第25話「領地経営ぐらい自分でやってください」ざまぁ
エリオット君と王太子殿下の力を借りて、妹たちにギャフンの言わせることができた。
次は両親と兄夫婦を断罪する番だ。
彼らにも散々煮え湯を飲まされた。このまま放置はできない。
両親と兄夫婦の姿を探すと、入口付近で兵士と揉めていた。
どうやら彼らは、妹たちの事を置いてここから逃げようとしていたようだ。
人のことを言える立場ではないが、家族を見捨てて自分達だけ逃げようとは、いい根性をしている。
「ハリボーテ伯爵とハリボーテ伯爵夫人、ハリボーテ伯爵令息とハリボーテ伯爵令息夫人、どちらにいかれるおつもりですか?」
この会場にはハリボーテ伯爵令息が二人いる。
一人は弟のカシウス、一人は兄のアニージョだ。
ここでいう、ハリボーテ伯爵令息とは兄のことだ。
紛らわしくてごめん。でも覚えておいてね。
わざとらしく私がそう尋ねると、彼らは嫌そうな顔で振り返った。
「お前は酷い娘だ。
公衆の面前で妹や弟の罪を暴くとは!
しかも殿下やベルフォート公爵まで巻き込んで!
お前には人の心がないのか?」
父がギロリと私を睨んだ。
今の私は、あなたに睨まれても少しも怖くありません。
あなた方と関わらなくても、生きていけるとわかりましたから。
「それは心外ですね。
ハリボーテ伯爵は彼らが私の作品を盗んでいたのを知っていた。
知っていて黙認……いえ、『姉なら可哀想な妹達に譲ってやれ』と言って妹達の味方をしていた。
あの時、親であるあなたが彼らを叱っていたのなら、私は今日この場所で、彼らを断罪することはなかったでしょう」
あの時父が妹たちを叱っていたのなら、身内のいざこざで済んだ。
私もここまで彼らを恨むことはなかった。
「お前は祖父母に可愛がられていた。
親の愛情などいらなかっただろう?
だからわしは、祖父母に愛されない可哀想なお前の妹達を可愛がったのだ」
「それは違います。
祖父母が私に愛情を注いだのは、両親に愛されず、兄弟に侮られている私を可哀想に思ったからです。
あなた方は、母譲りの美貌と、金色の髪と、青い目を受け継いだ彼らだけを愛していた。
先にあなた方が私を見捨てたのです。
祖父母はそんな私を気の毒に思い、色々な事を教えてくれたのです。
くれぐれも順番を間違えないでくださいね」
父は私に反論されると思っていなかったのか、悔しそうな顔で「ぐぬぬ」と唸っていた。
「ハリボーテ伯爵、ハリボーテ伯爵夫人、あなた方には妻を虐待していた疑いがあります。
追ってあなた方には慰謝料を請求します。
覚悟してください」
いつの間にかエリオット君が私の隣に立っていた。
彼に慰謝料を請求すると告げられた両親は、がっくりと肩を落としその場で膝をついた。
「俺、俺は何もしてないぞ!
なぁ、そうだよな?
アメリー!」
クソ兄貴、なにが何もしてないだ!
散々、甥っ子たちに私の悪口を吹き込んでいたくせに!
「そうですね。
ハリボーテ伯爵令息。
家の仕事を一切しないという意味では、あなたは何もしませんでしたね」
「そうだろ!?
なっ? 俺は無罪だ!」
アホ兄貴、今のは褒め言葉ではない、厭味だ。
トンマな兄貴は自分が無罪だと思い込み喜んでいた。
「ですがあなたはご自身の息子たちに私の悪口を吹き込んでいた。
行かず後家、売れ残り、オールドミス、行き遅れの妹を家においてやってるんだから悪口を言われるぐらい我慢しろ、嫡男の自分の息子達の方が、私より立場は上だ……などなど。
本来嫡男のあなたがやるべき伯爵家の仕事を私に押し付け、夫人がやるべき子供達のおやつ作りや、子供達の服作りまでさせておいて、あなたは私に感謝するどころか、そのような暴言を吐いていたのです」
「だって事実だろ?
