第23話「エリオット君の友人」
「あなた方の先ほどの行為は、公爵夫人である妻を侮辱する行為だ!
作品を盗作されたというのなら、証拠があるんですよね?
証拠を出してください!」
エリオット君は、妹達への追求の手を緩めない。
「もちろんありますわ。
お姉様が自分の作品だと発表した刺繍は、私が旦那様に送った刺繍入りのハンカチと柄が似ていて、縫い方がそっくりですもの」
「俺がコンテストで賞を取った作品と、今日この場所に姉の名前で飾られている絵のタッチは同じです!
それが証拠です!」
「お姉さまが今日ご自分の名前で発表したお菓子は、私がレシピを考え、わたくしは自ら手作りして、パーティーに出したお菓子と同じ味ですわ!
私のパーティーに招待した方々に聞いていただければ、同じ味だとおっしゃるはずですわ!
それが証拠ですわ!」
「私も他の兄弟と同じ意見ですわ。
私がコンテストで賞を取った詩と、ここにお姉様の名前で飾られている詩は、雰囲気がそっくりです。
それが証拠ですわ」
四人とも自分の主張を曲げるつもりはないらしい。
そうでなくては困る。
「それはそうでしょう。
あなた方は私の作品を盗んで、自分の名前で発表していたのですから。
刺繍の縫い方が同じなのも、絵のタッチが同じなのも、詩の雰囲気が似ているのもお菓子の味が同じなのも当たり前です。
フシアナ伯爵夫人に至っては、私を伯爵家に呼びつけ、新しいお菓子のレシピを考えさせ、パーティー当日は一日私を拘束し、お菓子を作らせましたよね?」
「そんなのは言いがかりです!
第一、私達が盗んだという証拠がありません!」
ヘレナが私を睨みつけてきた。
他の兄弟もヘレナの意見に同意しているようだ。
はいはい、あなた方ならそういう反応してくると思ってましたよ。
「そうですか。
しかし、こちら側にも証人がいます。
妻がここに飾られている刺繍と、詩と絵を作った時、俺の友人と私の友人の使用人が立ち会っています。
もちろん今テーブルに提供されているお菓子を作る時も、私の友人と友人の使用人が立ち会っています」
ナイスフォロー! エリオット君!
でも私のことを「妻」って言う時、いちいち照れなくていいからね。
「そのご友人は信用できますの?」
「言いたくありませんが、ベルフォート公爵のご友人は、姉に誘惑され、適当なこと言ってるのではありませんか?」
「そうですわ!
そんな証言あてになりませんわ!」
「その友人をここに連れてきてくださる?
私達が嘘は良くないと説教してあげますわ」
妹たちはエリオットくんの友人が信用できないと言い出した。
なるほど、ここまで言われても罪を認めないわけね。
さて、これからどうしようかな?
やはり、皆の前で実演するしかないかな?
「そんな言い方されると困るな。
僕ってこの国じゃ信用されてないのかな?」
そこにエリオット君の友人が現れた。
彼は廊下で妹たちの夫や婚約者を足止めしていたはずでは?
エリオット君の友人の数メートル後ろに、妹たちの夫や婚約者の姿が見えた。
エリオット君のお友達&妹の夫君たち、ちょっと登場が早すぎるんじゃないかな?
妹の夫や婚約者には、妹たちが罪を認めた後に出てきて欲しかったんだけどな。
妹の夫達の顔を見ると、なぜか全員顔色が悪かった。
妹達を溺愛している彼らが、私が妹たちを断罪していると知ったら、すぐに私に食ってかかってくると思ったんだけど……様子がおかしい。
なぜ彼らはその場から動こうとしないのか?
「あなたがベルフォート公爵のご友人ですか?
姉に何を言われたか知りませんが、 姉の肩を持っても、いいことなんてありませんよ」
「姉の色仕掛けに誑かされ、姉に有利な証言をしているのなら、今のうちに白状した方がいいですよ」
「そうです。
私達は貴族家の嫡男の正妻。
私達を敵に回しても良いことありませんわよ」
「私達の夫を怒らせると怖いんですよ。
だからあなたも本当のことを言った方が身のためですよ。
若いからと言って嘘の証言をすることは許されませんから」
妹たちが口々にエリオット君の友人を責めた。
「エリオット君、君の友人を証人にしたのはまずかったかも?
まだ若い彼が、公衆の面前で大勢に責められたら……心に傷を追っちゃうかも?
彼、大丈夫かな?
泣いたりしないかな?」
正直、彼の証言が頼りなところもある。私としては彼に頑張ってもらいたい。
だがエリオット君と同じ年ぐらいの彼が、妹達に責められているのを見ていたら、可哀想になってきた。
「大丈夫です。
彼はこんなことではビクともしませんから。
それに彼の身分を知ったら、泣きべそをかくのは彼女たちの方です」
そう言ってエリオット君は黒い笑みを浮かべた。
彼がこういう顔をしているときは何かある。
妹たちの夫が大人しくしてるのも気になるし、エリオット君の友人って、もしかして私が想像しているよりもすごい人なのかな?
「旦那様、この小生意気な少年に何とか言ってやってください」
ヘレナがメンクーイ侯爵に向かって猫なで声を出した。
メンクーイ侯爵が、青い顔でヘレナのもとにすっ飛んできた。
「愚か者!
口を慎まないか!
この方を誰だと思っている!」
ヘレナの援護に来たのかと思われたメンクーイ侯爵は、ギロリと彼女を睨み、彼女の口を塞いだ。
「殿下、お許しください!
妻は世間知らずでして……!」
メンクーイ侯爵が弁明を始める。
ん、殿下?
