第13話 切り裂き事件
次の不可思議事件は連続殺人だった。
路上で客をとっていた娼婦が切り裂かれて殺されるという、切り裂きジャック事件のような嫌な事件だった。
路上で誘拐され、どこかでバラバラにされてから、現場に遺棄されるという手口らしい。
その場で殺していないため、通常のお客さんと区別がついていないらしい。
ほら、路上で買って宿で行為をなんてことが当たり前に行われるからな。
娼婦が殺されるなどという事件は、この世界では良くあることだった。
なので闇ギルドのような非合法組織がケツ持ちとなり、夜の治安を維持していたのだ。
犯人は闇ギルドに捕まり粛清させる、というのが大方の結末だった。
「つまり、
「はい、手口が同じで、犯人も同じと見做されていましたが、被害者が5人にもなっても、まだ闇ギルドが処分出来ないという感じです」
そこは衛兵がやらんのかという意見もあるかと思うが、そこは闇ギルドの顔を立ててということらしい。
必要悪にもプライドがあるのだ。
「で、どうしてこっちに話が?」
「犯人が貴族ではないかという噂が……」
「また厄介な」
凶悪犯の転生者は、俺と同い年か1つ下に収まっている。
この事件、俺の女神からの任務とは管轄外な気がする。
だが、この特殊犯罪独立捜査機関としては、まさに必要とされている事件だった。
「カークとスケズリーに任せるよ」
彼らはそのための人員でもある。
だが、気になる点もあった。
切り裂きジャック事件との類似性だ。
犯人の推定年齢では管轄外だが、犯罪傾向としては管轄内と思えるのだ。
◇
「犯人をほぼ特定しました。
事件現場で目撃された馬車、それを追うことで、とある貴族が浮かび上がりました」
「さすがだな」
カークの報告に、簡単な事件だったと、俺はこの件は終了だと思っていた。
凶悪犯の転生者絡みではなかったしな。
「ちょっと面倒なことが……」
「なんだ?」
「闇ギルドが接触してきまして、獲物を譲れと言ってます」
俺は、その話を悩んだ末に受け入れることにした。
「わかった。
ただし、こちらも立ち会い、犯人だと確証を持ってからと伝えてくれ」
貴族に対する粛清、間違えましたでは済まない。
そこはきちんと証拠を掴まなければならなかった。
そして、犯人を譲る理由の1つが、闇ギルドの構成員の調査にあった。
そこに凶悪犯の転生者が居るかもしれなかったからだ。
「わかりました。
闇ギルドもそこは受け入れるでしょう」
◇
しばらくして、監視されていた貴族の屋敷から馬車が出たという知らせが入った。
闇ギルドが貴族の屋敷を完全監視していたらしい。
その馬車は、貴族家を表す紋章も付いていない、後ろめたいことに使用するようなものだった。
怪しさ満点だ。
その貴族の馬車が娼婦が集まる路地裏に向かう。
貴族ともなれば、高級娼館を利用する金など惜しくもないはずだった。
それが路上売りの娼婦を病気の危険を冒して買うなど、有り得ないことだった。
「こりゃ、確定か」
そして、人気がない路地裏で馬車が1人の娼婦の前に止まる。
「キャーーーーーー!」
ついに切り裂き魔の現場を捕えた瞬間だった。
「くっ! 魔法障壁だと!」
場末の娼婦が魔法を使えるわけが無かった。
それは闇ギルドが用意した囮の娼婦だったのだ。
周囲から闇ギルドの構成員が現れ馬車を囲む。
俺はこっそり【凶悪犯探知】を使った。
「いた」
なんと、その囮娼婦が凶悪犯の転生者だった。
俺と同い年の13歳で娼婦役とは……。
いったい、どんな人生を生きてきたのだろうか?
それと、またもやTSしている。
彼女は闇ギルドの構成員だった。
その生前の犯罪スキルが非合法活動に役立っているのだろう。
【鑑定α】もかけて生前犯罪歴を見たいところだが、それは一定時間目を合わせないと出来ない。
彼女は臨戦態勢で犯人から離れており、既に視界の外へと退避してしまっていた。
そのスピードと身のこなしは尋常なものではなかった。
「忍者か!」
スキルを良い方向に使うのならば、俺の部下に欲しいところだ。
忍者ならば、潜入調査に長けているはずだ。
【凶悪犯探知】は、他にも情報を齎していた。
それは犯人の貴族は俺のターゲットではないという事実だった。
「こいつ、執事だぞ!」
なんと捕縛されたのは貴族家の執事だった。
つまりそれは……。
「まさか、真犯人は他にいる?」
執事が犯罪に手を染めてまで従う相手、それは主家の者である可能性が高い。
つまり、そこに凶悪犯の転生者が待っている可能性もあった。
「囮娼婦は?
なぜ悲鳴を上げた?
こいつが切り掛かったのではないのか?」
忍者かと思った囮娼婦役が連れられてくる。
チャンスなので生前犯罪歴を【鑑定α】で見る。
『犯罪歴:ストーカー防止法違反 住居侵入 殺人』
あの身のこなしはストーカーのスキルか。
女性に転生してしまって、女性にストークする必要がなくなったのか?
住居侵入で潜入調査には長けてそうだな。
「値段交渉前に腕を掴まれそうになって……。
誘拐されると思いました」
ああ、これでは切り裂かれそうになったからという感じではないな。
ちょっと証拠不足で、貴族家に真犯人が居たとしても踏み込む訳にはいかないぞ。
「それでは切り裂き事件の犯人としては証拠に乏しい。
しかも執事を捕まえてしまったので、次が無い」
執事は誘拐未遂で検挙出来るが、それ以上の切り裂き事件では検挙する証拠がない。
彼女は誘拐され、切り裂かれそうになるまで叫んではいけなかったのだ。
大失態だった。
「このまま執事には隷属魔法をかけて、囮を行き先まで運ばせる。
そして真犯人が出て来たら捕まえるなり殺すなりするで良いか?」
「ああ」
13歳の俺が現場を取り仕切るので闇ギルドの連中も戸惑いを見せる。
しかし、俺が特殊犯罪独立捜査機関の長だとカークに聞かされているようで、文句は出なかった。
「やれるな?」
「はい……」
転生者の女は項垂れて指示に従った。
危険を回避する腕はあるんだろうから、何を落ち込む?
「これでまたクビかもしれない……」
どうやら仕事に失敗して闇ギルドをクビになる心配をしていたようだ。
あれ? ここは身の危険を心配するところだぞ?
こいつ、なかなか肝が座ってるな。
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