第34話 飛んで火にいる夏の虫

「誰だじゃねぇ! 俺たちは赤竜隊だ!

怪しい奴らがいるとの密告があった。

全員逮捕だ!」


 密告というのもアレだが、怪しいからって即逮捕は王国の法には無い。


「まさか、向こうからやって来た?」


 俺はカーク、スケズリー、カレン、メイルに目配せで「行くぞ」と伝えた。

そして全員が頷き同意すると、臨戦態勢で表に出た。


 そこにはアホそうな男を筆頭にしたお友達軍団といったような若い連中がいた。

左腕に赤い腕章をしているのが特徴のようだ。


「それは王国法に反する行為だって知ってるのか?」


 このような場合、事情を訊ねるのが先で、証拠などで容疑が固まったならば逮捕という流れだ。

密告されたから即逮捕というのは、あってはならない。


「我が領では我ら赤竜隊が法だ!

抵抗するならば殺しても良いことになってる」


 そんなことはない。

だが、これが市民に因縁つけて連れて行くという手口そのものなのだろう。


「【凶悪犯探知】」


 スキルを使う。

すると、リーダーと思われるアホそうな男の頭の上に赤い輝点が現れた。


「ああ、こいつだ。

スケさんカクさん、不当逮捕の現行犯で逮捕だ」


 ややこしいが、上位捜査機関に踏み込んだからそうなっている。

警察庁に県警が踏み込むようなものか?

ちょっと違うが、そんな感じだ。


「私は!」


「カレンは待てだ。

メイルは手加減出来るな?」


 俺はスケズリーとカーク、そしてメイルに現行犯でこいつらの捕縛命令を出した。

事情も訊かずに逮捕すると言われ、抵抗したら殺して良いなど、この国の法律には無い。

それと、特殊犯罪独立捜査機関の方が王家直轄のため、上位の捜査権があるのだ。


「何の権限で逮捕だなどと言うんだ!

ここは俺の・・領地だぞ!」


 アホそうな男改めアホな子(確定)が権力を笠に粋がる。

残念、その権力はお前の父親のものだ。

そして、さらにそれは上位の権力により踏みにじられるのだ。


「俺らは王家直轄の捜査機関だ。

相手が悪かったな」


 カークの一撃で、赤竜隊とやらの男が吹っ飛ぶ。

それを見てビビるアホな子。

権力が通じない相手に初めて遭遇したのだろう。


「逃げよう……」


 そうなると、赤竜隊は烏合の衆だった。

みっともなく逃げ出した。


「逃がすかよ!」


 スケズリーが退路を塞ぐ。


「なあ、殺らないから協力させてくれよ」


 カレンが我慢出来なくなっている。

仕方がない。


「殺すなよ?」


 不殺を命じてカレンも投入する。

どうやらカレンは、逃げる相手に追い打ちするのが楽しいようだ。


「俺も行って来る」


 ルディも捕縛に協力する。


 こうして俺たちを襲撃して来た赤竜隊とやらは全員が捕縛された。

今まで散々良いようにやって来た連中の逮捕に、周囲の市民から喝さいが上がる。

こいつら、どんだけ悪さをして来たんだ?


「【鑑定α】」


 首謀者のアホな子を鑑定する。

既に凶悪犯の転生者で領主の息子だとは判明している。


〖前世犯罪歴:誘拐 逮捕監禁 傷害致死 殺人〗

〖今世犯罪歴:誘拐 逮捕監禁 傷害致死 殺人〗


 前世とまるっと同じことをしているな。

カークたちの調べからも、市民を誘拐し監禁しているんだろう。

そして、抵抗すると暴れて殺す。

殺す目的でも殺す。

凶悪犯の本能のまま動いているようだ。

そして、知能が足りない雰囲気だ。


「【スキル強奪変換】」


〖スキル【手下支配】を強奪し【指揮統率】に変換しました〗


 どうやら手下を使うために軽度の支配をしていたようだ。

つるんで反社会的活動を行うのに適したスキルだったようだ。


 こいつの犯罪は、身をもって経験した。

罪なき人に対しても因縁をつけて逮捕に持ち込むという手口だろう。

これはアウトだ。

その被害者たちは、おそらく犯罪奴隷にされて鉱山に送られている。

そこには領主のケイマン男爵も関与していることだろう。

だが、もう1人の転生者の役割がわからない。

いったい、どういった人物なのだろうか?

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