第10話 血染めの絆
アレリウスの予想通り現れた謎の人物は、彼らを挟み込むように二人立っていた。
「はぁ~、またこんなポンコツ造っちゃって。もっと強いの造りなさいよ」
謎の人物の一人がつぶやいた。
片方は女で、フードを深く覆っており、歪な槍を携えていた。アセロンの言っていた特徴と完全に一致しているのが一瞬にして見て取れた。
もう一方は男だった。2m以上あるであろう身長に、漆黒の鎧を全身を纏っており、所々青く光っていた。そして男は大型の戦鎚を持っている。
「おいおい・・・アイツ、アセロンの言っていたルーカスの仇か?つまり・・・今からやり合うのか?」
アレリウスがそう呟くと、謎の人物のフードを被っている方が、彼の方に気付いた。
「そうだねぇ・・・私達はあんた達二人を消しに来たの。あんた達、私らについて調べようとしてるらしいじゃない? ならやり合うことになっても、仕方無いよね?」
「何だと・・・?それをどこで知ったんだ!」
何故か女達にアレリウスのこれからすることがバレており、それで女達が彼らの元を訪れたらしい。
いずれにしろ、アレリウスは覚悟を決める必要があるらしい。するとミレナがアレリウスへこう言った。
「村のみんなは避難が完了してるから、そこは心配ないけど・・・この人達、あれだよね」
「そうだ。俺がこれから調査する予定の相手だ」
アレリウス達は武器を構え直し、戦闘態勢に入った。
「じゃあ、さっさと終わらせようかな!」
謎の女がそう言うと、戦闘が始まった。
アレリウスが大柄の男、ミレナが謎の女の相手をする展開となった。
アレリウスの本格的な対人戦闘は、これで二度目だ。しかし、以前とは違ってその訓練を積んだため、アレリウスはある程度は戦えていた。
そして、相手にしている男は戦鎚を巧みに操り、時には人外の如き力に任せて振り回した。経験不足や身体能力の差で苦戦を強いられていた。
一方ミレナの方を見てみると、謎の女と互角の戦いを繰り広げていた。
しかし、その余所見のせいで、アレリウスは戦鎚の一撃をもろに受けてしまった。間一髪の所でその一撃を盾で防いだものの、アレリウスは何十メートルも吹き飛ばされ、先あった家の壁へと叩きつけられた。
一撃を防いでも、全身に衝撃が広がっていった。あまりの衝撃と激痛で意識を失いそうになるが、失う寸前でなんとか持ちこたえた。今の一撃が後を引いているのか、ランスがいつも以上に重く感じた。
そのため武器を持ち替えようと腰に手を回すも、腰に携えていた剣は、先程の一撃によって壊れていた。
「こいつは・・・既に限界だったのか」
男は一言も発すること無く、アレリウスに近づいてくる。
アレリウスはここで倒れるわけには行かない。彼はランスを地面に突き刺し、重い体を頑張って起こした。
――――――
一方ミレナはというと、先ほどの戦況から変わって苦戦を強いられていた。
ミレナから見た謎の女は、恐怖そのものだった。女の攻撃を見切ることはでき、その上反撃に出ることも出来る。
しかし、相手は自分の攻撃を避けるようとしないのだ。頭や胸のような重要な部分を守るだけで、それ以外は防ごうともしない。そいてどんなに切り裂いても、どんなに打ち砕いても、その箇所が瞬く間に再生するのだ。
覆われていく 女から発せられる何処と無い重圧に
「どうして切っても切っても復活するの!?」
「あれ?アンタも出来るハズなんだけどな~」
女は軽い感じで、凄いことを口走った。しかし、言われたミレナは全く知らないという表情を浮かべている。
ミレナの本当に分からないといった様子に、女は手を止めて言った。
「そう・・・記憶が無いってのは本当だったみたいね。でも、この力はいいよ~? 自分が自分で有り続けられる、生きている心地がする。忘れたなら、また教えてあげようか?」
「・・・嫌だ!私はそんな・・・化け物みたいにはなりたくない!」
ミレナは叫んだ。
すると、女は突然表情を変えた。その表情はまるで、ミレナの意思を嘲るようなものだった。
「そんなこと言っても・・・あんたはその力に生かされているだけで、もう人じゃないのに。あと、化け物は心外ね。ちゃあんと”暁”っていう名前があるのに」
暁という女は、ミレナを蔑むように言った。
