第32話 再始動

 俺には特殊犯罪独立捜査機関の長という公務があった。

その地方巡察は避けては通れない仕事だった。

となると、領地に張り付いて政務を司るなどという暇は存在していない。


「代官を置く必要がある」


 そして元サルガド邸を切り盛りする人物も必要だった。

未だサルガド男爵の影響が残っており、俺が領地を離れれば館の使用人の掌握もままならなかった。

その屋敷ごと掌握し代官も出来る、そんな人物に俺は心当たりがあった。


「ロイド、頼む」


「またエル様のお役に立てるとは、このロイド感激でございます」


 公爵邸で俺専属執事だったロイドだ。

彼を公爵領から呼び寄せて代官と屋敷の掌握を頼んだのだ。

まさに適役、任せて安心の人選だった。


 彼には特別な野菜の栽培も頼んでおいた。

トマト、トウモロコシ、ジャガイモ、この世界では全く目にしない野菜の種をロイド渡す。

ああ、ジャガイモは種芋だな。

たしかこれらは原産地が南米なんだよな。

元の世界でも、元々欧州には存在しなかった野菜たちだ。

それらが同様にこの世界のこの大陸には存在しなかった。

これらが王都に出回れば、爆発的な人気を集めるに違いない。


 この大陸に存在し流通している野菜でも美味しい品種の種を提供しておく。

キャベツ、カボチャ、ニンジン、キュウリなど味や栽培難易度が違いすぎるのだ。

病気耐性もあるらしいぞ。


 そして、本命。

メロンとスイカの試験栽培を命じておいた。

あの元世界レベルの果物を生産するのは、その技術含めて大変だろう。

とりあえずは味を知ってもらってから、摘果など生産技術を養ってもらいたい。


 ◇


 というわけで、俺たち特殊犯罪独立捜査機関は、河を南下し港湾都市アケーリアルを目指す。

王家御用達の河船の船頭にはルディが就くことになった。

もはや、その船は俺たち特殊犯罪独立捜査機関専用船と貸していたのだ。

元の船会社も、長く運航中止となって扱いに困り、ならばと王家に献上したというわけだった。

献上というと贈り物をして損をしているかに思うかもしれないが、大抵はそれに見合う返礼が行われる。

手っ取り早いのが金銭だ。

なので船会社が損をしたわけではない。


 ルディには水運王になってもらうつもりだった。

だが、そこで隣国ルーテリアの国境警備隊とのトラブルの件が、問題となってしまったのだ。

ルディはルーテリアの国境警備隊員を殺していなかったが、カレンが殺しまくっていた。

生き残った国境警備隊員は、自分たちを攻撃したルディの顔を目撃していた。

カレンと関わった者は死んでいるため、必然的にルディの目撃証言だけが集まる。

となると、殺ったのもルディだという結論に至る。

これにより、ルディが賞金首となってしまったのだ。

原因はカレンに――いや、俺たちあった。

なので、ルディも特殊犯罪独立捜査機関の所属としたのだ。

数少ない海事事件担当だな。


「では、出発するぞ」


 ルディの口調はおいおい直していくとして、俺たちはやっと河を南下しはじめた。

ルーテリアの勢力圏外に出れば手出しは出来ないだろう。


 ◇


「寄港地に着いたぞ」


 テラスター子爵領元サルガド男爵領から最初の寄港地に寄る。

今まではスルーして来たが、その領地を支配する貴族が身内や領民に凶悪犯の転生者を抱えていることがあるのだ。

それを身をもって知ったのがサルガド男爵領だった。

貴族自身にも転生者にも問題があったのだ。

そんなことがあると、時間が掛かるからと言ってスルーするわけにはいかなくなったのだ。


「ケイマン男爵領です。

鉱物資源を輸出しています」


「錬金術師が多い領地か」


 鉱山から鉱石を掘るのは主に犯罪奴隷の仕事だった。

そして、領民は比較的安全なその鉱石を仕分ける作業に従事していた。

その仕分けられた鉱石は錬金術師により精製されてインゴットとなるのだ。

元世界では溶かして分離抽出するという工程が必要だが、さすが魔法世界、その工程を魔力で解決していた。


「さて、何がでてくるかな?」


 俺は【凶悪犯探知】を使った。


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