ムショ転生ー特殊犯罪独立捜査機関で凶悪犯の転生者を取り締まれー
北京犬(英)
第1話 冤罪被害
「おい、A、こんなところに呼び出して何なんだよ」
俺は幼馴染のAに呼び出されて、人気の無い港の倉庫に来ていた。
「ああ、〇〇、よく来たな。
Bちゃんが大変なんだ」
幼馴染のAが指差した先には血の池に沈む知り合い女性Bちゃんがいた。
Bちゃんとは俺が昨日告白してふられたばかりの間柄だ。
「おい、どうなってるんだよ!
救急車は呼んだんだろうな?」
「今呼ぶところ」
Aが今更スマホを操作する。
「俺を呼ぶ前に呼んどけよ!」
俺は血で汚れるのにも構わず、Bちゃんに駆け寄ると呼吸と脈を確認した。
「心肺停止じゃんか!
傷はどこだ?」
大量出血している場合、止血しないと心臓マッサージが血を失う手助けになることがある。
それを危惧しての行動だった。
「ああ、これ借りてたやつ」
Aが何かを投げる。
思わず受け取ってしまったそれは、俺の部屋にあった見慣れた俺のナイフだった。
その刃には血がべったりと付いていた。
俺は気付いた。
それがBちゃんを刺した凶器なのだと。
「A、おまえ!」
そのAの手には手袋が嵌められている。
それを目にした瞬間、AがBちゃんを刺した犯人だと確信した。
つまり、この凶器であるナイフには俺の指紋しか付いていないのだ。
罪を着せようとするAこそが真犯人だという論理だ。
「動くな警察だ!」
「待ってました、あいつ、〇〇が犯人です!」
Aが俺を犯人だと名指しした。
俺が到着するまでの時間に、既に警察に通報していたのだろう。
先程のスマホ操作は、到着時間の確認か?
警察の目の前には血塗れのナイフを持ち服にも血が大量についた俺の姿。
「違う、俺じゃない!」
思わずナイフを捨てる。
「確保!」
それを見た警官たちが俺に飛びつき制圧した。
俺はBちゃん殺しの現行犯で逮捕された。
ナイフを捨てていなければ、少しは言い訳できたのだろうか?
◇
この国に司法取引という制度が出来て何年だろうか。
その問題点がないがしろになったまま、その制度は経費削減という名目で重用されていた。
犯人の共犯者が自らの罪を認め、事件の詳細を証言することで捜査を簡素化出来るというのは、お金の面でも人手の面でも公的機関には有難いことだった。
おかげで、この制度は人材不足のこのご時世では歓迎されることとなった。
だが、それには先にも書いた問題点があった。
冤罪被害の増加。
自ら罪を認めた者が嘘を付いているはずがない。
それが大前提だったのだが、見逃されている部分があった。
それは自らの罪を軽くするために、無実の他人を主犯に祭り上げるという行為だった。
検察が望むシナリオに合致した証言、それをなぞる証言を真の犯人がすることで間違った人物が犯人とされてしまう。
そんなことが起きていても、捜査自体が簡略化されたために間違いに気付かないのだ。
そんな冤罪被害者が俺だった。
知り合い女性Bちゃんの殺害。
それを幼馴染のAと共謀しやったというのが俺の罪だった。
実際にやったのはAの単独だ。
俺はAに呼び出され、その現場に来させられただけだったのだ。
しかし、状況は俺の不利になるようにAにより完成されていた。
現場に現れた警察はナイフを手にした血塗れの俺を目撃する。
現行犯だと言われた。
警官の証言は重い。
その知り合い女性Bちゃんには、俺が交際を申し込み断られたばかりだった。
そこに殺す動機があると検察は判断した。
Aも俺に手伝って欲しいと言われたと証言する。
ここに検察が描いたシナリオと司法取引で罪を認めたAの証言が合致した。
Aも殺人ほう助で実刑を食らうことになるのにそう証言したというのが、その証言の信ぴょう性を高める。
俺は殺人の主犯で起訴された。
Aが主犯の殺人事件で、俺は無実だと訴えたのにもかかわらずだ。
現場の状況、動機、共に俺が犯人だと決めつけられた。
決定的だったのは、凶器が俺のナイフだったことと警官の目撃証言だ。
ナイフは幼馴染のAが盗んで使っていただけだった。
だが、それが物証となってしまった。
捜査の簡略化の悪影響が酷いことになっていた。
Aは以前から札付きだった。
警察に捕まったことも何度もある。
その都度、罪を認めず悪あがきをしていた。
「まさか、本当に殺すとは思わなかった。
俺があいつに頼まれてBちゃんを呼び出したからこんなことになったんだ。
Bちゃん、止められなかった俺を赦してくれ」
そんなAが殺人ほう助を認め、あっさり証言をし懺悔までして見せた。
つまり、自らの罪を省みずに真実を話していると検察は思う。
悪い奴がちょっと良いことをしたら高評価される。
そんな構図でAに同情が集まるという異常事態になった。
結果、司法取引によりAの罪は軽くなり執行猶予がついた。
最後まで罪を認めなかった俺は罪が重くなった。
そして、俺は冤罪により凶悪犯だけが入れられる北の大地の刑務所へと入ることとなったのだった。
風の噂でAが執行猶予中に強盗傷害事件を起こし収監されたと聞いた。
それがどこの刑務所なのかは知らない。
だが、そのおかげで再審請求が通りそうだった。
それが今の俺の唯一の希望の光だった。
「この刑務所は更生値が凄く高いです。
犯罪者として刑務所で一生を過ごすより、異世界で新たな人生を過ごしませんか?
あなたたちの罪は更生の意志により異世界ではノーカウントになります。
今度こそ、その
俺たち受刑者の前に異世界の女神が現れそう言った。
刑務所の中は規則規則で厳しい。
特にこの凶悪犯専門の刑務所は冬の寒さと相まって地獄と評されている。
誰もが出られるならば出たいと思っていた。
「ならば頼むわ」
こうして受刑者たちがその犯罪スキルを持ったまま異世界へと転生した。
転生なので、現地の人間に生まれ変わるということだった。
それは第二の人生の幕開きだった。
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この世界は日本に似ている別世界であり、法律自体とその運用、組織、施設の実態等々は実在するものとは別物であることをお断りします。
「そんな法律は無い」とか「そんな変な刑務所は無い」とか「裁判短くね?」とかのツッコミは無しでお願いします。
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