「分かってたわよ・・・。記憶の手がかりかもしれないあんたの力を見て、薄々気づいてたよ。本当は私はもう、人じゃないのかもしれないって・・・。でも、それでも嫌だ!生きる意味に、生きる事を否定された私にも、僅かな道は示された!だから、私はそんなバケモノにはならない!」
ミレナの叫びが響き渡り、二人の間に一瞬の静寂が訪れた。
「ふ~ん?大切な人を手にかけて、家族を巻き込んだのに、会って間もない男に言われたぐらいでそんな意思を持つなんてね」
舐め腐ったように暁は言い放った。
「私の犯した罪は消えないことぐらい・・・分かってる。だから、それを結末にしたくない!向き合うのはそれからでいい」
いつの間にかミレナの恐怖心は消え、彼女の目には決意が溢れていた。両手に持った剣先を暁へ向け、精神を研ぎ澄ましていく。
暁の力へ対する恐怖心も、大切な人を殺した罪悪感も、全て溶けていく。
「それはよかった。じゃあ、冥土の土産に教えてあげる」
すると暁は場の雰囲気を変え、次々と話し出した。
「アンタが先生を殺したこと、本当はアンタは悪くないわよ?アンタの先生が悪いの。彼は私達の存在や目的に勘づいていたから、都合が悪い存在だったのよね~。でも私達が行くよりも、アンタのような身の回りの人間を仕向けた方が抹消出来る成功率が上がると思ったの。だから利用させてもらっただけ」
「・・・何だって?」
ミレナの先生はいち早く暁達や異形に関する異変に気付いており、この異変について調べ始めてしばらくして、ミレナによって殺害された。彼女はただ暁達の都合で先生を殺すために利用されただけだった。
ミレナは怒り、暁へ斬りかかった。
「ふざけたことを言わないで!!そんなことのために私は・・・!!」
――――――
場面は戻り、アレリウスはゆっくり近づいてくる男と、真っ向から対峙していた。
アレリウスは、全身から溢れてくる血液を感じながら、対策を練っていた。このランスを使ってあの化け物とどう戦うか、何か使える道具は無いか考えている。そして彼は腰に下げているポーチに手を突っ込み、ある道具を探し始めた。
探り始めた動きを見て、目の前にいる男は戦鎚を構え、警戒している。
そしてアレリウスは何かを取り出して左手に持ち、ランスを構えた。
「一か八か・・・この道具に賭けてみるか・・・?」
すると男はアレリウスの右側へ向けて走り出し、彼の右方向に辿り着いたと同時に彼へ迫った。アレリウスの状態が芳しくない事、道具は左手に持っている事を利用した動きだ。
それが分からないアレリウスではないが、体が思うように動かないため、戦鎚を防ぐことしか出来なかった。彼の持っている盾が歪み、第三第四の腕に激痛が走った。
アレリウスが反撃に出るより前に男は離脱し、間髪入れず別方向から攻撃を浴びせてきた。アレリウスは攻撃を防ぐことしか出来ず、精神と肉体が削られていく。
しかし、彼はそんな中でもひっそりと機会を窺っていた。そして彼はおもむろに、先程取り出した道具の何かを外した。
「・・・!今しか無い!!」
男はアレリウスが道具から何かを外したのに気付いたのか、彼の正面からトドメを刺そうと接近してきた。アレリウスは男が正面から近づいてくるのを確認し、手に持った道具を自身の足下へと投げ、正面を盾で覆った。
「・・・!」
次の瞬間、アレリウスの投げた道具が爆発した。その爆発につられ、ミレナと暁の目線が奪われ、ミレナは立ち込める煙へ向けて叫んだ。
「何やってんのアレリウス!?」
一瞬、砕けた地面と巻き上がる砂や雪が、男の視界を奪った。
そして男が次に目にしたモノは、自分の間近まで接近してきたアレリウスだった。
「一瞬だけでいい・・・一瞬で!」
道具を足下に投げたこと、道具爆弾だったこと、それによって視界を一瞬奪われたこと、この三つがアレリウスの接近する余地を作った。
彼が一番爆発に近かったが、彼の装備は下半身がより頑丈になっているため、無事だった。
アレリウスは男の胸めがけてランスを突き出した。
しかし、アレリウスの右胸に突然激痛が走り、思うように力が入らなくなる。そしてランスの先端がぶれてしまい、ランスは男の鎧を掠めて空を切った。
男はすかさずアレリウスに蹴りを入れて突き飛ばした。
