第33話「ルビーのついたペンダント」
アメリー視点
エリオット君とバルコニーでちょっとだけイチャイチャしたパーティー会場に戻ってきた。
なんたって今日のエリオット君はパーティーの主役、彼が長い間席を外すわけにはいかない。
「ベルフォート公爵こちらにいらしたのですか。
実は先ほど説明した新商品について折り行ってお話しがありまして、お時間を取らせませんので二人で話せませんか?」
エリオット君がパーティー会場に戻ると、すぐに貴族に話しかけられた。
「カルディス伯爵、今その話は……」
私はエリオット君の服の裾をちょいちょいと引っ張った。
「私は大丈夫だから行ってください。
旦那様」
会場内に一歩足を踏み入れたら、エリオット君のことは旦那様と呼ばなくてはいけない。
「すぐに戻りますからここにいてくださいね。
絶対に一人でバルコニー行ったり、部屋を出たりしないでくださいね」
エリオット君に念を押されてしまった。
私は待てができない仔犬か?
しかし先ほども、「飲み物を取りに行くから待っていてくださいね」と言った エリオット君の言葉を無視して、バルコリニーに行って、令嬢に絡まれていたのだから文句は言えない。
「もちろんです。
旦那様」
私は笑顔でエリオット君を見送った。
それにしても人が多いな。会場にいるだけで疲れてしまう。
「ベルフォート公爵夫人、これを落としましたよ」
疲れてたから油断していた。
先ほどのイヤリングを落としたので、また何か落としてしまっただろうかと、私は全く警戒せずに振り返った。
「まあそうでしたか、これはご親切に……」
声をかけてきたのがイリオス侯爵令嬢だと気づいたのは、彼女の手の中で光るルビーのペンダントを見た後だった。
イリオス侯爵令嬢はまだ帰ってなかったんだ。
エリオット君にあれだけ言われたのに帰らないなんて、図太い性格をしているな。
彼女には色々言いたいことがあるけど、頭がぼんやりして思考がはっきりしない。
彼女の顔を見ると、彼女はまた焦点のあってない虚ろな目をしていた。
「さあ私と一緒に参りましょう。
落としたはずみでペンダントが傷ついたかもしれません。
一緒に専門の方に見ていただきましょう」
イリオス侯爵令嬢が私に手を差し出した。
「ええ、わかりました……」
私の体を誰かが乗っ取ったみたいな感覚だった。
絶対に行ってはいけないと頭ではわかってるのに、体が言うことを聞かない。
口が勝手に動いて、了承の返事をしていた。
体が勝手に動いて、彼女の手を掴んでいた。
私はイリオス侯爵令嬢に手を引かれ、会場を後にした。
ごめんねエリオット君。
ここで待ってるように言われたのに、約束を守れそうにないよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
イリオス侯爵令嬢に導かれるままにやってきたのは、広間と同じ階にある控室だった。
控室には一人の少年がいた。
少年はカラスのように真っ黒な髪、燃えるような赤い瞳、綺麗に整った顔をしていた。
少年の年齢はおそらく十六歳ぐらいだ。
彼は黒の燕尾服を着ていたので、始めはボーイかと思った。
「ようやく会えましたね。
アメリー様」
少年は整った顔でニコリと微笑んだ。
彼は私のことを知っているようだ。
私は彼に会ったことがあるのだろうか?
問いただしたいが、言葉を発することができない。
「さあ私と一緒に、楽しい世界に行きましょう」
少年が私に手を差し出した。
頭ではダメだとわかっているのに、体が言うことをきかない。
私は差し出された少年の手を握っていた。
「イリオス侯爵令嬢、君はもう用済みだ。
消えていいよ」
そう言って少年はイリオス侯爵令嬢からルビーのついたペンダントを取り上げると、指をパチンと鳴らした。
少年が指を鳴らした瞬間、イリオス侯爵令嬢は糸が切れた人形のように、その場にバタリと倒れた。
彼女も少年に操られていたようだ。
「この屋敷は騒がしい。
もっと人のいない静かなところに行きましょう。
そして僕と一緒に暮らしましょう」
少年は私の手の甲にキスをした。
気持ち悪い……!
勝手にキスをしないでほしい……引っ叩いてやりたいが、体が動かない。
誰なんだ、この少年は?
この少年は私に執着してるようだけど、私はこの少年と面識がない。
私が忘れてるだけでどこかで会ったことがあるのだろうか?
「あなたは今日のパーティーの主役であるベルフォート公爵のパートナー。
そのあなたをそのままの姿で、ここから連れ出すのは難しい。
なのでちょっと窮屈ですが、この中に入ってくださいね」
少年は麻袋を取り出し、私の頭から被せた。
私の全身はすっぽりと麻袋に追われてしまった。
少年は私の足元で縄を縛った。
これでは何も見えないし、身動きが取れない。
「目的地に着いたら出してあげますからね。
それまで眠っていてくださいね」
少年がパチンと指を鳴らす音が聞こえた。
私はそのまま意識を手放した。
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