第16話 この世界では認められない存在

 目指すはこの国の東端、アードルング辺境伯領。

元隣国の領土で戦争により割譲された土地だった。

そこの守護者がアードルング辺境伯だった。

そのため辺境伯は東の守護者と呼ばれている。


 俺たちは馬車1台に騎馬2騎という編制で旅に出た。

2騎の騎馬はカークとスケズリーが騎乗し、馬車には俺、カレン、メイルが乗る。

カレンとメイルは御者を交代で担う。

秘書のシンディーだが、彼女は新たな依頼を受けるため本部に残る。

主人、従者、忍者、護衛2人という編制だが、まるであの諸国漫遊記だというのは俺だけの認識だろう。

今更だが、護衛がスケさんカクさんだというのも問題である。

従者と忍者が殺人狂とストーカーだという部分で立派なオリジナルになっていた。

そして、その身分は、特殊犯罪独立捜査機関を堂々と名乗っている。

商人に偽装するなどということはしないし、その捜査権をしっかり行使するつもりだ。


 アードルング辺境伯領は、国の東端なため、そこまでの道程はなかなかの日数がかかる。

その間、余所の貴族領を通過するわけだが、そこでも犯罪があれば取り締まるのが、俺たちの任務だった。


 最近良く思うのが、なんで王様はこんな権限を俺のような若輩者に与えたのだろうということだった。

弱冠12歳でシンディの事件を解決して見せた、それも確かにある。

俺が血筋の近しい王族の末端だった、それもあるかもしれない。

だが、それを考慮しても、ちょっとおかしいと誰もが思うだろう。

俺はそこに女神の介入を疑っている。

俺が捜査権限もないことで途方に暮れていたのを天界から見ていたのではないか?

それで少しアシストしてくれたのでは?

そんな感じがしている。

あくまでも推測になるがね。


 ◇


 旅の途中、ガモス男爵領に寄った。

ガモス男爵の息子は、お披露目舞踏会に来ていなかった。

それは年齢が1つ違ったというものではなく、全くの同年齢でのことだった。

そして、その領地は王都から遠くて来れないというよりも、かなり近い領地だった。


「怪しいんだよな」


 病気だとういう話も、人目に出せない乱暴者だという話も聞かない。

謎に包まれた人物だった。


 なので、スルーしても良かったのだが、わざわざ男爵邸に挨拶に向かうこととなった。


 領都の門から、護衛のカークを先触れに出す。

その後をゆっくりと馬車が男爵邸に向かう。

王家認定の特殊犯罪独立捜査機関が来たのだ。

城門の兵も右往左往して慌てている中だった。

まあ、王家の紋章のついた剣の御威光により、通さざるを得なかったのだが。

そんな感じで強引にガモス男爵との面会を強行した。


 ◇


「これはテラスター男爵、我が領地にようこそ」


 顔を引きつらせながら、ガモス男爵が現れる。

あの王家の紋章の付いた剣の御威光は王様の代理に等しい。

先任で年上の男爵といえども俺の馬車を迎えに出て来る。


「ガモス男爵、歓迎をありがとう。

ここにはと同年代の息子さんもいるそうですね。

つい会いたくて来ちゃいました」


「ゲイリーのことですか?

そ、それは困ります!

ゲイリーは、息子は……そう、病気で会うことが出来ないのです」


 ガモス男爵の言い訳は取ってつけたものそのものだった。

俺は密かに【凶悪犯探知】を使用した。

間違いない、ここには凶悪犯の転生者がいた。


「それは、お見舞いをしないと」


 俺はガモス男爵の制止も振り切り、面会を強要しようとした。

だが、その行動はとんでもない失策だった。


「あら? 誰か来たのかしら?」


 その時、男が無理やり女性っぽく声色を使ったような声が聞こえて来た。

嫌な予感しかしない。

彼に会おうとしたのは間違いだったのかもしれない。


「こら、おまえは出て来るな!

この男爵家の恥さらしが!」


「あらやだ、イケメン!

好きになっちゃいそうだわ♡」


 その男こそがゲイリーだった。

それは、どう見てもゲイの人だった。

マッチョな身体に心は女、この世界では認められていない存在だった。

殺人も相手次第では善行になり、ロリコンも虐待が無ければセーフというこの世界で、なのにその存在自体が忌み嫌われていて、犯罪の如く扱われてしまうのがゲイの方たちだった。

それはこの世界に転生してしまった不幸だった。

いや、TSしていれば幸せだっただろう。

意図せずTSしている2人を知っている身としては、彼が不憫でならなかった。

女性に産まれさせてあげたかった。


「それで隠されていたのか……」


 このままだと親に殺されるか、逃げて事件を起こすかだろう。

奴隷男子を宛がうのも限界があるだろう。

そういった行為に奴隷の精神がもたないのが想像できる。


「辛かったな」


 俺は彼を抱きしめる。


「あらやだ、嬉しい♡」


 だが、それは彼の個性を殺す手段だった。


「【スキル強奪変換】」


 俺は彼のスキル【男色】を奪った。

そして【男色】は【色気】に変化した。


「なんじゃこりゃー!」


 【男色】が消え、自らの姿に嫌悪感を抱いたゲイリーがオスの叫び声をあげた。

この世界では当たり前の反応だが、それは遅れた世界のせいだった。


「転生しなければ良かったのにな」


 いや、彼も凶悪犯として刑務所入りしていたのだ。

あの刑務所に入れられるからには最低でも殺人をしている。


「元世界でも苦労したんだろうな……」


 この世界では平穏に生きて欲しいところだ。

ゲイリーにとって余計なお節介だったかもしれない。

不幸でもその姿勢を貫きたかったかもしれない。

だが、その結果、犯罪が起こるのを俺は防がないとならないのだ。

それが女神から授かった俺の使命だった。

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