「しかし、今のには驚かされたぞ」男は初めて言葉を口にした。
「・・・開口一番がそれかよ。手前ぇみたいなのに喋らせただけ、マシだった、ってか?」
アレリウスの鎧に、爆発によって破損した箇所は無いが、男に蹴られた胸部が破損していた。一方男の鎧には、一切傷が無かった。アレリウスの鎧を蹴りで破壊したのにも関わらず傷が一切無いことに、彼は違和感を覚えていた。
そしてアレリウスは血を吐きながら男に聞いた。
「その装備は・・・一体、何で出来ているんだ・・・!?」
「・・・それぐらいなら教えてやろう」そして男は話し始めた。
男の、黒くて見る者を圧倒する鎧は、かつて自分で狩ったモンスターから作られたそうだ。
そのモンスターとは “幻龍” と呼ばれており、まるで幻のように姿を現さないことから付けられたモンスターの総称である。幻龍はそれぞれ強大な力を持ち、その場に存在するだけで一帯の気候を変動させてしまうなど、すべてが神秘に包まれた存在だ。
そしてその男が狩った幻龍とは、「冥焰(メイエン)」という幻龍だ。
全身を漆黒の甲殻で多い、その節々は青く光っている。圧倒的なまでに巨大な体格に協力な筋力、そしてあらゆる物質を貫く光線で地上を支配する。そして冥焰が現れると周囲は昼間でも暗くなり、風や雨は止み、一帯が静寂に支配される。
その冥炎の外殻を最大限利用して出来たのが、男の鎧というわけだ。
「幻龍・・・本当に存在しているとは・・・」
「説明は終わりだ。いい加減死んでくれ」
そう言って男は、再びアレリウスに向けて戦鎚を振り回した。そしてアレリウスは体を無理矢理起こし、盾を前方へと構えた。
しかし、今の彼に力は殆ど残されておらず、また弾き飛ばされてしまった。
そこからは再び一方的な展開が繰り広げられた。アレリウスの意識は徐々に遠のいていき、男の攻撃に反応できなくなっていく。
そんな中でアレリウスは死を悟っていた。
――――――――――――
――――――――――――
「アレリウス・・・リオラの事は・・・あなたに任せた・・・」
「母さん!!そんな事言われても・・・!!」
俺の両親は、俺とリオラを残して死んじまった。父さんは仕事中の事故、母さんは病死・・・恐らく心因性のものだろう。
さらにリオラは幼い頃、病気を患っていたのだ。最悪の場合は死に至るような病だ。しかもその病気を治すのに必要な薬代はかなり高額。
そして俺は仕事に明け暮れるようになった。その時の俺はおよそ14歳。働くために必要な体力は十分にあった。父さんと同じように鉱山で採掘したり、修理工に商人手伝いのようなことまでやった。それでも、足りなかった。
「お兄ちゃん・・・少しぐらい休んでもいいんじゃ・・・?」
「駄目だ・・・!このままじゃお前が・・・」
もっと高給の仕事は亡いかと探していた時に見つけたのが、“ハンター” だ。
依頼によって報酬はまちまちだが、平均して見ると、かなり高めに設定されている。特にモンスターを狩るような依頼だとより高い。
ここで発生する問題が、命の危険だ。ハンターは給料が高いだけで死亡率は以上だ。知り合いにハンターがいるか、元より恵まれた才を持っている必要がある。
「なあリオラ・・・。俺、ハンターやってみようと思うんだ」
「・・・本気ですか!?やるにしても、指導してくれる人も施設も・・・あ!!」
「そうだよ。一個だけ伝があんだよ。上手いこと行けば、お前を直ぐに治してやれるかもしれない!」
そして俺は、父の知り合いであるハンターの元へ訪れ、ハンターとしての手解きをしてもらえないかと頼んだ。
父の知り合いからは何度も警告を受けた。命の危険がだとか、リオラがいるのにとか、色々言われた。でも、目の前にうまい話が落ちているんだ。逃すわけが無い。その警告に対して大丈夫だと何度も答え、遂にハンターとしての指導をしてもらえるようになった。その指導されている期間でも、仕事は欠かさなかった。勿論、お金はまだ足りない。
「よし、アレリウス。初めての仕事だが・・・くれぐれも死ぬんじゃねえぞ」
「大丈夫だって。でも師匠言ってただろ?今回の依頼は簡単だって」
俺は初の依頼を受けることとなった。
この依頼は今でも覚えている。糞雑魚モンスターの群れだったかな?
