第8話 奴隷面談

 女性使用人により手入れをされた奴隷少女2人は、今度はきちんと応接室で待機していた。


「個別に話がしたい。

まずそっちの赤毛の子から執務室に来てくれ」


 俺が指名したのは奴隷商で3番目に紹介された奴隷だ。

この奴隷が凶悪犯の転生者だということは俺のスキルで把握済みだった。

そのことをはっきりと告げて、反応により処分するべきかどうかを決めたいと思っている。


「ご主人様、参りました」


 赤髪の少女は貴族と見紛うドレスを着せられていた。

その姿はまだぎこちなく、出自を想起させるものだった。

これは淑女として育てるには時間がかかりそうだ。

いや、そうではない。

それはジェイソンに対する表向きの話であり、俺の思惑はそうではないのだ。


 俺に呼ばれた赤髪の少女は、不安げな表情を見せつつも、鋭い視線を俺に向けて来ていた。


「単刀直入に言うが、君は転生者だね?」


「ど、どうしてそれを!」


「僕は女神様から、君たち凶悪犯の討伐を命じられている者だ」


 俺がそう告げると、赤髪の少女が身構えた。


何人なんびとにも危害を加えることを禁ず」


「くっ!」


 主人を害することを禁じるのは奴隷としての基本だったが、俺はその上に誰にも危害を加えてはいけないという命令を重ねた。


「さて、君の本心を訊きたい。

人を殺したいのか?」


「全てお見通しということか」


 その言動が急に男っぽくなる。

元男でTSしているから本性を現したのだ。


「ああ、元男だということもね」


 それを聞いて赤髪の少女は参ったというジェスチャーをして、抵抗を諦めた。

既に生殺与奪を握られていると理解したのだろう。

そして、殺すつもりならば、こんな回りくどく話す必要もないことも。


「俺には殺人衝動がある。

人を殺したくてたまらないのだ。

殺せないならば気が狂ってしまうだろう」


「やはり、そうなのか。

女神からスキルを良い方に使って更生しろと言われなかったか?」


「ああ、殺しが評価される職業があると言われたさ。

だけど、なんで転生先が女なんだ?

騎士になろうにも、男しか受け付けていないではないか!」


 騎士への採用は加えて生まれの身分も影響する。

男だったとしてもせいぜいが兵士止まりだっただろう。

運命の悪戯が彼の更生先を奪っていた。


「じゃあ、悪を斬るという仕事に就く気はないか?」


 俺はある構想を持っていた。

正義の殺しがあるならば、それに殺人犯を就ければ良いのではないかというものだ。

騎士にはなれないが、俺の下で女神に依頼された仕事、凶悪犯殺しをさせるのだ。


「そんな仕事があるのか?」


「俺の下で、凶悪犯を討つ仕事に就くことは可能だ」


「殺しが評価されるのだな?」


「ああ、無差別殺人でなく、悪を討つのならば、それは正義となるだろう」


「やる、やらせてくれ」


 赤髪の少女の表情がパッと明るくなる。

意外だが、それだけ見れば美少女だった。

殺しが出来ると喜んでいるというところが問題だがな。

「やる」が「殺る」に聞こえたのは気のせいではなさそうだ。


「ならば、表向き貴族子女と見えるように振舞え。

裏では俺の依頼で救いようのない悪を殺させてやる。

そのための武も磨くのだ」


「喜んで!」


 こうして俺は、殺人犯の転生者1人を更生させることに成功した。

たぶん。

女神様も、この結果には満足してくれることだろう。

何も討伐するだけが処分の手段では無いはずだ。


「そういや、おまえ、名前は何という?」


「カレン、庶民だから家名なんて無いただのカレンよ。

それではご主人様、今後ともよろしくですわ。

あ、夜のお仕事も頑張るからね♡」


 赤髪少女が急に女性らしく振舞い始めたが、中身がアレだと知っている俺は、全く食指が動かなかった。

俺はここに正義執行の手駒を手に入れたのだった。


「2人目を入れろ」


「ご主人様、参りました」


 銀髪が綺麗な、奴隷商で5番目に紹介された奴隷が執務室に入って来た。

例の呪術魔法でステータスを偽装されていた少女だ。


「呪いは解けたな?」


「はい」


 ならば、事情を訊けるはずだ。

そういったことを話せない呪いもあったらしいからな。


「どこの家門の者だ?

そして、なぜ、誰に、奴隷に落とされた?」


「私は、ミーハン子爵家の娘、シンディー・フォン・ミーハンと申します」


 ミーハン子爵家といえば、最近代替わりした地方貴族だったはずだ。

そんな知識が脳裏に浮かぶのも、俺の記憶が戻る前までの貴族教育の賜物だった。

貴族たるもの、世の中の動きは把握しておかないとならないのだ。

それが自然と身に付いているのは有り難いことだ。


「最近代替わりしたはずだな?

なのに何故息女が奴隷になっている?」


「家を乗っ取られました。

今の当主はミーハン家の血筋ではありません。

あいつは、言葉巧みに家に入り込み、ミーハン家を乗っ取ったのです。

その話術は巧みで誰もがだまされてしまったのです。

それで私は奴隷として売られて……」


 その手口に呪術魔法が関わっているということか。

人を騙し、それが呪術絡みというと……。


 まさか、霊感商法かなんかの詐欺宗教家というやつか?

どう見てもこれは凶悪犯の転生者だわ。


 これは、俺が討伐するべき転生者が見つかったのかもしれない。

しかも貴族位の簒奪ならば、大手を振って討伐出来るぞ。

それもミーハン家息女という復讐の御旗を手に入れている。

これでついに転生者討伐が成るかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る