第22話 国を護るための詭弁
単独で集団と戦える力、一騎当千とはこのことなのだろう。
いかに効率よく人が殺せるか、それが【殺戮補助強化】だった。
その殺戮を戦闘とすることで、殺すためでなく戦うための補助強化を齎すのが、俺が手に入れた【戦闘補助強化】だった。
結果として殺す事になるのは仕方がない。
殺しに来ている蛮族を殺さずにどうこうするなんて余裕はないのだ。
カクさん、スケさん、カレン、メイルも戦えるが、騎士の綺麗な戦い方と比べて下品な戦い方をする蛮族と対するのは勝手が違うようだ。
ここで、強みを発揮したのは、やはりカレンだった。
彼女も殺人スキル持ちなのだ。
ただ、殺すべき相手を殺しているだけだというのが、快楽殺人犯の
任務としての殺しに留めていれば、彼も本物の英雄になれただろうに。
この世界の犯罪捜査がザルだったことが、彼を増長させていたのだろう。
バレなければ味方も殺し放題、殺せば殺すだけ英雄、それがグラルト騎士爵という存在だった。
◇
帰りは蛮族の追手も来なかった。
蛮族には無駄な殺しをしないことや、味方に被害を出さないだけの分別があるようだ。
味方の死を惜しまずに次から次へと殺しに来るという評判はなんだったのだろうか?
どうやら、対蛮族戦のためのプロパガンダが行われており、かなりの嘘が混ぜられているようだ。
「さて、どう報告すれば良いのか……」
英雄を失って帰って来た俺達には、その顛末の報告義務があった。
アードルング辺境伯に何と言えば良いのだろうか。
正直に言っても、嘘をついても怒られそうだ。
そんな気持ちのまま辺境伯に謁見した。
「無事に帰って来たか。
蛮族の実態は調査出来たか?」
「はい。彼らも生存に必死なのだと知りました」
「そうか」
怒られるのかと思いながらも、率直な意見をぶつけてみたが、辺境伯は意外にも俺の発言を受け止めた。
「グラルト騎士爵は死んだか?」
ここはどう答えるのが正解かわからない。
率直に事実のみを伝えるか。
「小隊の兵も含めて全員死亡行方不明です」
「そうか、とうとう帰って来なかったか……」
その辺境伯の発言には含みがあった。
俺の怪訝な顔に、辺境伯は砕けた感じで話す。
「いつかはこうなると思っていたんだよ。
いや、こうなることを望んでいたのかもな。
え? どういうこと?
「
だが、その戦果が多大でお目溢ししていたというわけだ。
ああ、被害に遭った兵士も、訳ありばかりだよ。
最初の被害者たちを除いてね」
辺境伯は全てお見通しで泳がせていたのか。
その戦果だけを利用するために。
だがそうなると、俺達を同行させたのは何なんだ?
まさか、殺そうとしてた?
俺が不満そうな顔をしていたのかもしれない。
辺境伯が慌てて言い訳をしだした。
「特殊犯罪独立捜査機関の評判ならば、問題ないと思ったのだよ。
どっちに転んでも良いだなんて思ってもいなかったからな?」
辺境伯の本音が駄々洩れだった。
グラルトが死んでもよし、俺たちが死んでもよしってことか?
たしかに、俺たちの調査目的(偽装)は、辺境伯にとって面白くない結果を齎す可能性があった。
アードルング辺境伯領には産業というものが無い。
東の国境を侵さんとする蛮族から国を護る、そのために国からたんまり補助金を得ているのだ。
その蛮族が危険でないと報告されたら?
その補助金は打ち切られ、辺境伯領は一気に衰退することだろう。
つまり……。
「いやー、さすが血塗れの英雄でしたよ。
執拗に殺しに来た蛮族を殺しまくってましたからね。
こっちを殺す暇なんてなかったんじゃないかな?
今回は蛮族が強力だったから、彼も勝てなかったということでしょう。
蛮族は恐ろしいですね。
ここの防衛が大変なわけだ」
俺の台詞は辺境伯に対しての忖度塗れだ。
英雄は不祥事なんて起こさずに見事に散りましたよ。
国には蛮族が危険だと報告しますよ。
これからもアードルング辺境伯領は安泰ですよというアピールだ。
「そうか、貴殿が無事でなによりだ。
わははは」
どうやら通じたようだ。
俺は凶悪犯の転生者を討伐出来て、辺境伯は補助金の維持が確定した。
まさにWIN-WINだろう。
そもそも、俺たちの蛮族調査なんて、この地に来るための詭弁だったのだ。
真面目に調べるつもりなど最初からない。
辺境伯の行為は国を騙す犯罪じゃないのかって?
そこは、将来に対する投資だと思って欲しい。
今の蛮族は危険ではないかもれいないが、将来に渡ってそうだとは限らない。
実際に、過去には蛮族側からの侵略で酷い戦いになっている。
それに備えるのもアードルング辺境伯の役目なのだ。
ここで予算の横領だなどと騒いで戦力を削いだ結果、大侵攻が来た時に対処出来ませんでは、国を護ることなど出来ないのだ。
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