第17話 転生者の生まれの差
まさか、ゲイリーの中の人も、この世界の方が理解が無くて厳しいとは思ってもいなかったのかもしれない。
いや、貴族家に産まれなければ、理想の性別にTSしていれば、違う人生だったのかもしれない。
今回、犯罪スキルだけを奪うという処置に留めて、命をとるようなことはしなかった。
彼は奴隷だけに手を出していて、無理やり誰かを襲うなどということはしていなかった。
元世界では、奴隷に手を出していること事態がアウトだが、この世界ではその行為を罰することは出来ない。
性的搾取もまた、この世界では合法なのだ。
そのうえでのゲイリーの処分、これはこれで良いのではと思っている。
その分かれ道は、やはりこの世界でも殺人をしているか否かなんだろうと思う。
だが、俺をはめたAが見つかったらどうする?
Aが平穏に暮らしていても、俺は復讐するのだろうか?
それはこの世界で俺が犯罪者になるということなのだろうか?
◇
俺はある程度人が集まっている街に寄ると【凶悪犯探知】を使っていた。
今回寄ったのは、ガスコート男爵領だった。
その領都は流通の要衝らしく、人が集まり賑わっていた。
そのため、凶悪犯の転生者が見つかる確率も高いと思っていた。
「いた」
それは奴隷商の一角だった。
見すぼらしい姿の少年が、ボロボロの状態で売られていた。
「【鑑定α】」
『前世犯罪歴:強盗傷害 殺人ほう助』
「【鑑定】」
『今世犯罪歴:強盗』
俺は前世と今世の犯罪歴を見た。
この少年は強盗で捕まり、犯罪奴隷落ちしていたのだ。
だが、その姿、どう見ても飢えて困窮した結果の強盗だろう。
おそらく生まれた家が貧しかったのだ。
そして、その犯罪スキルから盗みで生計をたてていたのだ。
それでも、こんなに痩せてボロボロになるぐらい、稼げていなかったのだろう。
殺していないから処罰対象ではない。
そう思いつつも、強盗ということは少なからずの被疑者がいる。
だが、それも捕まり奴隷落ちという処罰を受けている。
魂としては立派に凶悪犯だが、この後また大きな犯罪を犯すことがあるのか?
犯罪奴隷では、もう浮かぶ人生は無いだろう。
俺が買い取ってどうこうということも無い。
そう思って立ち去ろうとした時、その少年が声をあげた。
「助けて」
その声に衝撃を受けた。
女の子だったのだ。
痩せすぎていて髪も短くしていたため、ちょっと小柄な少年にしか見えなかったのだ。
胸が目立つだけの栄養も摂れていなかったのだろう。
転生者なのだから、これでも14か15歳なのだ。
カレンが奴隷落ちしたのは、乱暴者で手を焼いた親が口減らしで売ったからだった。
そのまま育っていたら、この子と同じだったかもしれない。
メイルは食うに困って闇ギルドで臨時雇いされてた。
2人とも、いつ同じ立場になっていたか判らない人生だったのだ。
たまたま2人は、凶悪犯罪を犯す前に俺と出会っただけ。
「もう人を陥れたりしないから、女神様、こんな罰を与えるなんて、もう許してください」
その台詞に心臓が止まりそうになった。
まさかこいつ、Aなのか?
「おまえAか?」
思わず訊ねていた。
「誰? Aって?」
偶然の一致なだけで、この子はAではなかった。
「いま人を陥れたって」
「私の罪を友達に被せてしまったの。
せっかく転生したのに、なんてことを……」
しかも、人を陥れたのは今世での話だった。
奴隷落ちして初めて悔い改めたのだろう。
だが、その告白により、俺はこの子を助ける気がなくなった。
俺と同じ目にあっている現在進行形の被害者がいるのだ。
その罪は犯罪奴隷として償っていくべきだ。
犯罪奴隷なので、その扱いは酷いものになるだろう。
なんだったら、俺が買って、そのまま始末しても誰も文句は言わない。
人であって人でない、それ以下の扱い、それが犯罪奴隷だった。
カレンたちのように売られた奴隷とは一線を画していた。
「この世界の法に則って罰せられてくれ」
俺はガスコート男爵に面会を求め、冤罪事件の再調査を依頼した。
最初は難色を示されたが、王様より賜った剣の紋章を見せると、掌返しで協力してくれた。
真犯人がいて、その証言が得られるのだから、簡単に被害者を見付けて助けられると思っていた。
だが、そうではなかった。
その子はもう犯罪奴隷として売られた後で、その消息は酷いことになっていた。
性の慰み者にされて死んでいたのだ。
冤罪被害者の死。
そのことに俺はショックを受けた。
俺と同じ立場だった子が惨たらしく死んでいた。
俺と重ねるところもあるし、この世界での捜査のいい加減さにショックを受けた。
あの犯罪奴隷には殺人はついていない。
だが、結果的に人が1人死んでいた。
これは殺したも同然だった。
そんな嫌な転生者との遭遇だった。
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