「今回の依頼では、お前の適性を調べるつもりで来ている。という訳で、俺はここで見てるから行ってこい」
「しゃあ!行ってくるぜ!」
俺は高まる気分と共に、その糞雑魚の群れへと飛び込んでいって、その群れを蹴散らした。
でも終わった時の師匠は、やけに驚いた顔をしていたな。どうしてだ?糞雑魚だって言ってたのは師匠の方なのに。
そして今回の依頼を終えて、俺はハンターとしての適正があると見なされ、ハンターとして働くようになった。
弱くても迷惑なモンスターを狩ることから始めて、弱くは無いモンスターを狩って・・・いつの間にかフォルガーになっていた。
しかし、そこに至るまでの過程で、師匠はどこかの町へ引っ越していった。
その時にはもうリオラの病は完治し、二人でハンターとして暮らしていた。
だがある日、奴が現れたんだ・・・!
「兄さん、彼が今回一緒する方じゃないですか?」
「なんだアイツ・・・ゴツいな。しかも何だあの剣・・・デカいな」
「今回の依頼、一緒にやるっていうのはあなた達ですか?」
そうだ、アセロンだ。
この依頼も覚えているぞ・・・!
ルナレア村の人手が足りないとか何とかで、ノルス村の俺達が派遣されたんだ。
依頼の対象は強力なモンスターだったが、厄介なモンスターだった。確かに、俺達が派遣されるのも頷けるような面倒なやつだった。
だがしかし!その依頼が終わって飲んでると・・・リオラとアセロンが何か良い雰囲気になっていやがった!
会話を盗み聞きしてみると・・・
「アセロン・・・さん?今回の依頼、お疲れ様でした」
「あ・・・うん。というか、アセロンでいいよ・・・」
何緊張してんだこの童貞野郎! リオラの美貌に狼狽えてやんの!
「また今度・・・個人的にお邪魔してもいいですか?」
「・・・分かった。待ってるな」
ふざけんな!絶対に行かせねえぞ!
しかも村に戻ったら真っ先に俺に聞いてきたんだよなあ・・・
「兄さん、あの・・・」
「・・・ん?何だ?(すっとぼけ)」
「これから入ってる依頼って・・・どんな物がありましたっけ?」
これから入っている依頼とは、俺達がフォルガーであるが故に、依頼主の方から直接依頼をお願いされることで発生した依頼だ。ちなみにこれから入っている依頼は、どれも面倒なものばっかりだった。
ちなみにこういった依頼の管理は全て俺がやっているから、リオラは聞いてきたんだ。
そして俺はリオラの問いに答えた。
「・・・そんなの決まってるじゃ無いか」
クソ面倒なのばっかりだ!お前も残れ!アセロンの所へ行くな!!
「・・・大したのは無かったな。俺一人でも十分だ」
「・・・!じゃあ私、明日からルナレア村に行ってきますね!」
そうだった・・・。この後リオラがルナレア村から帰ってきたとき、挨拶だの何だのでアセロンを連れ帰ってきたっけ?
――――――――――――
――――――――――――
まるで走馬灯のように、過去の思い出が頭を駆け巡った。
それでも戦鎚は、無慈悲にアレリウスを襲う。
『今思えば・・・ずっと誰かのために動いているだけだったな――』
遂に、彼の持っている盾が全て破壊され、第三第四の腕も
『ミレナの記憶を取り戻すのも・・・今やっていることはアセロンのためだ・・・』
彼は自ずと、誰かのために出来ることがあれば進んで行ってしまう。今回に至っては、身内の人間が確固たる決心で復讐を果たそうとしている。協力を必要としていなくても、彼は自分から協力しようとしていた。
「う・・・」
アレリウスはこんな弱々しい声しか出せなくなっていた。
持っていた盾は壊され、本来は武器であるはずのランスで戦鎚を防いでいた。
残された力で男の攻撃を防ぎ、終わる瞬間を刻一刻と待つだけ・・・。
彼の発する呻き声も、槍と鎚がかち合う音にかき消されてしまう。
だがそれでも彼は諦めたくなかった。
『誰かに尽くすことが俺の本質なら、ミレナを導かなきゃいけいのに・・・』
そして頼みの綱であるランスも折られてしまった。しかし彼は――
「こんな形で死にたくない!!!」
正面から振り下ろされる戦鎚を見切り、折れたランスを駆使して全力で受け流した。受け流すことに成功したものの、あまりの衝撃でランスは弾き飛ばされてしまった。
だが、アレリウスは狙っていた。
彼は男の胸にめがけて膝蹴りを放った。
「・・・どうだ?これは予想外だったろ・・・」
「まさかこれは・・・!」
男は突然動きを止めた。
実はアレリウスの鎧の膝部分には、とある仕組みが備わっていた。その仕組みとは・・・
「膝から剣が出るのか。面白い」
「仕留め損なったか・・・!」
鎧の膝部分からは、剣が出る仕組みが備わっていた。この仕組みは、この鎧を作った鍛冶師とアレリウス自身しか知らないまさに隠し球だった。
そしてこれが功を奏したのか、男の胸部へ突き刺すことに成功した。
それでも、この男を仕留めるまでには至らなかった。
「策は出きったようだな」
男はアレリウスの膝を掴んで彼を持ち上げ、地面へと叩きつけた。
地面に仰向けで倒れるアレリウスを見下すように男は立っており、胸に突き刺さった剣を抜いて戦鎚を持ち直した。
するとアレリウスはふらふらと立ち上がった。震える脚を、痛みしか感じない体を、死から逃げようとする頭を全力で動かして。
「死ねない・・・死にたくない・・・!!
吐いて出てくるのは、血液と命乞いともとれるような悲痛な叫びだけだった。
そんなものが男に届くはずも無く、戦鎚が無慈悲に振り下ろされたその時――
「アレリウス!!!!」
どこからかミレナの叫びが聞こえ、アレリウスは体が突き飛ばされるのを感じた。
そしてアレリウスの足下で凄まじい衝撃波が放たれた。死を覚悟した彼だったが、目を開けるとそこには―――
両足の潰れたミレナが倒れていた。
「・・・ミレナ?お前・・・何して――」
「お願い・・・逃げて・・・」かすれた声でミレナが言った。
彼女の両足から血液が大量に流れている。このままでは出血多量で間もなく死んでしまう。
「俺の・・・生きる意味って・・・」
深い後悔の念に駆られていると、暁が彼の所に来た。
「ちょっと~、貴方胸を刺されてたけど?」
「あれは驚いたが、致命傷は避けた」
アレリウスとミレナが全力で足掻いても、彼の目の前に立っている二人には遠く及ばなかった。
すると暁はアレリウスの方を見て何かを言っている。
「一生誰かのために尽くす・・・これがあんたの渇望ね・・・。じゃあ、おさらばだね」
「おさらばって、・・・ぐっ!!」
そして暁はアレリウスの胸にナイフを突き刺し、だらりと力の抜けたアレリウスをゆっくりと地面に寝かせた。
「それじゃ、私達はここでお暇させてもらうね。先に地獄で待っててね~」
「貴様という男、中々に面白かったぞ」
そして謎の二人は去って行った。
ミレナは力が抜けていく体を這いずらせ、アレリウスの元へ寄っていった。
「リ・・オラ・・・」
近くに来たら分かった。今にも消えてしまいそうだが、アレリウスにはまだ僅かに息がある。
そして彼女は、アレリウスの手を握った。
感じよう。彼がまだ生きている事を
「また私は・・・」
そして伝えよう。彼がまだ生きている内に
「アレリウス・・・ごめんね・・・」
ノルス村に降る雪は、止むことは無い。それは今も同じ。
二人を雪が覆っていく。
二人を囲むように、血が雪に滲んでいく。
まるで、ミレナがまだ囚われているかのように―――
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