お前は行き遅れだったし、俺や子供達より立場が下だった」
アホ兄は悪びれもせずに言った。
エリオット君は絶対零度の視線を兄貴に向けている。
兄貴はそんな彼の視線に気づいて、少しだけ怯んだ。
「あなたの理論なら身分が上の者は、身分が下のものに何をしても良いことになりますね。
ところで今の私は公爵夫人、あなたは伯爵家の嫡男ですがまだ爵位を継いでいない。
どちらが身分が上かお分かりになりますか?」
「それは……」
アホ兄が言い淀んだ。
所詮兄は、弱いものいじめしかできない男なのだ。
「あなたの理論だと、私はあなたには何を言ってもいいことになりますね?」
「そ、そんなのはあんまりだ……!
……非道だ!
弱いものいじめだ……!」
「あなたが私にしていたことは、そういうことなんですよ」
「………」
兄は黙ってしまった。
兄は騎士団所属で昔から脳筋なので、頭脳労働時間とか、舌戦には向いていないのだ。
身分が上のものにここまで言われても、何もいいかえせずにさぞ悔しかっただろう。
「ハリボーテ伯爵令息、あなたがしてきたことは嫡男の立場を利用した妹へのパワハラだ。
当家はあなたに対して慰謝料を請求します」
エリオット君が兄に対して、ピシャリと言い放った。
慰謝料の請求がこたえたのか、兄はがっくりと肩を落とした。
エリオット君はかっこいい。
このパーティーの間に、私は彼に対して何度そう思ったかわからない。
可愛いだけの男の子だと思ってたけど、彼は公爵家の当主なのだ。
このような毅然とした立ち居振る舞いもできるのだ。
今後は子供扱いも程々にしないとな。
「……待ってアメリー!
家に帰って来てよ!
伯爵家の仕事が溜まっているのよ!」
彼らの元から去ろうとしたとき、義姉に呼び止められた。
「私はハリボーテ伯爵家と縁を切っています。
今の私は伯爵家とは無関係。
無関係な私が他家の仕事に口を出せるわけがありません」
この人は脳筋の兄よりもアホだ。
あなた方とは身分が違う、もう伯爵家とは関係ないと言っているのに、私のことを敬称も付けずに名前で呼んでいる。
「アメリー、そんなこと言わないで!」
彼女が私の事を呼び捨てにする度に、隣にいるエリオット君の額の青筋の数が増えていく。
「私はもうハリボーテ伯爵家とは無関係と言いましたよね?
私を呼び捨てにするのはやめてください。
今後、私の事はベルフォート公爵夫人とお呼びください」
これ以上、エリオット君の額の青筋の数を増やしたくないのだ。
「これ以上、妻の名前を呼び捨てにするのなら名誉毀損で訴えますよ!」
エリオット君が私の援護をしてくれた。
うんうん、義姉にはこれくらい言ってやらないと駄目かも。
名誉毀損の言葉を聞いて、流石の義姉も青ざめていた。
「伯爵家の仕事は、当主であるハリボーテ伯爵とその夫人、もしくは嫡男であるハリボーテ伯爵令息とその夫人であるあなたのお仕事です」
「義父も夫も騎士団のお仕事があるし、義母も領地経営のノウハウを知らないし、私は子育てが……」
「そんなのは私の知ったことではありません。
騎士団の職を辞して伯爵家の仕事に専念するなり、人を雇うなり、あなたが仕事を覚えるなりすればいいことでしょう?
それにあなた、私が伯爵家にいた時から子育てなんてしていませんでしたよね?」
甥っ子の世話を私に押し付けて遊びほうけていたくせに、どの口が子育てが忙しくて……なんて言うのか?
父と兄が騎士団の仕事を辞めるのは難しいだろう。
私がいなくなったことで伯爵家の領地経営がうまく行っていないはず。
そうなると、彼らの給料は伯爵家の貴重な収入源だ。
領地経営がうまく行ってない状況で、騎士団の仕事を辞めるのは得策ではない。
それなら母と義姉が、領地経営の仕事を覚えればいいだけの話だ。
仕事を覚える時間はたくさんあったのに、サボっていたのは彼女達だ。
同情する必要はない。
「参りましょう。
旦那様」
「そうだね。
アメリー様」
呆然とする彼らを残し、私達はその場をあとにした。
これで私をコケにしてきた人たちへの復讐は終わった。
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