第6話 ジェイソンを探る2

 次の休みの日。

俺はジェイソンの案内でちょっと治安の悪い場所まで来ていた。

ジェイソンは家名不詳の馬車で俺を案内していた。

それだけでも怪しさ満点だ。


「例の奴隷に合わせてくれるのではなかったのか?」


「いや、そこは実践あるのみです。

今から向かうのは奴隷商ですよ。

これよりエルリック様をエル様とお呼びさせていただきます」


「ああ、構わんよ」


 場所が場所だけに本名を呼ぶのは憚られるということか。

俺の予想とは違う方向に事が動いていた。

だが、ここで拒絶などしては、これまでの苦労が水の泡だった。


「こちらです」


 そして、奴隷商へと到着する。

この世界では奴隷の所持は違法でも何でもない当たり前の行為だった。


「これは坊ちゃん、良い奴隷が入ってますよ」


 奴隷商の主人がジェイソンに愛想を振り撒いて接客する。

どうやらジェイソンはここの常連のようだ。

こういった情報を得たかったのだが、情報ギルドからは何の報告も上がって来ていなかった。

どうやら情報ギルドはこれを当たり前の行為と見做してスルーしていたようだ。

この世界の常識が邪魔をしていた良い例だった。


「今日は、友達にここを紹介しようと思って連れて来たんだ。

良い奴隷がいるならば、見繕って欲しい」


「お任せください」


 そして、俺たちは舞台のついた応接室に通された。

どうやらジェイソン基準に合致する奴隷を見繕っているようだ。


「今から奴隷商が奴隷を連れて来て舞台の上で披露します。

そこから好みの子を選んでください」


「お、おう」


 何やら俺はジェイソンからロリコン仲間と認識されているようだ。


「お待たせしました。

極上の奴隷をご用意させていただきました」


 奴隷商が5人の奴隷を連れて出て来た。

全員幼女、全員容姿端麗、しかも全裸だった。

そこには隠すものなど何も無かった。


 これは児ポ、犯罪!

という前世の常識が脳裏に浮かび上がるが、この世界ではこれは合法だった。


「まだ何にも染まっていないこの子たちを淑女に育てるのですよ」


 いや、この扱いだけで何かに染まってそうだけど?

これ買ってしまったら、俺もロリコンだろうよ。

12歳男子には気が重い選択だった。


 だが、ここで引いてはジェイソンを探れなくなる。

潜入捜査というものがあるし、俺も同じ土俵に立たなければ、手に入らない情報もあるだろう。

苦渋の決断だった。

俺は幼女奴隷を買うことを決意した。

なに、奴隷の1人や2人、買うだけの小遣いは貰っている。


 買うとなれば真剣に選ばねばならない。


「(【鑑定α】)」


 俺は心の中で【鑑定α】の使用を念じた。

【鑑定α】は、何も凶悪犯の犯罪歴だけを調べるスキルではない。

この場では、奴隷たちのステータスを調べることにも使用している。


1人目 人種:人族(ヒューマン) 年齢:10歳 性別:女 職業:村人 レベル:1 スキル:生活魔法 炊事洗濯


 容姿以外はこれという所が無い生粋の幼女だった。

何にも染まっていないという条件にはピッタリだろう。


2人目 人種:獣人族(猫族) 年齢:10歳 性別:女 職業:狩人 レベル:3 スキル:弓術 生活魔法


 猫獣人だ。

まだ子猫っぽく毛がフワフワしている。

めちゃくちゃモフりたい。

思わず何かに目覚めそうになる。

俺ってこっち側の人間だったのか。


3人目 人種:人族(ヒューマン) 年齢:11歳 性別:女 職業:凶戦士 レベル:5 スキル:剣術 バーサーク 前世犯罪歴:殺人


 あ、凶悪犯の転生者みつけちゃった。

それはキリッとした容姿端麗の女戦士だった。

あの刑務所、男ばかりだったよね?

つまり、転生にあたってTSしたってことか?

そんなサービスあったの?

これは世に放つわけにはいかない。

幸い奴隷契約で縛られているから、主人が犯罪を命じなければ凶悪犯罪に手を染める事も無いはずだ。

だが、買った主人が犯罪者ならば、手先として凶悪犯罪に手を染める事だろう。


「この子買う」


「まいどありがとうござます!」


 俺の物言いがまだ買いそうな雰囲気だったため、奴隷商のテンションが上がる。

この後の2人も転生者かもしれないのだから、俺が買う気を見せるのも当然だろう。

その確率は低くないと思ったのだ。

本人に何らかの瑕疵があったから奴隷として売られた。

犯罪傾向があれば猶更だろう。

そういった転生者がまだ居るかもしれなかった。

特に同年代前後を集めたために、遭遇率が上がっている可能性が高い。


 そして俺は、重要な項目に気付いていた。

彼女の年齢が11歳だったのだ。

つまり同年代には誕生日を迎えていない年下が含まれる。

お披露目舞踏会はその年に10歳になった・・・貴族子女が呼ばれていた。

つまり、まだ10歳になっていなかった同年代が来ていなかったのだ。

そこにはまだ凶悪犯の転生者が含まれているかもしれなかった。


4人目 人種:エルフ族(ハーフエルフ) 年齢:127歳 性別:女 職業:精霊術士 レベル:17 スキル:精霊魔法 隠蔽術


 ハーフエルフだった。

しかも隠蔽術でステータスを書き換えていると思われる。

俺が使ったのが【鑑定α】だったから見破れたのだろう。

所謂ロリババアというやつだった。


「この子、ハーフエルフだよ?」


「まさか!」


 奴隷商での【鑑定】では10歳のヒューマンだったらしい。

それで混ざったのだろうが、自分を安く見せて何がしたかったのだろうか?

潜入? それもジェイソンの伯爵家に?

ちょっと怖い人材だった。


5人目 人種:人族(ヒューマン) 年齢:12歳 性別:女 職業:村人(貴族子女) レベル:5 スキル:火魔法 (回復魔法)


 んん?

ステータスの(貴族子女)(回復魔法)って何?

エルフの時よりも強い隠蔽が外部からかけられている?

これは犯罪の臭いがする。

どうする、俺の中の正義では助けるべきなんだが……。

さすがに見捨てられないな。


「この子も買う」


「2人も買うなんてエル様、さすがです。

しかも趣味が良いですね」


 エル様というのは俺の素性を隠すための呼び名だ。

それにしても、なぜ幼女を2人も買うはめになっているのだ?

凶悪犯の転生者よりも先に俺が犯罪を犯しそうだぞ。

いや、それは前世の価値感であって、ロリ奴隷購入は全て合法なんだよな。

犯罪かどうかは今後の行いが決めるのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る