第15話 成人

 ジェイソンが良い例かもしれないが、たかだか13歳で凶悪犯罪を犯すというのは、結構ハードルが高い。

むしろ、その弱い立場故に反撃を食らって死亡なんて末路を迎えるのは、当然の帰結なのかもしれない。

マルチ事件のような知的犯罪であっても、その被害者が直で殺しに来るという末路だった。

潜伏し、犯罪を謳歌できるだけの力を蓄える、それが凶悪犯の転生者にとって現状正しい身の振り方なのかもしれない。


 そんなこんなで、新たな転生者と接触することもなく、俺は15歳になった。

学生と特殊犯罪独立捜査機関の長という二足の草鞋も貴族学園卒業により終了した。

この世界で15歳は成人と見做される年齢だった。

これで本格的に転生者を狩ることが出来るようになることだろう。

その転生者も成人したことで村から移動したり、正式に職に就いたり、新たな生活が始まる。

そうなると経済的困窮から犯罪に走るということも多々起きる。


 経過観察中のジェイソンはロリコンを謳歌していた。

成人した奴隷は、そのままメイドとしてアドラム伯爵家で働いているらしい。

性的に興味がなくなるだけで、殺す必要もないらしい。

それが許される財力のある家に生まれたことが彼にとって幸福だったようだ。


 カレンは殺人衝動を抑えつつ、特殊犯罪独立捜査機関の戦力として成長していた。

そして、もう一人の凶悪犯の転生者が組織に加わっていた。

彼女は、例の娼婦の囮役を演じた闇ギルドの構成員、いや就職先がそこしかなかっただけで、ただの臨時斥候職だった。

作戦が失敗しそうになったことで、闇ギルドをクビになるところを拾ったのだ。


 そのまま放置すれば犯罪に手を染めざるを得なかっただろう。

そうさせないためにも俺の下で働いてもらうことになったのだ。


 彼女の名はメイル、TSによりストーク相手を失った元ストーカーだった。

それも特殊犯罪独立捜査機関に来て、もう2年近くになる。

その間に女性として目覚め、俺のストーカーとなっていた。

ストーカーは拒否すると犯罪に走る。

仲良くすればそれはもうただの俺ファンだった。

問題は俺に恋人でも出来た時だろう。

嫉妬から何かするかもしれない。

だが、それも問題ではない。

政府機関への就職にあたり、彼女とは従属契約を結んでいる。

さすがに元闇ギルド構成員をそのまま雇う訳にはいかなかったからな。


 この世界では重婚が認められているため、正室、側室という間に差がほぼ無いのも嫉妬心を緩和している。

いや、俺が元凶悪犯を嫁にするわけではない。

元男だと思うと幻滅するからな。

だが、扱いに気を付ければ、彼女たちも極端な行動に出るわけではないのだ。


 あ、彼女たちというのは、元凶悪犯のカレンもいるからだ。

監察対象を身近に置くことで更生を促すのも、俺の使命だろう。


「さて、学生生活も終わり、俺も本格的に動けるようになった。

今まで着手することが出来なかった、地方巡回を行いたいと思う」


 王都の未解決特殊事件はなんとかこなす事が出来たが、地方はまだ野放しだった。

そこまで遠征する暇が学生の俺に無かったからだ。

今までは助走で、これから本格的に走り出すという感じだった。


 まずは……。


「血塗れの英雄というのを調べたいと思う」


 そこは地域紛争の真っただ中の辺境伯領だった。

そこで当時若干14歳の少年が敵を単騎で葬り、英雄と呼ばれたのだそうだ。

だが、そこには醜聞もあった。

彼と一緒に戦っていた仲間も全員死亡していたのだ。

それが敵によるものか、その少年によるものか、判断出来なかったという。

しかし、その少年により危機を脱し英雄と祭り上げられているらしい。


「敵を殺すのは正義か……」


 殺人狂にとって、この世界は活躍の場でもあった。

仲間に手をかけて居なければ。


 そんな疑惑が被害にあった騎士の家族から密かに王都に伝えられていた。

辺境伯という直接の上司を飛ばした直訴だった。

その行為は問題だったが、辺境伯が隠蔽に関与しているならば、それこそ大問題だった。


 凶悪辺の転生者だった場合、処分するべきなのだろうか?

多少の醜聞は目を瞑り、戦果のみに目を向けるべきなのだろうか、これはそういった問題だった。

件の英雄も15歳になり成人しているはずだ。

その将来を見据え、判断しなければならなかった。


 この件に関して、王様より俺は全権を委任されていた。

その証として王家の紋章の入った剣を賜わっていた。

何かあれば、この剣で成敗しろということらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る