第2話 リクルート

「はあ? 女神? 異世界に転生させてくれる?

俺が何をやってムショに入ってるか知ってるのか?」


「はい、殺人事件ですわよね?

大丈夫です。

殺せば殺すほど評価される職業が私の世界にはあります。

その殺しの技術を国を護ることに使ってください」


「おお、そうか。

ならば頼むわ。

どうせ死刑を待つだけだったからな」


 凶悪殺人犯が転生する。


「はあ? 女神? 異世界に転生させてくれる?

俺が何をやってムショに入ってるか知ってるのか?」


 このやりとり、何度やっただろうと女神は溜息を吐いた。

だが、笑顔で受刑者に対応する。

何と言っても彼らの更生値はプラスなのだ。

捕まり刑に服すことで悔い改めた者たちなのだ。


「はい、幼女誘拐ですわよね?

大丈夫です。

私の世界では結婚に年齢制限はありません。

恋愛の結果、幼女を娶っても誰も文句を言いません。

つまり誘拐しなくても合法的に幼女を愛することが出来ます。

一夫多妻でもあるので、その愛を幼女たちに注いてあげてください」


「おお、そうか。

ならば頼むわ。

どうせ終身刑で一生娑婆には出れなかったからな」


 幼女誘拐殺人犯が転生する。


「はあ? 女神? 異世界に転生させてくれるの?

ふーん、それも良いかもな」


 珍しい反応に女神は「あれ?」と思うが、素直に転生するというのも有りかと納得する。


「あなたの犯罪はスキルとなってあなたを補助します。

どうか良い方向に使ってください。

えーと、他人に罪を擦り付けた?

その他多数?

スキルの数は上限があります。

こちらでいくつか見繕っておきます」


「そうなの?

よろしく。

そろそろあの嘘がバレそうだったから良かったかもな」


 強盗傷害殺人ほう助犯が転生する。

こういったやり取りを女神は延々とやって来たのだ。

更生を望む命は女神の世界を豊かにする。

そう思っていた。

最後の1人と面談するまでは。


「異世界に転生させてくれる?

俺は再審請求で忙しいんだけど?」


「あれ?」


 凶悪犯ばかりのはずが、この男は毛色が違っていた。

その男の身体から発せられるオーラはまさに聖人。

どう見ても罪人ではないと女神は確信した。


「まさか冤罪被害者さんですか?」


「そうだ。

俺は何もやってない」


 女神が慌てて男の更生値を見る。


「あ……」


 それはこの刑務所全受刑者の更生値総合計の2倍以上あった。

あまりにも高すぎる更生値だった。

そして、受刑者の更生値総合計が彼の更生値よりも低い理由に思い至った。


「まさか、今まで転生させた魂は全て更生値マイナス?」


 女神がこの刑務所全受刑者の更生値総合計で判断したことが誤りだったのだ。

巨大なプラスにマイナスが食われていただけ。

つまり、転生させた凶悪犯は更生など微塵も考えてなく、凶悪犯の意識のままだったのだ。


「どうしよう。

私の世界に凶悪犯罪者を解き放ってしまった……」


 それは転生のため、彼らが育った後の話だった。

しかし、凶悪犯罪が起こってからでは遅い。


「あなた、彼らが犯罪を犯す前に処分してくださらないかしら?」


「何を勝手なことを」


 再審請求をしようという男は転生に消極的だった。

だが、このままではまずいと女神は焦る。

そして、先の面談でのことを思い出した。


「あなたに罪を着せた犯人がいるわよね?」


「Aを知っているのか!」


「私が転生させた中に、他人に罪を擦り付けたという者がいたわ。

たぶん、それがそのAよ。

どうする?

手伝っていただけるなら、強力なスキルをあげるわ。

凶悪犯狩り、やっていただけます?」


「望むところだ」


 彼は名を捨て別人に転生することを選ぶ。

彼には凶悪犯の魂を持つ者を見つけ出すスキル【凶悪犯探知】とその凶悪犯を倒せるだけのチートスキルの数々が付与された。


 そして、その仕事に就けるまで生き残れるだけの運と生い立ちが与えられるのだった。

凶悪犯狩りを始める前に生活苦で死んでしまっては元も子も無いからだ。

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