第4話 お披露目舞踏会

「アレスター公爵家エルリック・テラ・アレスター公孫殿下、ご入場です」


 案内人により俺の名前が呼ばれる。

アレスターはこの国の名前と同じで、公爵家が王家の分家である証だ。

つまり、この国はアレスター王国になる。

だが王家との違いも示さなければならない。

それがミドルネームのテラだ。

縮めてテラスターと呼ばれることもある。


 ちなみにルナとマーズという公爵家もある。

縮めてルナスターにマズスターね。

王家はこれがサンになる。

俺にとっては、とても聞き覚えのある響きだ。

あ、王家は縮めてはいけない。

そのままアレスターになる。

しかも、縮めると歯磨き粉っぽくなるから禁止な。


 俺の入場に視線が集まる。

この年代で3人しかいない王家の血筋だからだろう。

見定めようと躍起なのだろう。

女子は結婚相手として、男子はそのライバルとして。

ちなみに、王家の血筋の1人には、この後に呼ばれる本命の所謂王子様がいる。


「アレスター王家デイヴィッド・サン・アレスター王孫殿下、ご入場です」


 そう、王孫殿下だ。

現王の弟が俺の祖父になるから、俺のハトコにあたる。

デイヴィッドも沢山いる王子の子という、その他大勢組なので、あまり良い扱いではない。

むしろ次期公爵の長子である俺の方が表舞台に立つ機会が多いことだろう。

それでも王位継承権では俺よりもデイヴィッドの方が上の存在だった。

だから女子たちに狙われるのだ。


 もう1人のマズスターの公孫(女児)は今回は欠席らしい。

というか、お披露目で顔を出さないと、一生合わない貴族の子が出るよな。

まあ、そんな地方貴族のことなんて気にもしてないのかもしれないけどね。

さすがに、他家のことなので理由は知らん。


 俺は自分に注目が集まっていることを良いことに、【凶悪犯探知】を使った。

ここには貴族子女が100人ぐらい居るだろうか?

少なく感じるかもしれないが、騎士爵含めた貴族家全てにこの年代の子供がいるわけではないので、この年代だけを集めるとそんなものなのだ。

その全員にスキルを使ってみた。


 そして見つけた。

見つけてしまった。

凶悪犯の転生者を。


 それはチャラそうな赤髪の男の子だった。

下級貴族の子女と思われる女児に言い寄っていた。


「まさか……」


 俺はそのチャラ男に【鑑定α】をかけた。

通常の鑑定と違い、その凶悪犯の魂が持つ犯罪歴を調べることが出来るスキルだ。


『犯罪歴:幼女誘拐殺人、不同意性交』


 生粋のロリコンだった。

しかも性犯罪寄りの。


「うわ、マジか……」


 それを知ったことで、チャラ男の行動が理解出来た。

ドストライクの女児に本気で言い寄っていたのだ。

だが、これはまだ・・犯罪でない。

この御披露目舞踏会の目的が結婚相手を見初めることでもあるため、この行為はむしろ推奨されているものなのだ。


「やっかいな」


 この後、延々と自己紹介される中で、その赤髪チャラ男の名前を覚えた。

ジェイソン・フォン・アドラム、アドラム伯爵家の5男だった。

5男ともなると、家は継げない穀潰し扱いだ。

となると他家に婿養子に入りたいところだろう。

そのために必死になっているという構図では、そこにロリコンという犯罪的な要素は成立しなくなる。

この世界、10歳ぐらいでの婚約は当たり前だった。

積極的なのは偉いとまで言われてしまうことだろう。


「泳がすしかないのか」


 ここでジェイソンを殺したら、俺が異常者の凶悪犯になる。

元世界でジェイソンが凶悪犯だっただなんて理由にもならない。

ジェイソンが大きくなり、まだ幼女に関心を示し、そして犯罪に走ったならば、捕まえられもしよう。

そうなった時に捕まえられるように監視するしかない。

犯罪行為がなければ取り締まれもしないし、俺がその取り締まる立場に居ないとならない。


 それが出来るのは警察機構だが、この世界でそれは衛兵隊となる。

だが、それだと貴族を取り締まれない。

女神め、そんなに簡単には凶悪犯を処分だなんて出来ないぞ?

どうすれば良いというのだ。


 今後は市井に出て凶悪犯の転生者も探さないとならない。

さらに他国に居たらどうすれば良いのか?


「女神様、丸投げが過ぎるんじゃないですか?」


 凶悪犯を倒すためのチートスキルはいっぱいもらった。

だけど、それを使える環境がまるで準備されていない。


「俺が殺人犯になったのでは元も子もない」


 貴族も裁ける大掛かりな凶悪犯取り締まり組織を作らないとならない。

まだ10歳の俺にはハードルが高すぎだ。

いったい何年越しの仕事になるのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る