第10話 月光に揺らぐ決意
ヴェール村から少し離れたところで、
「じゃあ、シルヴィスはここにいてくれ。村へ行くと皆驚いちゃうからな」
そうアレリウスが言うと、シルヴィスはおとなしく近くの森へ行った。
「今日中に帰るから、早く行こう」
「はい」
そう言葉を交わし、二人はヴェール村へ向かっていった。
――――――
二人は村に足を踏み入れた。
このヴェール村は、村というにはあまりにも広く発展している。涼しい気候が心地よく、住みやすさも良い村だ。
「帰ってきた!ヴェール村!!」
「ここ数ヶ月で何があったのかとか、しっかり聞いとけよ~」
そうアレリウスが声をかけると、ミレナは気持ちを抑えながらも目的地へと進んでいった。
「先生ってのはどんな人なんだ?」と歩きながらアレリウスは尋ねた。
「私は小さい頃から、この村を守るヒーロー、つまりハンターになりたかったんです。そこで私が剣術を教わったのが、その先生なんです」
ミレナはかつて、村に住み着きのハンターであるガルヴィンという男に剣術を教えてもらい、ハンターとして活動していたことを打ち明けた。そして、村のハンターとして環境調査を行っていたことまでは覚えているそうだ。
つまり、何かあったのは調査の後だ。
「そうなのか!だからあんなに対人慣れしていたんだな!」
あの強さは先生の教えのおかげであることが分かった。
「アレリウスと戦った記憶が無いので、なんとも言えませんが・・・。せっかくなので、帰ったら対人戦の稽古をつけてあげますよ?この一件に首を突っ込むなら覚えておいて損は無いと思いますが」
「じゃあ、よろしく頼むよ」
そして、そんな会話をしている内にガルヴィンの家に到着した。そのはずだった。
「家が・・・無い」
ガルヴィンの家があった場所だけきれいに無くなっており、消息が不明になった。
「・・・少し近所に聞いてみましょう」
二人は近隣住民に、ガルヴィンについて尋ねて回った。
その結果、ガルヴィンが亡くなっていることが分かった。死因は他殺だった。
ミレナがそのことに放心しているのも束の間、突然ミレナに向けて大声が発せられた。
「お前!!!ミレナじゃねぇか!!!」
声のする方向へ目を向けると、警備兵の格好をした男がこちらを見て声を上げていた。
その男を見たミレナは、その男の方へ走って行き聞いた。
「ガリックさんじゃないですか!!丁度良かった、先生について何か――」
聞いた瞬間、ガリックという男は笛を鳴らした。その音で男の仲間が集まり、二人を取り囲んだ。
「な、何しているんですかガリックさん?私は先生について尋ねたかっただけで・・・」とミレナは戸惑ったように尋ねた。
そして、ガリックが叫んだ。
「とぼけるな!!ガルヴィンを殺したのはお前じゃないか!!!」
その言葉にはミレナだけではなく、アレリウスすらも驚きを隠せなかった。
「言っている意味が・・・分かりません!私が先生を殺したっていうんですか!?」
「まだ言うか・・・。なら嫌というほど教えてやるよ」
ガリックはそう言い、事の一部始終を語り出した。
本人曰く、ガルヴィンが殺害されたのは1ヶ月前であり、その殺害現場に偶然居合わせていたのが、ガリック達だった。ガルヴィンの家へ入った時、その遺体のそばにあったのは、抵抗の跡とミレナの姿だった。
「・・・!!思い・・・出しました・・・」とミレナはつぶやいた。
ミレナは記憶の無い期間でガルヴィンを殺害しており、殺害したときは別人格になっていたのだ。そのためアセロンに頭部を攻撃されて正気に戻り、空白の数ヶ月が生まれたのだ。
そしてミレナは無抵抗のまま捕らえられ、手を出すことの出来ないアレリウスと引き離されてしまった。
――――――
ミレナは牢獄に入れられ、拘束されていた。今のミレナならこんな拘束を解くことは容易いことだが、ガルヴィンの死が彼女の抵抗力を奪っていた。
ミレナの牢獄の前にガリックが座り、話した。
「なんでガルヴィンを殺した。お前達は家族みたいだって、村でそう言われていたじゃないか・・・」
「・・・・・・、分かり・・・ません」
「ふざけんなよ・・・・理由はどうであれ、お前の厳罰は免れない。いくら知り合いの俺でもお前を擁護するつもりは一切無い。ガルヴィンがどれだけ慕われていたのか知っているなら、どうなるかぐらい分かるだろう」
「ならば・・・、せめて両親に会わせて下さい」
自分がどうなるか悟ったのか、両親に会うことをお願いするミレナ。
「それは出来ない。この事が村中に知れ渡る前に、身の安全を考慮してこの村から出て行ってもらった。今は新しい地で暮らしているから安心しな」
これから自分が、公平性もクソも無い私怨だけで裁かれることをミレナは理解し、その時を待つのだった。
その夜
アレリウスはミレナを救うために、彼女のいる牢屋がある建物の前にいた。
彼はミレナが何をしたのか説明されていた時、彼女の表情を見て本当に何も知らないことを理解した。彼女が殺害したことが揺るぎのない事実だとしても、見捨てられないのがアレリウスだ。
アレリウスは建物の中へ入り、看守の人間へミレナに会わせるよう言った。
だがやはりその答えはNoだった。
――――――
あの後、アレリウスは強行突破を行い、看守達をなぎ払って建物を上っていった。
「ミレナ!!!!!」
その叫び声が聞こえたと同時に、ミレナのいる檻の前にアレリウスが現れた。
そこでアレリウスが目にしたのは、全身に暴力を受け、気を失っているミレナの姿だった。服は剥かれ全身には痣があり、綺麗だったその顔は傷だらけになっていた。その上、乱暴された痕まであった。
アレリウスは激しい憤りを感じた。公平性など無いことぐらい理解しているが、裁きを待たずしてこのような仕打ちがされてもいいのか?と。
そしてアレリウスは傷だらけのミレナに布をかけ、脱走するために牢獄の壁を破壊した。
そこにガリック達が追いついてきて、複数人で彼の前に立った。
「やめた方がいい、旦那。ここは9階な上、外は崖になってんだ。ここで引き下がるってんなら、村出禁で済ましてやる」
「悪いが・・・、もうここに来ることもなければ、関わることもない」
そう言ってアレリウスは空けた穴から飛び降りた。そして口笛を鳴らした。
アレリウスのまさかの行動に、衝撃を受けるガリック達の視線を、一つの影が盗んでいった。
その視線の先には、銀色に輝く竜の姿があった。月の光に照らされて輝く神々しさに目を離せない。そして全ては月へと吸い込まれていった。
そんな中、いち早く正気に戻った看守がガリックに、早く追おうと言った。しかし、ガリックはこう返した。
「もういい・・・、もういいんだよ」
彼の心は、終わりを求めていたのかもしれない。
――――――
「うぅ・・」と唸りつつ、ミレナが目を覚ました。
太陽の光が目を差し、風が吹いていた。
二人はシルヴィスの背中に乗り、ノルス村へ向かっていた。
「起きたか・・・。一緒に帰ろう・・・」
「・・・うん」
シルヴィスの背から景色を見ると、雪に覆われた大地がまるで無限に広がる銀世界のように広がっていた。太陽の光がその表面を穏やかに照らし、雪がきらめきながら反射してまるで宝石のように輝いている。その光景は、青空と調和し、天と地が一つに溶け合ったかのようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます