第10話 ミーハン子爵邸に乗り込む
公爵家の馬車がミーハン子爵王都邸に横付けされる。
その御者はカレンがやっていた。
公言通り、爺さんは馬車しか貸してくれなかった。
俺を手助けする戦力、騎士や兵士などは派遣されていない。
馬車には御者のカレン、公爵家の引き渡し人の俺、そして引き渡されるミーハン子爵家息女シンディーだけしか乗っていなかった。
一応カレンが護衛役も兼ねるが、どこまで任務をこなせるのかはまだ未知数だった。
「殺って良いの?」
「まだだ。
ていうか、使用人や配下は殺しちゃだめだからね?
俺が襲われるなどがなければ手出しはするな」
殺して良いのは偽子爵である凶悪犯の転生者だけだ。
奴は、シンディーの祖父と父を殺し、父に成りすましているのだ。
それだけで処分対象としての必要条件を満たしている。
「おや、子供ばかりですか?
息女の引き渡し、ご苦労。
もう帰って良いぞ」
その言動は公爵家の使者に対してあまりにも無礼だった。
子どものお使い扱いだ。
これで言い掛かり的に偽子爵を討つ理由が成立する。
「それは公爵家に対する侮辱ととっても?」
不敬による所謂無礼討ちが成立しかけていた。
「ふん」
子供だと思って偽子爵が鼻で笑う。
「エルリック・テラ・アレスターである。
ダミアン・フォン・ミーハン子爵、いや偽子爵。
今までの言動、テラスターとして看過できぬ」
「おや、公孫殿下でしたか。
しかし、子供の戯言になど、誰が耳を貸すのでしょう?
現に役所に訴えても無駄だったでしょう?」
全部お見通しだった。
この場で不敬を叫んでも誰も対処してくれない。
俺たち子供が対処しない限り。
「(【鑑定α】)」
俺は密かに【鑑定α】を使った。
人種:人族(ヒューマン) 年齢:12歳 性別:男 職業:貴族(呪術師) レベル:6 スキル:治政(詐術) 隠蔽スキル:呪術 詐欺 殺人 前世犯罪歴:霊感商法詐欺、殺人
やはりこいつは凶悪犯の転生者だった。
おっさんに見えるが年齢は12歳で、子爵家で少なくとも2人殺している。
「それは呪術で操っているからだろ?」
「それを知っているのならば、生かして帰すわけにはいかないですね」
上手く隠蔽したつもりだろうが、本性が駄々洩れだった。
「使用人や護衛たちは呪術で誰も見ていないことになっています。
子供が消えても我が子爵家は与り知らぬことですから」
どうやら、俺が公孫であることは気付かなかったことにするようだ。
いや、ここで騒ぎを起こした公孫など、公爵家も認めないという話だったな。
「おまえだって子供だろうに」
「中身が大人なんでね!」
そう言うと、偽子爵が腕を伸ばして俺を捕まえた。
おそらく呪術を使うために接触が必要なのだ。
「ご主人様!」
カレンには俺に危害を加える者には反撃自由と言ってあった。
それにより、抑圧されていたカレンの殺人衝動が解放される。
だが、カレンが偽子爵を討つ前に、俺から反撃を加えた。
それは、女神様から授かったユニークスキルだった。
「【スキル強奪変換】」
それは触れた転生者から、前世から持っていた犯罪スキルを奪い、健全化するというスキルだった。
偽子爵からは、【呪術】【詐欺】【殺人】を奪い取った。
その犯罪スキルが【付与術】【話法】【戦闘技】に変換され、犯罪ではないスキルへと変化した。
それを俺が所持することとなった。
「バカな、【呪術】が使えない!」
「終わりよ!」
そして、カレンが手にした剣で偽子爵を斬り捨てた。
それは全て子爵家の使用人や騎士兵士に見られていた。
だが、彼らの反応は子爵を守ろうというものではなかった。
「この偽者め!」
「やっと解放されたぞ!」
「お嬢様、よくぞご無事で」
彼らは偽子爵の呪術によって操られていて、その呪術が施術した本人が死んだために解除され、元に戻ったということだった。
彼らの記憶には本物の子爵と次期子爵殺害の現場のものもあったという。
偽子爵の死を悼む者も、俺たちを咎める者も、誰も居なかった。
「強引だったけど、まさかこんなに上手く行くなんて」
一歩間違えば、俺は子爵襲撃の犯人として処分され、終わっていたのだ。
こんな場当たり的な対応、二度と御免だった。
◇
子爵家乗っ取り事件を解決したことで、俺は王都で有名になった。
これにより、独立捜査機関のようなものの立ち上げが許可されるという話が出ていた。
貴族の悪行を捜査し摘発する、或いは貴族と組んだ商人などの悪行を摘発する、そんな組織の必要性と、それに携わる人材の育成が叫ばれていた。
スキルによって偽者が子爵家を乗っ取るという事件が起きたのは、それだけ驚愕を以て受け止められたのだ。
特に子爵家息女自身が告発したのに、それが間にいた犯人の協力者により握り潰されていたことを重く見てのことだった。
どうやら、俺はその組織の立ち上げから携わることが出来そうだった。
これでやっと凶悪犯の転生者を摘発する手段を手に入れられそうだった。
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