第26話 河賊のアジト
ルディたち河賊のアジトは、アレスター王国と隣国の間にある河の中州にあった。
つまり、河が国境のためにどちらの領有ともつかない微妙な立場だった。
彼らは、その時々で立場を使い分けて上手く立ち回っていた。
一方の国から税金を払えと言われれば、別の国所属だと言い張った。
だが、犯罪に巻き込まれた場合、どちらにも助けを求める訳にはいかなかった。
その行為が所属を確定させるからだ。
そこで造ったのが自衛用の戦船だった。
その戦船を河賊として活用し始めたのは、ルディが成長してからのことだった。
「爺ちゃん、修理頼むわ」
「こらルディ、また船を壊し……」
ルディの声に建物内から怒鳴って出て来た老人が、見知った船が引かれて来ていることに気付いたのだろう、声を失って固まった。
「おまえ、それは……」
老人は一目見て、その正体に気付いたようだ。
俺としても、この船が特別扱いで目立っているのは知っている。
「悪い、順番が違ってて間違えて襲った。
それが原因で座礁させちまってさ」
「おまえ、それはアレスター王家御用達の船じゃねーか!
終わりだ。
この中州もとうとう王国に目を付けられてしまう……」
老人が悲観しているのは、事実上アレスター王国に敵対したと認識したからだった。
しかも、ルディがその船を連れて来て、この中州が河賊に関わっているとバラしているのだ。
「大丈夫だ。
この人たちは間違いを許してくれたんだ。
だから助けた」
あっけらかんと言うルディの台詞に老人が何かに引っかかった顔をした。
「助けたって、船を曳いて来て修理してやるという意味だよな?」
「いや、ルーテリア側に座礁してて、この人たちが襲われてたから、警備隊をやっつけてやった」
老人がこめかみを揉み、頭痛を抑えるような仕草をする。
俺も同じ気持ちだ。
あの介入が無ければ、もっと穏便に済んだかもしれないのだ。
「なんで放置しなかった?」
「だから、襲撃を無かったことにしてくれた、良い奴らだからだよ。
昨日の敵は今日の友だ」
なるほど、それがルディの行動原理か。
傍観していた俺たちでさえ、彼がトラブルメイカーだと理解した。
「大丈夫だ。
全員ぶっ飛ばしといたから」
「殺してないだろうな?」
「俺は殺ってない」
「他の誰かは殺ってるのか?」
ルディがカレンを指差す。
殺しに来たから殺す、たしかにそれでカレンが殺ってる。
しかも、俺の思惑では河賊に罪を擦り付けられるという算段だった。
これは、まずいかもな。
平和な中州が隣国――たしかルーテリアと言ってたな――に襲われる理由を作ってしまったのかもしれない。
「ああ、仕方がない。
船を直してさっさと出て行ってもらうしかないな。
河賊の存在と一緒でこの町は何も知らんで通す。
おまえらも船と共に身を隠すのだ」
国境警備隊がやられたことが知られ、河賊討伐に動くまでの間、その間に船の修理を急ぐこととなった。
◇
「なるほど、座礁して船外機のスクリューをやったのか。
ならば、予備と交換して終わりだ。
推進軸の歪みは本格的な設備で直せ。
そこまでする時間は無いし、船外機ごとの交換は此処ではできん」
修理は応急修理となった。
動ける程度に修理し、大掛かりな修理または交換は大きな街で行えということだった。
「ほら、終わりじゃ。
ルディが原因らしいが、恨まないでくれよ」
「そこは了解済みだ。
何も言う気はない」
むしろカレンがルーテリアの国境警備隊を殺っていて、それを河賊のせいだと思わせて迷惑をかけるからな。
「ならば、さっさと出て行ってくれ」
老人はこれ以上関わりたくないという態度だった。
「ああ、そうだ。
この書類にサインをしてくれ。
何かあった場合は、有償で修理した商取引という体でいく。
大丈夫だ、金はとらん」
「わかった」
そういった偽装工作には協力させてもらおう。
こうして、また船旅が始まった。
ただし、次の寄港地には長く停泊することになりそうだ。
ムショ転生ーこの刑務所は更生値が高い?それ俺が冤罪のせいじゃないのか?ー 北京犬(英) @pekipeki0329
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