第30話 呼び出し

 麻薬犯の転生者が処刑される前、俺は【スキル強奪変換】で彼の犯罪スキルを奪っていた。

麻薬犯の犯罪スキルは【麻薬植物種召喚】【麻薬植物促成栽培】【麻薬製造機製造】【麻薬生成】だった。

麻薬を作ることに特化した最悪のスキル群だ。

それが変換されて出来たのが【植物種召喚】【植物促成栽培】【薬製造機製造】【薬生成】だった。

【植物種召喚】は前世の世界——地球の知っている植物の種を召喚出来た。

そして、その植物を【植物促成栽培】で急成長させられた。

その植物を薬用植物にすることで、【薬製造機製造】による製造機械で薬を作ることが出来、そして【薬生成】によって直接ポーション化も出来た。

製造機械は自ら関与しなくても機械で薬が出来るという大量生産のためのものだと思われる。

この薬の部分が全て麻薬だったのだから、あの麻薬畑や麻薬工場が出来るわけだ。

そこから犯罪絡みの部分が消えたとなると、逆に有用な薬の製造手段となっていた。


「あいつが言っていた容量用法さえ守れば毒も薬が実現できるってわけだ」


 それに加えて、この世界にない野菜なども生産可能だった。


「やばい、スイカなんかが作れてしまうな」


 この世界のスイカっぽいものは毒だった。

これは地球でも原種のスイカには毒があるらしいので、品種改良されていないということなんだと思う。

それが地球で美味しくいただくために突き詰められた種を手に入れられるのだ。

 

「やばい。

この種って一代限りの販売種だったよな?」


 俺が望んだ種は、次代に繋がらない、種販会社の販売でしか手に入らないものだった。


「これが本物ならば、何処から持って来ているんだよ」


 女神様が齎したスキル、そこには知られざる謎が存在していた。


 ◇


「王都に召喚?」


 船頭よりも先に王都からの使者が来た。

王様がお呼びらしい。


 なんだ? やりすぎたか?

特殊犯罪独立捜査機関としては、正当な任務だと思うが……。

まあ、良い。

会えば判るだろう。


「なにこれ?」


 そこには王様専用の御召し船が鎮座していた。

あれだ、黄金のM〇みたいな感じだ。

色的に目立つし、必要以上に豪華だ。


「これに乗るの?」


「はい。 直ぐにとの王命ですので」


 御召し船は速かった。

そして快適過ぎたとだけ言っておこう。


 ◇


 王宮に戻ると直ぐに謁見の間に連れて行かれた。

旅装束のままだった。

何この扱い?


 そこには王都に在住している貴族が全員集められ、左右に整列していた。

どう考えても人事に関するなんらかの発表だろう。

まさか、やりすぎて特殊犯罪独立捜査機関廃止か?

だから、着替えさせてもくれないのだろうか?


 俺はそんなことを考えながら王様の目の前まで進み出て跪き臣下の礼をとった。


「エルリック・フォン・テラスター男爵、面を上げよ」


 王様の横にいるお付き、宰相の横に居る政務官が俺の名を呼び、顔を上げるように言う。


「王国の光にお目通りさせていただき感謝いたします。

旅装のまま故、ご無礼お詫び申し上げます」


 顔を上げろと言われてあげてはいけないのだ。


「かまわん、顔をあげよ。

直答を許す」


 こう言われて初めて顔を上げるのだ。

そして、どうやらこの姿でも無礼にならないようだ。


「エルリックは我が孫ぞ。

遠慮なぞいらぬわ」


 王様の顔は殊の外、上機嫌だった。

あれ? それに孫だって?

パパン、浮気されてる?


「何を不思議がっておる。

お主は我が長女の子ぞ?」


 ママン、王家直系だったの?

そして、このやりとりは、俺の立場を強調するために行われていると察した。

俺は王家直系であり、偽子爵やサルガド男爵を独断で誅しても問題がないのだと。


「此度の麻薬事件解決、大義であった」


 王様が褒めたことで、どうやら褒美がもらえる事が確定した。

そして、その続きは宰相が口にした。

そういった些事を王様にはさせないのだ。


「これらの功績により、エルリック・フォン・テラスターは子爵に陞爵、サルガド男爵領を授ける」


 破格の陞爵だった。

しかも領地貴族だ。

麻薬畑と工場付きだが、それをどうにかしろってことだな。


「そして、王位継承権を9位とする」


「は?」


 思わず声が出た。

直答を許すといっても、このような場で口をはさんで良いというわけではない。

宰相の言は、王様の名代としての言であり、王様に口をはさむのと同義だった。

それでも思わず声が出てしまったのだ。

なぜならば、それは異常な人事だったからだ。


 王位継承順位は、王様直系の息子5人と王太子の息子2人、そして俺の祖父であるテラスター公爵で8人だ。

基本長子継承なので、長子の王太子とその息子たちが上になる。

そして王太子の弟たちが続き、次に王様の弟である俺の祖父という順番だ。

ルナスターとマズスターの公爵家は、王様の妹の家系なので継承権が無い。

その直ぐ後ということは、孫の中では3番目ということになる。

いや、王太子が王位を継いだら、一気に3番目ということだ。

まあ新たに王太子に息子が生まれれば順位は落ちるんだけどね。

ママン、年齢的にまさか第二子なのか?

女系で上位に来るというのは、直系孫としては破格の昇進だった。

これは明らかに手柄によるものだった。


「どうされた?」


 しまった。

これは受けなければならない流れ。

返答しないわけにはいかない。


「謹んでお受けいたします」


 何が何やらわからないうちに、俺は子爵で王位継承順位9位になっていた。

そしてサルガド男爵領を拝領したので、またトンボ帰りということだった。




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