第12話 マルチ事件
「ジェイソンですが、新たな奴隷を購入しました」
俺が貴族学校から特殊犯罪独立捜査機関本部として借りている建物に向かうと、部下のカークが報告して来た。
「それで古い奴隷は?」
「仲良く連れ歩いているのが目撃されています。
その姿は貴族子女に見紛うほど大切にされているようです」
スケズリーがジェイソンの普段の姿を伝える。
どうやら、普通にロリ奴隷と楽しくやっているようだ。
それもそのはずで、ジェイソンもまだ13歳で、買っている奴隷もまだ12歳になるかどうかなのだ。
奴隷たちがロリコンとしての許容範囲を出るような年齢ではまだなかった。
伯爵家なので、奴隷たちを養う財力もある。
幼女奴隷の購入所持という、前世での犯罪行為がクリアされたがため、ジェイソンがわざわざ犯罪に走る理由が全くなかったのだ。
彼はロリコンを謳歌していた。
犯罪が表沙汰にならないように殺す必要もない。
「ジェイソンは道を踏み外さないようだな。
他に何か怪しい噂などは聞いていないか?」
「そういえば、世間では人を紹介すると儲かるという儲け話が流行っているな」
「なんだそれは?」
「入会金が1口100万DGで、元本が保証される。
そして、他の会員を勧誘するとその会員の入会金から1万DGが紹介者に入るのだそうだ。
その紹介した会員が新しい会員を勧誘すると、そこからも1万DGが入るのだとか。
100人集まれば元がとれて、それ以上になると儲かるという仕組みらしい」
あー、それってマルチとかねずみ講って言うやつだな。
これ、明らかに裏に転生者がいるよね?
「それ詐欺だね。
一番上の人とその周辺が儲かって、その下の人達が損して終わるやつだよ」
儲け話を教えてあげていると思いて込んでいて被害者が自主的に被害者を増やすんだよな。
このぶんだと特殊詐欺とかこの世界に免疫のない詐欺も横行しそうだな。
「我が特殊犯罪独立捜査機関初の捜査対象に認定します。
その儲け話の胴元を捜査してください」
「「了解しました」」
「胴元の特定、そして摘発を行います」
こうしてマルチ撲滅が特殊犯罪独立捜査機関初の捜査対象となった。
「俺は宰相閣下に面会を申し込んで報告して来ます」
王命で始まった特殊犯罪独立捜査機関だが、法律の外で摘発するからには、その犯罪が罰せられるべきものなのか、それが事実なのかという審議を要することとなる。
それが宰相閣下への報告と理解、そして承認の必須となっていた。
今回は犯罪行為の情報と、それによる被害拡大の懸念の報告になる。
◇
王城に上がると宰相閣下との面会を申し込んだ。
すると程なくして、宰相閣下との面会が許された。
挨拶もそこそこにマルチの危険性を訴え出る。
マルチの仕組みを理解してもらうのに、そんなに時間はかからなかった。
さすが王国の宰相をやっているだけのことはある。
優秀なお方だった。
「なるほど、気付いたら自分たちが加害側になっているということですね。
そして、一番儲かる連中は金を持って逃げると」
「はい、そうなってからでは被害が大きくなりすぎると思い、摘発の許可をいただきに参りました」
「それ、破綻まで経験させましょう」
「え?」
「そうならないと、誰もマルチ被害にあったと気付かないでしょう?」
「なるほど、そうですね」
被害にあったと気付かなければ、学習しないということもあるな。
そして、独自にマルチを継続しかねない。
上が居なくなれば、自分たちが一番儲かるのだ。
「それと、マルチを違法とする法律を発布しなければなりません」
さすが宰相閣下。
有能過ぎて頭が下がる。
「それにしても、よくこの仕組みに気付きましたね?」
宰相の知的な瞳がきらりと光る。
俺がマルチに詳しいことに、疑問の目を向けて来たのだ。
そりゃ俺は転生者でマルチの知識があったからなんだが、それを伝えるわけにもいかないのが悩ましいところだ。
「儲け話には裏が有るに決まっているじゃないですか。
それでよくよく考えたらおかしいなって、危険性に気付いたわけです」
「13歳で?」
ギクッ!
「たまたまです」
この人、心臓に悪い。
「まあ、そういうことにしておきましょう」
このマルチ摘発は破綻して騒ぎになるまで放置されることになった。
俺たち特殊犯罪独立捜査機関は、マルチを始めた胴元とその幹部たちの特定を進めることとなった。
◇
「あの子供が発案者だそうです」
「(【凶悪犯探知】)」
俺は凶悪犯の転生者を特定するスキルを使用した。
そして、その件の子供が凶悪犯の転生者であると特定した。
「(【鑑定α】)」
そして、その凶悪犯の魂が持つ犯罪歴を調べてみた。
『犯罪歴:マルチ防止法違反、出資法違反、詐欺、殺人』
詐欺事件のオンパレードだった。
そして、仲間割れか人も殺していた。
「間違いない。
この世界ではまだ違法で無いのを良いことに、やりたい放題のようだな」
宰相との約束通り、この場はスルーすることにした。
マルチを違法化し、それを以て摘発する予定だ。
「この野郎、騙しやがったな!」
その時、貴族風の男とその手下が現れ、胴元の転生者と幹部に斬りかかった。
「そんなバカな」
凶悪犯の転生者は成す術もなく斬り殺されてしまった。
この世界では法律が及ばない犯罪だったが、この世界だからこその私刑が横行していたのだ。
彼の敗因はこの世界に順応していなかったことなのだろう。
こうしてマルチ事件は新たな法律と、恨まれたら殺されるという教訓とともに幕を下ろした。
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