第25話 国境警備隊

 俺たちは不慮の事故による座礁で投げ出されてしまっただけだった。

馬が逃げたので捕まえようとしただけだった。

なのに、俺たちは国境警備隊にみつかって密入国者扱いになってしまっていた。


「待て、我々は……」


 カークが事の次第を説明しようとして言葉に詰まる。

さすがに隣の国の・・・・王家直轄の特殊犯罪独立捜査機関だなどとは口に出来ないと気付いたのだろう。

貴族のきまま旅だとしても、それさえ伝えられない。

それこそ、捕まってアレスター王家の紋章入りの剣などが見つかったら、外交カードとしての人質とされ、国にも迷惑がかかるのだ。

かといって、ここで事を荒立てれば、座礁した船を調査されて王家御用達の船だと露見してしまう。

そうなるとこの隣国はアレスター王国からの侵略だと言い掛かりをつけかねない。


 どっちに転んでも最悪の事態と成り得るだろう。

俺は頭を抱えるしか無かった。


「下がってろ!

【爆裂拳】乱れ打ち!」


 その時、俺たちの前に河賊王が現れ、隣国の兵士をぶん殴った。

その突然の出来事に俺達は成す術も無く見守るしかなかった。


「き、貴様は河賊のボス、ルディ!」


 あぶねー、名前が微妙に掠ってるじゃんか!

いや、その名前は転生者の自称だろうからわざとか!


「おのれ、貴様たちも河賊の仲間だったのだな!」


「違う!」


 なんでそうなると思ったが、ルディの行動がそう物語ってしまっていた。

否定すればするほど、信じてもらえる状況ではなかった。

河賊のボスが助けに来る=俺たちも河賊の仲間という図式だ。

ルディのやつ、余計なことをしやがって!


「おのれ、河賊は捕まえても死罪だ!

貴様らも仲間ならば死罪確定、よってこの場で処刑する!」


 なんという勘違い、なんという理不尽。

俺たちはルディの行動により河賊と勘違いされ、殺されようとしていた。


「うるさい、黙れ!」


 ルディが、国境警備隊だろう小隊の隊長と思われる男を殴り倒す。

それにより、部下たちが一斉に戦闘態勢に入った。


「ねぇ、殺ってもよいよね?

ねぇってば!」


 それを目撃したカレンが殺人衝動をさらけ出す。

こうなったら、俺達がここに居たという痕跡を消すしかない。

それは船や馬車の処分、あるいは目撃者全員の殺害となる。


「むしろ河賊の責任に出来るなら、それで良いのか」


 この現場を後に検証したとして、河賊に襲われたという物証しか残らないだろう。

なんとしてもアレスター王国の関与を消し去らねばならない。

これは犯罪だろうって?

隣国にとっては密入国は犯罪かもしれないが、俺たちにとっては理不尽に殺されそうになったという、むしろ犯罪被害者にあたる。

立場の違いにより、適用される法律が違うのだ。

俺たちの法では、反撃して殺すことがあっても、それは正当化されるのだ。

とにかく、裁判もなく殺そうとする方が悪い。


「スケさん、カクさん、カレン、やっておしまいなさい」


 お約束のキーワードで皆が動く。

カレンは攻撃して来ている国境警備隊へ。

カークは馬の回収を継続。

襲って来る国境警備隊には反撃する。

スケズリーは河船に向かい、損傷チェック。

なんならば証拠隠滅をはかる。

メイルは、俺の傍で護衛しつつ報告に離脱しようとする兵士を弓で攻撃する。

矢は後で回収だな。


「おお、まるで水戸「言うな!」」


 ルディの発言に危険な空気を感じ取った俺は、その発言を遮っておいた。


 国境警備隊は、河の岸辺を巡回していた小隊のようで、人数は16人程度だった。

その隊長は既にルディに殴り倒されていた。

そして、残りの部下たちは、隊長命令を守って河賊退治だと殺す気満々で攻撃して来ていた。

殺そうとするならば返り討ち、それはこの世界では仕方のないことだった。


 カレンが暴れ、同じぐらいルディが暴れて国境警備隊を倒す。

どうやらルディは殴りはするが殺しまではやっていないようだ。

そこらへん、義賊を気取っているのか?

もしかすると、前世を反省しているのかもしれない。

むしろ、カレンの方が殺しまくりだよ。


「カレン、倒れている奴らのトドメは刺すな」


 最初俺は全員を殺して口封じをしようと思っていたが、むしろ何人か残して河賊にやられたと証言させた方がカモフラージュになるかと思い直していた。

俺の旅装が貴族だとはバレないものだったからというのもある。

そこでルディが殴り倒した者たちは見逃すことにした。


「エル様、河船は浮いていますが、自力航行不能です」


 スケズリーが報告する。

つまり、アレスター王国関与の証拠が残りまくりのヤバイ状況だということだった。


「そうか……」


 このまま河船を残すとアレスター王家御用達の船だと、載せてある馬車がアレスター貴族のものだとバレてしまう。

馬も運べないので、馬の鞍などの装備品からも脚が付くだろう。

ここで移動手段を失うのは困るが、証拠隠滅が先か。


 いや、待て。

ルディはどうやってここに?

よくよく見ると、ルディが乗って来た河船が少し先で舳先を岸に突っ込んでいた。

座礁はしていないようで、そのまま後退すれば良いだけのようだ。


「ルディ、あの座礁した船を曳いてもらえるか?」


 いつのまにか、国境警備隊全員を倒したルディが歩み寄って来るところだった。

カレンも戻って来た。

カークも逃げた馬を引いて来ていた。

メイルも射た矢を回収済みだった。

河船さえ移動出来れば、アレスター王国の関与を消し去ることが出来そうだ。


「うちのせいで事故ったからな。

やらせてもらう」


 ルディの指示で河船がえい航された。

爺さんも興奮して頭に血が上っただけで、無事だった。

問題は壊れた推進装置だった。

これは前世の船外機みたいなもので、座礁によりスクリューが破損していた。

これを交換しない限り、この後の船旅は中止だった。


「仕方ねぇ。俺達のアジトで修理だな」


 ルディは間違えて襲った結果だからと、協力を申し出てくれた。

うーん、このまま関わっても良いのだろうか?

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