第16話「花言葉」エリオット視点
エリオット視点
ガゼボにはアメリー様の手作りのお菓子が用意してあった。
「そうだせっかく作ったんだからお菓子食べて、エリオット君は甘いもの嫌いじゃないよね?」
「大好きです!」
俺はお菓子ではなく、彼女の目を見て伝えた。
アメリー様への思いが溢れ、口から漏れてしまった。
俺の気持ちが彼女にバレてしまったのだろうか?
だがそれは杞憂に終わった。
彼女は俺の言葉を全く気にする様子はなかった。
少しは自分のことを言われたのかと気にしてくれればいいのに……。
彼女が俺のために作ってくれたお菓子は、マカロン、カヌレ・ド・ボルドー、オランジェット、フォンダン・オ・ショコラ、タルト・タタン、シャルロット・オ・フリュイ……全部俺の大好物だった。
俺は誕生日と女神の生誕祭が一緒に来たような喜びに包まれていた。
感激のあまり、お菓子に手をつけられなかった。
アメリー様が俺のために作ってくれたお菓子だ!
全部冷凍保存しておきたい!
一生残しておきたい!
あー、でも一口ぐらいは食べたい!
俺の中で保存しておきたい気持ちと、食べたい気持ちが揺らいでいた。
そんな俺を見かねて、彼女は俺の口にタルト・タタンを放り込んでくれた。
りんごのシャキシャキとした食感が口の中いっぱいに広がる。
今……! 彼女に「はいあーん」をされてしまった!
うわーー! うわーー! うわーー!!
どうしよう! どうしよう! どうしよう!?
嬉しさと混乱で頭がどうにかなってしまいそうだった。
その後も彼女は俺の口に食べ物を運んでくれた。
この世に生まれてきてよかった!
彼女と結婚してよかった!
俺はずっと感激しっぱなしだった。
お菓子でお腹がいっぱいになった頃、彼女は俺の前に二つの箱を置いてくれた。
お菓子の他にもプレゼントがあるなんて!
俺は十年分の誕生日が一度に来たような喜びに包まれていた!
彼女が俺にプレゼントしてくれたのは
、三輪の赤い薔薇が刺繍されたハンカチと、ピンクの胡蝶蘭が描かれたしおりだった。
彼女のプレゼントを見た時、俺の胸はドキドキと早鐘のように鳴っていた。
結婚した後、俺は花言葉について勉強した。
可憐なアメリー様に、花束をプレゼントしたいと思ったからだ。
でも「失恋」とか「疑惑」とか「別れ」とか「愛の終わり」とか……そんなネガティブな意味の花言葉を持つ花を、彼女にプレゼントしたくなかった。
だから彼女には「愛してます」という花言葉の真っ赤な薔薇や、「真実の愛」という花言葉の赤いチューリップを送ることが多くなった。
彼女が刺繍してくれた赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛しています」、薔薇の花三本の花言葉は「愛しています」と「告白」
ピンクの胡蝶蘭の花言葉は「あなたを愛しています」
好きな人から、こんな花言葉を持つ刺繍や絵をもらったら、ときめかない男はいないだろう。
俺は意を決して彼女に聞いてみた。
「あのアメリー様!
赤い薔薇の花言葉と、ピンクの胡蝶蘭の花言葉をご存知ですか?」
彼女から返ってきた言葉を聞いて、俺はがっくりと肩を落とした。
「花言葉? 何それ美味しいの?」
アメリー様が花言葉の意味どころか、花言葉自体を知らなかったなんて……!
期待した分だけショックが大きかった。
今まで俺が送った花束の意味も、彼女は気づいていないんだろうな。
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