。
その男は私達には目もくれず、麻袋を抱えたまま馬車置き場の方に走って行きました。
しばらくして馬車置き場から出てきた馬車は、門を出て北に向かって走って行きました」
ストラトス男爵令嬢に代わり、プリムローズ子爵令嬢が説明した。
彼女たちは有益な情報をもたらしてくれた。
北には港がある。
犯人は船を使ってこの国を脱出するつもりだ。
「それから男はこんなものを落としていきました」
プリムローズ子爵令嬢の手のひらの上には、小さなアヒルのぬいぐるみがあった。
俺はこのぬいぐるみをどこかで見たことがある。
「まぁ、そのぬいぐるみはとても貴重なのですよ。
確かウルフリック子爵が新しい船を造った際、その処女航海を記念して、チケット購入者先着百名に配ったものだとか」
そう言ったのは姉のロクサーヌだった。
そうだパーティーでウルフリック子爵がそんなことを言っていた気がする。
「大変!
その船の出港日って今日じゃない!?」
そのことに気づいた、姉の顔色は真っ青だった。
「殿下、船です!
犯人は船で逃げる気です!
港に兵士を集めてください!
ウルフリック子爵が保有する船を港から出してはいけません!!」
「分かっている!
すぐに兵士に伝えよう!」
犯人の居場所がわかった!
待っていてくださいアメリー様!
今から俺が助けに行きますから!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます