第21話 ちから
お知らせ
第20話で血塗れの英雄の名前を間違えていました。
ゲイリー・フォン・ガストルはゲイの転生者です。
設定の記述が隣だったことと、眼病のために良く見えておらず見間違えました。
グラルト・フォン・カスパルが正解です。
変に似ていたのも原因ですね。
第20話はその時よく見えていなかった誤字脱字もありましたので結構修正しました。
すみません。
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血塗れの英雄――グラルト・フォン・カスパル騎士爵から凶悪犯のスキルを奪ってやった。
アードルング辺境伯には悪いが、彼は今後も己の快楽のために味方を殺し続けるだろう。
ならば、俺たちが手を下したと判らないように、戦場で消えてもらおうというのが、スキルを奪って放置することだった。
彼の戦闘力を奪っておいて、蛮族と大いに戦ってもらうのだ。
「さて、蛮族調査を続けようか」
俺は転生者対策という目的を達した後も、まだ帰るわけにはいかなかった。
表の訪問理由の蛮族調査が足枷となったのだ。
最終的に成果が上がらなかったとしても、辺境伯の手前、本気で調査しなければならなかった。
そんなアリバイ工作的な調査を進めていると、アードルング辺境伯に呼ばれてしまった。
「領内で調査していても、何の成果も上がらないだろう。
それと行動を共にし、蛮族を調査するが良い」
何の風の吹き回しか、アードルング辺境伯が血塗れの英雄との同行を提案して来た。
嫌な予感しかしない。
味方も全滅して帰ってくる血塗れの英雄と一緒って、辺境伯は何を考えているんだ?
しかも、そのグラルト騎士爵は彼を英雄たらしめていたスキルを失っている。
本人は気付いていないようだが、へたに戦闘になったらこっちも危ない。
「血塗れの英雄が同行を申し出るなんて滅多にないんだぞ?」
あいつかー!
あいつが余計なことを提案していたのか。
そのとばっちりを俺たちは受けたということか。
あの野郎、戦場で俺たちを殺す気満々ということか?
◇
アードルング辺境伯の善意を断るわけにもいかなかった俺たちは、
そこは砦から出た蛮族の支配地、わざわざ挑発する必要もないのに、あえて徘徊して襲撃されるのを待つという頭のおかしい作戦だった。
どうやら
前世の記憶が、殺人の快楽を忘れられないのだろう。
その殺人を合法的に行えるのが、この戦争状態の敵との遭遇戦ということなのだ。
「蛮族が攻めてくるのは、こうやって挑発しているからではないのか?」
カークが本音をぶっちゃける。
言うなって言っといたよね?
「いや、挑発しなくても、定期的に砦が襲われる。
その時に被害が大きくならないように間引いているのがこの作戦行動だ」
卵が先か鶏が先かというが、恨みが募った結果が襲撃なのではないのか?
元々先祖伝来の領地を奪われているみたいだし。
それにしても、快楽殺人犯にとっては、ここは好きに殺せる良質の狩場だよな。
まさかと思うが、英雄はその獲物に俺たちを含めていないよな?
◇
しばらくして、簡易的なテントのようなものが見つかった。
「逃げたな。
まだ遠くに行っていないはずだ」
それはついさっきまで人が居た形跡のあるテントだった。
テントは移動式であり、余裕をもっての移動であれば、畳んで持って行くところだろう。
つまり、蛮族が狂ったように襲って来るというのは誤りなのだろう。
生活が荒らされ、その結果恨みが募って大規模襲撃に至る。
なんだか、蛮族に同情したくなって来たぞ。
「本気で言っているのか?」
スケズリーが苛立ちの籠った声を上げた。
どういう意味?
「囲まれているぞ。
貴様、わざと蛮族の罠にかかったな?」
「バレた?」
同行している小隊の兵士たちでさえ騙されて驚愕の顔をしている。
味方殺し、それを楽しむための格好の舞台がそこにはあった。
「なんか、嫌ーな感じだったんだよね。
だから、ここで死んでもらおうと思ってさ」
俺たちを誘ったのも、先の接触で気にくわなかったから殺すつもりだったようだ。
だが、忘れてもらっては困る。
以前のようには戦えるはずがないのだ。
前世のスキルが隠れスキルで自分では見えないために、己の能力を過信しているのだ。
「そんなことだろうと思ったよ」
俺は
「やはりな。
おまえ、転生者だろ?
なんで他の転生者を始末しているのかは判らないが、残念だったな。
それもここで終わりだ!」
俺たちを蛮族の中に放りだし、自分だけ高見の見物をしようと思っていたのだろう。
「な、なんで動けないんだよ!」
それは【殺戮補助強化】を奪ってあるからだ。
この時、初めて
そして、
「戦う気はない!」
そう宣言してみたが、蛮族からのリアクションは無かった。
傍からみれば、俺たちは仲間を襲おうと徘徊していた殺人鬼の集団なのだ。
俺たちだけ独立捜査機関ですとか通じるわけがなかった。
「カクさん、スケさん、退路を確保。
カレンは、こいつを蛮族の前に放り出せ!」
「「「了解!」」」
「あ、こら、何をする!」
「さすが、血塗れの英雄だ。
自分たちの指揮官が独立捜査機関と自分達を罠にかけるところを目撃した兵士たちは、瞬時にどちらに付けば良いのかを理解した。
そして、俺たちと一緒に逃げることを選んだ。
だが、俺たちは自分たちの身を守るので精一杯だった。
彼ら兵士には自分達でなんとかしてもらうしかなかった。
1人、また1人と兵士が倒されて行く。
「しつこい!」
そしてついに、俺たちも追い詰められてしまった。
「敵の数は40人ほどです」
対してこちらは5人。
いつのまにか、兵士とは
この状況でさえ
そうでなければ、自ら罠に飛び込んだりはしないだろう。
つまり……。
「スキル【戦闘補助強化】」
俺は
それは、この状況を覆せるほどの戦闘スキルだった。
まさにそれが血塗れの英雄の力そのものだったのだ。
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