第20話 血塗れの英雄
王家直轄の独立捜査機関の訪問に、アードルング辺境伯も無下には出来ないようで、早急な謁見が決まった。
いや、むしろ面倒事をさっさと終わらせたいという感じだった。
「いかなる場所への立ち入りも許可する。
その通達は既に各所にしてある。
どこでも好きに調べれば良い。
ただし、自分たちの命は自分で守ってくれ」
アードルング辺境伯は、儀礼的な挨拶も端折って、そう言った。
辺境伯の言う「どこでも」は、おそらく蛮族の領地も含むという意味で言っていることだろう。
しかし、俺たちはその「どこでも」を拡大解釈して、蛮族と戦ったことのある兵士、なんなら血塗れの英雄に話を訊きに行くことも含めてしまうつもりだった。
「ありがとうございます。
我ら
「いらん、好きにしろ」
雑な扱いだが、逆に雑でありがたかった。
まあ、蛮族に襲われて死んでも文句は言えないという状況だったけどね。
◇
「血塗れの英雄さんに話を訊きたいのだが?」
「彼はいま、士官教育で教育棟にいるはずだよ」
「御協力感謝します」
理由も知らずに辺境伯から便宜をはかるように言われているのだろう。
その質問が蛮族調査と乖離しているという考えは一般兵には無かったようだ。
おかげで血塗れの英雄の居場所が簡単に判った。
「彼は仲間が倒される中、たった一人で蛮族の部隊を全滅させたんだ。
誰もが出来る事じゃない、まさに英雄だよ」
「そうですね。
その状況を是非とも本人の口から聞いてみたい」
「それはうらやましい」
どうやら、既に血塗れの英雄は一般兵からは雲の上の人扱いのようだ。
凶悪犯の転生者が権力を持つと厄介だな。
◇
教育棟に着くと、俺は【凶悪犯探知】を使用した。
「いた」
それは紛れもない、前世が凶悪犯の反応だった。
その反応が少女かと見紛う華奢な少年から出ていた。
それが血塗れの英雄だった。
「ちょっと話を訊いても良いかな?」
「誰だ?」
傍から見たら変な一行――俺と護衛騎士二人に女性兵士二人――に血塗れの英雄が怪訝な表情を向ける。
「通達の出ている独立捜査機関の者です。
ご協力願います」
「なんだ、独立捜査機関って貴族の坊ちゃんのお遊びだったのか」
血塗れの英雄が聞こえないように――いや、俺に聞こえるように呟いた。
たぶん、こちらを舐めまくっているのだろう。
「蛮族の襲撃の様子、また蛮族たちが何を目的としていたのか、詳しく話して欲しい」
そして俺は【鑑定α】で彼、グラルト・フォン・カスパル騎士爵をさっさと調べることにした。
『前世犯罪歴:殺人 快楽殺人
今世犯罪歴:殺人 快楽殺人』
今世でもやったやがった。
それは、一緒に戦って亡くなった遺族の訴え出が正しかったことを意味していた。
どうする?
このまま対蛮族で役立つならば、辺境伯の判断に委ねるか?
「襲撃の様子も何も、
それは敵味方を問わないという言い方だった。
そして、その対象は俺たちを含んでいるニュアンスだ。
つまり、彼は俺たちを挑発していた。
「英雄さんに話が聞けて良かったよ」
俺は血塗れの英雄に握手を求めた。
この世界には握手の習慣はない。
だが、彼はそのことに気付かずに握手に応じた。
「(【スキル強奪変換】)」
俺は彼に笑顔を向けながら、彼のスキルを奪った。
『スキル【殺戮補助強化】を奪い、【戦闘補助強化】に変換しました』
「これから
たぶん、スキルを奪われた後、スキル頼みの彼は英雄としての活躍は無理だろう。
だが、周囲は彼が戦場で英雄として活躍することを期待する。
その結果は……。
「あいつから、殺人衝動が消えたね」
カレンだけがその事実を察していた。
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