第14話 囮作戦継続

 というわけで、闇ギルドから奴隷商が連れて来られ、有無を言わさず執事と御者に隷属魔法をかけた。

そう、隠れていたが、御者も事件に関与していたのだ。

そして、真犯人の待つ館へと皆を案内した。

その経路は決められたようで、通常のルートから迂回に迂回を重ねて移動していった。

本来ならば、執事と御者が警戒していて、尾行などがあれば娼婦をそのまま解放し、無かった事にされていたことだろう。

主人の気が変わったとか理由を付け、娼婦も何もしないで金をもらえれば喜んで口を噤んでいたことだろう。

今回は執事と御者どちらも隷属済みのため、警戒はザルとなっていた。


「ここか」


 そこは怪しい倉庫だった。

周囲の建物も倉庫ばかりで、深夜ともなればたまにある警備の巡回以外は人の出入りが無くなるような現場だった。


「そのまま何事も無かったように、今までと同じ行動をとれ」


 執事に命じて囮娼婦を倉庫の中に入れさせる。

それを見つからないように闇ギルドの構成員が姿を隠蔽して続く。


「なんだ、今日の娼婦はずいぶん若いな」


 そんな声が聞こえる。

それは、この事件の真犯人と思われる人物の声だった。

俺から言わせると、お前の声も充分若い。


「(【凶悪犯探知】)」


 そして、そいつが凶悪犯の転生者でないことが確定した。


「しかし、バカみたいに引っかかるな。

それにこんな手口をするだけで捕まらないとはな。

あいつ・・・の話を信じて良かったよ」


 真犯人は犯罪が成立すると確信し、饒舌になっていた。


 あいつ? 誰のことだ?

この事件にはこの手口の教唆犯がいるのか?


 そいつが切り裂きジャック事件のような手口を教えたのか?

まさかそっちが凶悪犯の転生者?

まるで犯罪のコーディネーターのようだ。


「さあ、今日も悲鳴をきかせてもらおうか」


「きゃーーーーっ!」


「ははは、いい声で鳴く。

これだから女を切り刻むのはやめられない」


「そこまでだ!」


 囮娼婦にナイフで切りつけたため、ここで完全に犯罪の要件を満たしていた。


「この野郎! ぶち殺ししてやる!」


 傘下の娼婦を殺され、プライドを傷つけられた闇ギルドの構成員が、待ってましたと攻撃に出た。

それは、事前に決めたルール、犯罪の証拠を得るまでは手を出さないを守ったうえでの行為だった。

ちなみに囮娼婦は魔法障壁で無傷だ。


「待て、そいつにはまだバックが!」


 俺の立ち位置は遠すぎた。

俺が止める間もなく、真犯人は闇ギルドの掃除人スイーパーにより処分されていた。


 ◇


「犯人は、オースティン子爵家三男、ボードゥインでした。

執事と御者を協力者として逮捕、事件関与の証言も得ております」


 俺は貴族家絡みの事件ということで、宰相に報告しに上がった。

貴族子息の犯人を処理済みのため、いろいろと根回しが必要だったのだ。


「あの連続殺人が、貴族子息によるものだったとは……。

どこからあんな猟奇的な殺人方法が浮かんだのだろうか?」


 それは転生者の知識だろうとは、口が裂けても言えなかった。


「オースティン子爵家からは遡って廃嫡の申し出が提出されるだろう。

三男で良かったよ。

跡取りだったら、面倒なことになっていた」


 そこは貴族的なしがらみの問題なのだろう。

廃嫡した、三男がどうなろうが、オースティン子爵家は与り知らぬということになるようだ。

こうして猟奇連続殺人事件は一応の解決をみた。

ボードゥインが最後に語ったあいつ・・・が気になるが、本人亡き後、その先の捜査は行き詰ってしまっていた。


 切り裂きジャックっぽい事件をボードウィンに教えた教唆犯、そいつこそ凶悪犯の転生者に違いなかった。

マスコミが発達していなかったから、犯行予告などという愉快犯的な要素は実現していなかったが、それでも王都を震撼させる事件だった。

女性は外出を控え、誰もが被害者となりたくないと思っていた。


「そういや、あの刑務所にも他人に犯罪計画を指南して実行させていた凶悪犯がいたな」


 あの同じ刑務所に服役していたはずだ。

俺の後に入ったはずだ。

もしかすると、この事件もそいつが指南していたのかもしれなかった。


 俺が冤罪で捕まった事件、俺をはめたAは、俺を犯人に仕立て上げるために綿密な計画を立てていた。

だが、そこに俺は違和感があった。

Aはそこまで頭が良くない。

もしかすると、その指南役の指示でAは俺をはめたのではないのか?

そう疑ってしまうほど、Aとその犯罪計画の出来具合がマッチしないのだ。

それこそ、Aが疑わる事が無かった理由でもあった。

そんな計画、バカには立てられない。

そこに指南役がいたとすれば、成り立つ話だった。

それに気づいたのは俺の冤罪の判決が確定した後だった。


 この世界に、その指南役が転生しているのならば、俺の冤罪事件のことを確かめたい。

俺をはめた人物が2人だったかもしれないのだ。

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