第5話 ジェイソンを探る1
ジェイソン・フォン・アドラム、彼が凶悪犯の魂を持つ転生者だということが判明していた。
その彼に監視を付けるのは不可能に近かった。
俺が有無を言わさずに使える使用人などほとんど居ない。
彼ら使用人は公爵家に雇われており、公爵家の意向に沿って俺の世話をしているに過ぎないのだ。
つまり、その使用人に他家の男子の監視をさせるなど出来はしないのだ。
となると、金で誰かを雇って監視させるしかない。
俺の小遣いの範囲でだが、さすが公爵家、人を雇えるほどに自由な金があった。
世には情報ギルドというものがあって、情報を買うことが出来た。
だが、貴族子弟の監視など出来る立場の者などそうそう居なかった。
「彼が誰かと接触するところを監視し報告して欲しい」
「貴族家の内部はさすがに探れやしません」
当然だった。
「では、彼が何か不祥事を起こしたとしたら、その情報は手に入るか?」
「その程度のゴシップならば、伝手があります」
「それで頼む」
その程度しか出来なかった。
「〇〇家の子女に言い寄り、出禁をくらったそうです」
「△△家の子女に言い寄り、出禁をくらったそうです」
そんな報告が上がった後、パタリと何も報告されなくなった。
おそらく、ジェイソンがどこの貴族家からもお茶会のお呼びがかからなくなったのだろう。
この世界、10歳程度の貴族の子が外部と接触する機会など、そうそうあるものではなかった。
お茶会に呼ばれる、その程度でしかない。
そこに評判が悪くて呼ばれなくなれば、ゴシップも起きようがなかったのだ。
そして、俺もそんな彼の情報を得られぬまま、月日が経っていった。
まあ、情報が無いということは、ロリコン犯罪が起きていないということだ。
捕まえるなり処分するなりする必要もなかったのだ。
◇
次にジェイソンの存在を把握したのは貴族学校に入学する12歳のことだった。
あのお披露目舞踏会にやって来た半数ほどが貴族学校に入学して来ていた。
半分なのは、地方貴族は地方の教育機関に入学するなり、家で教育されるからだった。
それは物理的な距離が問題なので、仕方がないことだった。
そして、王都の貴族学校に入るにはそれなりの資金が必要だった。
ジェイソンはあれでも伯爵家5男なので、しっかり王都の貴族学校に入学して来ていた。
俺は生徒会に入り、そこで風紀委員をすることとなった。
公権力のある犯罪取り締まり組織に初めて所属したのだ。
これでジェイソンの尻尾を掴める、そう思っていた自分が間違っていたことに気付くのには、そんなに時間がかからなかった。
「先輩、こんなことは頻繁に起こるのですか?」
「まあ、男女の諍いなんて良くある事さ」
男爵家の女生徒が伯爵家の男子生徒に手籠めにされた事件だった。
それも犯人はジェイソンではない。
そして、風紀委員会であっても手出しの出来ない案件だった。
男爵家子女の名誉の問題、そして伯爵家の権力、それにより事件は裏で手が回り、無かったことになるのだ。
この程度では取り締まることすら出来なかったのだ。
もしも、ジェイソンがロリコン癖を発症し女生徒をどうにかしたとしても、それは闇に葬られてしまうことだろう。
むしろ、この世界では良くある話の範疇だった。
「どうすれば良いんだよ!」
俺はジェイソンという凶悪犯の転生者を見つけても、手出しすることすら出来なかった。
「やつと友達になって、もっと情報を得るか?」
それしか俺にはやりようがなかった。
◇
ジェイソンはチャラいがイケメンだった。
お茶会出禁は女子側の親の意向であり、女子たちには人気があった。
その女子人気をジェイソンは謳歌しているようだ。
「エルリック様、どうして俺なんかと付き合うんですか?」
「それはジェイソンが女子にモテるから、その秘密を探りたいからさ」
「また、ご冗談を」
付き合ってみると、ジェイソンは気の良いやつだった。
そして、女子にモテるのは俺も同じだった。
俺は公爵家の公孫なので、地位もあり顔を良い。
結婚相手として狙うならば、格好のターゲットだったのだ。
言い寄る女子に不自由などしないが、俺は全員を相手にしていなかった。
「でも、彼女たちはだめです。
ガツガツしすぎなんですよ。
もっとこう、
そこにロリコン趣味が出ているが、俺も概ね同意だった.
前世ではあれだが、ジェイソンはこの世界では結構まともな方だった。
あれ? これは更生しているのでは?
そう錯覚するほどに、ジェイソンはこのに世界に順応し、まともに生きていた。
「俺もそんな
「さすがエルリック様、良くお分かりで」
そう言うとジェイソンが少し口籠った。
そして、何かを決意すると、話し始めた。
どうやら俺の努力が実って、俺を友と信用したようだ。
「実は私は家に奴隷を所持し、淑女となるように育てております」
それは究極のロリコン、好みの女性を一から育てるという光源氏計画では?
この男、この世界で合法的にロリコンを満喫している?
それを知るためには、俺も一歩踏み出す必要があった。
「それは素晴らしいな。
ぜひとも紹介して欲しいところだ」
「では、次の休みの日にでも」
俺はまるで自分がロリコンになったかのような錯覚に陥っていた。
だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
これが何かの突破口になるはずだった。
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