第3話 転生
自分が転生者だと俺が思い出したのは10歳の誕生日のことだった。
俺は公爵家の長子として何不自由なく暮らしていた。
産まれる家が良いということは、それだけ生存率が高くなる。
そこは有難いことだった。
祝福の世代、そう呼ばれた俺たちの世代は特に秀でたスキルを持って生まれていた。
その理由は転生者が強力なスキルを持っていたからなのだ。
自分が転生者だと、なぜ今になって思い出したのかというと、前世の記憶が幼年期の成長に悪影響を及ぼす危惧で、今まで封印されていたからのようだ。
確かに、大人の人格のまま幼児として過ごすのは苦痛だろう。
その異常行動から悪魔が憑いたなどと思われて処分されても困る。
なので多少は分別のつく年齢まで、その記憶は女神に封印されていたということらしい。
そこらへんの知識は女神が記憶に植え付けてくれていた。
そこに残っていた女神の言葉がまた異常だった。
俺はこの世界に転生した凶悪殺人犯を処分する指示を女神から受けていたのだ。
「マジか。
祝福の世代に凶悪犯が転生しているだと」
記憶によると、祝福の世代全員が凶悪犯ではないらしい。
その中から凶悪犯を見つけ出して処分するのが俺の任務だった。
処分と言っても「こいつは凶悪犯の転生者です」と殺し回っていたら、俺が殺人鬼として処罰を受けることになるだろう。
まったく、女神はそこらへんを何も考えていなかったらしい。
つまり俺は、今後の人生で、凶悪犯たちの犯行を押さえ摘発する側にならなければいけないのだ。
そんな組織が存在しなければ立ち上げからになる。
いったい何年かかることやら。
とにかく自由に捜査摘発が出来る立場にならなければ、何もすることが出来ない。
さて、どうしたものか。
10歳の貴族子弟に出来ることなど限られている。
それが実家の公爵家の権力を使ったとしてもたかが知れていた。
公爵家の領地内であれば多少の融通は利くかもしれないが、俺は現在公爵家の王都屋敷に住んでいる。
そこは王家のお膝下、公爵家といえども勝手な事が出来るわけがなかった。
「エルリック、何をしている?
今日はお前たちのお披露目舞踏会の日だぞ?」
次期公爵家当主である、俺の父親が慌てて俺を呼びに来た。
現公爵は俺の祖父であり、父は後継ぎとして任命されている立場だった。
俺などただの公爵の孫で、何の権力も無い立場だった。
そんな知識があるのも、10歳までのびのびと育ってくれたおかげだろう。
今の俺には前世の記憶と10歳までのこの世界で生きて来た記憶がある。
おかげで読み書きもこの世界に対する一般知識もきちんと備えていた。
「父上、既に準備は出来ております」
そんなもの、自分で準備するわけではない。
スケジュール通りに召使が動くのだ。
俺は立派な服を着せられ、この部屋で呼ばれるのを待っていたのだ。
つまり、俺が遅れたというよりも、父親が呼びに来るのが遅れたということだ。
「早く馬車に乗れ!
遅刻するのも限度があるのだ」
公爵家ともなれば、遅くなっても文句は言われない。
だが、王家よりも遅くなるのはまずい。
それを父親は危惧しているのだろう。
だったら、さっさと呼びに来れば良いものを。
この父親、けっこう抜けているところがある。
俺の地盤を固めるべき父親がしくじっては俺の代が困る。
頑張って欲しいところだ。
馬車は公爵家王都邸を出て、直ぐ傍の王城へと向かった。
爵位が王城からの距離を表しているので、王家とは近所だった。
そもそも公職家とは王家の分家にあたる。
祖父が王位継承権を何番目かに持っているぐらいだ。
俺はさすがに圏外だけどな。
現国王様は子供や孫が多すぎるんだよ。
◇
馬車が王城の正門に着くと、公爵家の紋章が威光を発揮し入口は顔パスで通れた。
そして、馬車はそのまま王城入口のエントランスに横付けした。
そこで父親と一緒に馬車を降りると、大広間横の公爵待機室に入る。
この後、名前が呼ばれるまで待機しなければならない。
既に下級貴族は名前を呼ばれている。
だが、公爵家となると王家の前になるため、呼ばれるのは案外遅い時間となるのだ。
その分遅刻しても問題ないというのが、まさに権力のおかげだな。
「今回の舞踏会は同年代の貴族子女が集まるお披露目会だ。
公爵家として恥をかくでないぞ」
どうやら父親の方が気負っているようだ。
こんなつまらない催し、早く終わってしまって欲しいのに。
いや、待て。
同年代が集まるということは、その中に凶悪犯の転生者が混ざっているかもしれないということか?
俺が持っているスキル、【凶悪犯探知】。
これにより凶悪犯が転生した人物を知ることが出来る。
ただし、直接目を合わせる必要がある。
今回の舞踏会は今年10歳を迎えた貴族子女が地方からも集まって来ている。
つまり貴族に転生した凶悪犯はこの中にいるということだ。
その凶悪犯の転生者を特定する絶好の機会なのではないだろうか?
もしもこの中に凶悪犯がいるのならば、名前ぐらいは把握しておかないとな。
まだ10歳で犯行が不可能でも、注目しておけばそのうち何か兆候が表れるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。