今、メンクーイ侯爵はエリオット君の友達の顔を見て殿下って言った?
「まあ僕の顔を知らなくても仕方ないよね。
僕がこの国に帰ってきたのは半月前 だし。
前に僕がこの国のパーティーに出た時はまだ子供だったし」
殿下の言葉を聞いて、侯爵はホッとしていた。
「でも……」
王太子が言葉を続けたことで、侯爵の顔色はまた青ざめることになる。
「まさかこの国で、王太子である僕がこんなに信用がないなんて思わなかったな。
いきなり嘘つきだの、彼女の肩を持っても仕方ないだの、本当のことを言えだの、色仕掛にかかっただの、散々罵倒されちゃって、傷ついたなぁ」
殿下はニコニコと笑いながら話していた。
彼の笑顔は穏やかだった。しかし彼の背後から黒いオーラが漏れていた。
そのただ漏れたどす黒いオーラが、侯爵を始め周囲の人達を恐怖のどん底に突き落としていた。
こういう怒り方をするところは、エリオット君と似ている。
そういえばエリオット君の友人は、彼のいとこでもあったはず……?
エリオット君のいとこということは、彼の実姉であるロクサーヌにとってもいとこ。
そういえば彼女、王族に親戚がいるって言ってたな。
「エリオット君、君の友人ってもしかして……?」
私は恐る恐るエリオット君に聞いてみた。
「ハロルド・ガイアネス様。
この国の王太子です」
だよね〜〜〜〜。
やっぱりそうなるよね〜〜。
メンクーイ侯爵、フシアナ伯爵、ミエハリ子爵、ハリボーテ伯爵、彼らを足止めできる時点でただ者じゃないとは思ったけど……まさか王太子だったとは!
「メンクーイ侯爵、あなたの夫人はぼくの証言を信用できないようだ。
メンクーイ侯爵家の人間は、王族を信用してない、そう解釈してもいいかな?」
王太子の言葉には嫌味が含まれていた。
彼に睨まれ、メンクーイ侯爵はガタガタと震えていた。
メンクーイ侯爵も私の元婚約者だった。
彼は私への対応がとても悪かった。
なので今彼が王太子に睨まれて縮み上がってるところを見るのは、とても小気味が良い。
あーー私って性格悪いな。
「殿下、メンクーイ侯爵夫人だけでなく、フシアナ伯爵夫人も、ミエハリ子爵夫人、ハリボーテ伯爵令息も、あなたの証言に疑問を持っていたようですよ」
エリオット君が彼らをさらに追い詰めていく。
「あーそうだったね。
本当に僕ってこの国で信用ないんだね。
彼女達がそう言ったということは、夫や婚約者である君たちも同意見なのかな?」
王太子はそう言って、メンクーイ侯爵、フシアナ伯爵、ミエハリ子爵、グッズー男爵令息の顔を一瞥した。
殿下と目が合った彼らは顔面蒼白で、体を震わせていた。
メンクーイ侯爵、フシアナ伯爵、ミエハリ子爵は妻の元に駆けつけ、彼女たちの頭を無理やり下げさせていた。
グッズー男爵令息も婚約者のもとに駆けつけ、弟の頭を下げさせていた。
「殿下どうかお許しください!
妻はそういった意味で言ったのではありません!
もちろん私も王族に不満などつゆほども懷いておりません!」
「妻は証人が殿下だとは知らなかったのです!
私からよく言って聞かせますので、どうか御慈悲を!」
「殿下、カシウスは学校を卒業したばかりでまだ若く、世間のことを何もわかっていないのです!
このとおり謝罪いたします!
どうか、どうか……御慈悲を!」
知らなかったとはいえ、王太子である彼を嘘つき呼ばわりしたのだ。
謝罪しても許して貰えるとは思えない。
「だってさ、彼らはこう言ってるけど、エリオットはどう思う?」
「頭を下げられても許せませんね。
彼らは王族に盾突き、公爵家に喧嘩を売ったのです。
それ相応の償いをしていただかなくてはなりません」
そういった時のエリオット君の目は、目の力だけで人を殺せるんじゃないかってくらい怖かった。
そんな彼を見て私は、いつもの子犬のような彼とのギャップがたまらない! と思ってしまった。
私は彼のファンなのかな?
やたらと彼の一挙手一投足が気になってしかたない。
それともただ美少年が好きなだけ?
彼のいとこの王太子殿下もかなりの美形だが、彼のことはそんなに気にならない。
好みの違いなのかな? それともエリオット君が特別なのかな?
「それもそうだね。
謝罪してるのは夫や婚約者だけで、彼女たちは一言も謝っていないしね。
彼らはこう言って謝罪しているけど、夫人方はどう思ってるのかな?
自分たちの罪を認める気になった?」
王太子に問われ、侯爵や伯爵は自分の妻に「早く罪を認めろ! 殿下と公爵閣下に謝罪しろ!」と迫ったが、妹たちは「嫌です!」と首を横に振るばかり。
「ではこうしませんか?
彼女達が本当に自分で作品を作ったと言うのなら、同じものを今ここで作っていただけばいいのです。
詩だけは皆を唸らせるような新作を作っていただきますけどね」
事態が動かないので、しびれを切らしたエリオット君がそう提案した。
まあ、結局はそうするしかないよね。
「アメリー様、準備はよろしいですか?」
これは妹達が罪を認めなかった時の最終手段。
名付けて、四の五の言わせないようにみんなの前で実力を見せつけてやればいいんだよ作戦!
「裁縫道具と、絵の道具と、紙とペンと、お菓子の材料と道具を用意していただければ、今すぐにでも取り掛かりますわ」
私はエリオット君の問いににっこりと答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます