第12話 血染めの絆

 アレリウスの予想通り現れた謎の人物は、彼らを挟み込むように二人立っていた。


「はぁ~、またこんなポンコツ造っちゃって。もっと強いの造りなさいよ」


 謎の人物の一人がつぶやいた。

 片方は女で、フードで顔を覆っており、歪な槍を携えていた。アセロンの言っていた特徴と完全に一致していた。

 もう一方は男だった。2m以上あるであろう身長に、漆黒の鎧を全身を纏っており、所々青く光っていた。その両腕は、地面に付きそうな程に長く太かった。鎧の腕部が巨大に作られているからなのか、元から巨大だからなのか検討もつかない。


「おいおい・・・、今からやり合うのかよ」


「そうねぇ・・・、あんた達二人を消しに来たから仕方無いよね?」


 アレリウスは覚悟を決める必要があるらしい。ミレナがアレリウスへこう言った。


「村のみんなは避難が完了してるからそこは心配ないけど・・・、この人達、あれだよね」


「そうだ。俺が調査する相手で、アセロンの仇だ」


 二人は再び武器を構え、戦闘態勢に入った。


「じゃあ、さっさとおわらせようかな!」そう女は言い、戦闘が始まった。


 アレリウスが大柄の男、ミレナが謎の女の相手をする形となった。対人戦闘の訓練を積んだため、アレリウスは戦えていた。しかし、男は武器を使うこと無く、その巨大な両腕を使って戦うため、苦戦を強いられていた。

 しかし、ミレナの方を見てみると、互角の戦いを繰り広げていた。

 よそ見をしてしまったせいで、死角から右フックが飛んできた。間一髪で躱したものの、アレリウスの第三の腕が切断されていた。

 男の腕を見ると、肘から刃が伸びていた。


 切られた腕に激痛が走る。攻撃する手を止めてしまい、拳をモロに受けてしまった。

 アレリウスは何十メートルも吹き飛び、家の壁へと叩きつけられた。

 意識が飛びそうになるがなんとか持ちこたえる。骨が何本か持って行かれ、内蔵もやられたのか、吐血した。

 持つことが困難になったランスを地面に突き刺し、腰に携えていた剣に持ち替えた。


「やっぱ、対人戦はこれじゃないとな・・・」


 男は一言も発さずにアレリウスに向かってきた。しかし、アレリウスはひらりと躱して反撃の一太刀浴びせた。男の腕に阻まれたが、流れは完全に変わった。


 一方ミレナは、先ほどの戦況から打って変わって、苦戦していた。

 表面上だと互角の戦いに見えるものの、ミレナから見た謎の女は、恐怖そのものだった。相手の攻撃を見切ることはでき、反撃に出ることも出来る。しかし、相手は避けるようとしないのだ。どんなに切り裂いても、その切った箇所が瞬時に再生する。最低限の防御だけで、自分の攻撃を押し通してこようとする。


「クソッ!!切り傷をつけても瞬時に再生するなんてどうかしてる!!」


「あれ?アンタも出来るハズなんだけどな~」と、飄々とした口調で言った。


 ミレナの本当に分からないような様子に、女は手を止めて言った。


「そう・・・、記憶が無いってのは本当だったみたいね。でも、この力はいいわよ~。自分が自分であり続けられる、生きている心地がする。忘れたならまた教えてあげようか?」


「いやだ!私はそんな・・・、化け物みたいにはなりたくない!」とミレナが叫んだ。しかし、女は突然表情を変えた。


「あんたは生かされているだけで、もう人じゃないのにねぇ。あと、化け物とは心外ね。ちゃあんと”暁”っていう名前があるのに」


 暁という女は、ミレナを蔑むように言った。


「分かってたわよ・・・。記憶の手がかりかもしれないあんたのその力を見て、薄々気づいてた。本当は私はもう人じゃないのかもしれないって。でも、それでもいやだ!生きることを否定された私に、彼は私を信用して、道を示してくれた!だから、私はそんなバケモノにはなれない!」


 ミレナの叫びが響き渡る。


「ふ~ん?大切な人を手にかけて、家族を巻き込んで、会って間もない元々敵だったやつに言われたぐらいで心変わりするんだぁ?」


 なめ腐ったように暁は言い放った。


「私の犯した罪は消えないことぐらい分かってる。だから、それを結末にするんじゃなくて、過程に変えるの。向き合うのはそれからでいい。それを気づかせてくれただけよ!」


 いつの間にか恐怖心は消え、ミレナの目は決意にあふれていた。剣先を暁へ向け、研ぎ澄まされた殺意を放つ。


「それはよかった。じゃあ、冥土の土産に教えてあげる。本当は、別にアンタは悪くないわよ?貴方の先生は強いからね~、私でも一筋縄じゃいかないの。だから貴方を利用させてもらっただけよ」


「は?」


 ミレナの先生はいち早くこの女や異形に勘づいており、調べ始めてしばらくして、ミレナによって殺害された。彼女はただ先生を殺すために利用されただけだったのだ。

 ミレナは怒り、暁へ斬りかかった。


「ふざけるな!!そんなことのために私は・・・っ!!」



 場面は戻り、アレリウスは剣で男と戦っていた。

 男は、ひたすら攻めに出るアレリウスの攻撃を両腕で防いでいく。そして隙を見てアレリウスの背後に回り込み、彼の第四の腕を引きちぎった。


「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!」


 苦痛にもだえるも、とっさに男の側頭部へ一撃を入れた。

 惜しくもその攻撃は腕に防がれた。しかし、その腕に亀裂をいれることに成功した。

 そこから再び、激しい攻防が始まった。

 突然男は掌を突き出し、その掌から光線が放たれた。その光線はアレリウスの右肩を貫き、傷口を焼いた。

 激痛が再び走るが、男の装備のあまりの異質さに質問せざるを得なかった。


「グ・・・ッ!・・・、お前の装備は一体何でできているんだ!?」


「・・・いいだろう、教えてやろう」男は初めて言葉を口にした。


 その男の装備は、かつて自身が狩った幻龍から造られたそうだ。


 幻龍とは、まるで幻のように姿を現さない龍の総称である。強力な力を持ち、その場に存在するだけでそこら一帯の気候を変動させてしまうなど、すべてが神秘に包まれた存在だ。

 そしてその男が狩った幻龍とは、冥焰(メイエン)という幻龍だ。

 全身を漆黒の甲殻で多い、その節々は青く光っている。その光は一定のリズムで脈動し、見る者に恐怖を与える。そして圧倒的なまでに巨大な体格に筋力、そしてあらゆる物質を貫く光線で地上を支配する。男が先ほど発射した光線は、その幻龍の器官を腕部に取り付けたものだ。

 そして、冥焰が現れると、その地域一帯は一瞬にして静寂に包まれ、風は止み、周囲のモンスターは沈黙する。空から雲は消え失せ、昼でも関係なく夜のように暗くなる。

 その幻龍を最大限利用して出来たのがこの装備というわけだ。その装備を見るだけで、冥焰の姿を彷彿とさせる。


「まぁ・・・、そんなとこだ」


 そう言って男は、光線を連射し、避けきれないアレリウスの左足も貫いた。

 男が、地面に転げ落ちるアレリウスにとどめを刺そうと拳を振り上げたとき、


「アレリウス!!!!」


 アレリウスの足下で凄まじい衝撃波が放たれた。死を覚悟したアレリウスだったが、目を開けるとそこには―――


 両足の潰れたミレナが倒れていた。


「ミレナ!!!!!」アレリウスは叫びながらミレナの元へ寄ろうとするも、足を負傷しているため動けない。


「お願い・・・・、逃げて・・・」かすれた声でミレナが言った。


 彼女の両足から血液が大量に流れている。このままでは間もなく死んでしまう。

 だが、アレリウスにそんなことを考えている暇は無かった。


「クソがあぁぁぁぁ!!!!」


 そう叫んだのも束の間、アレリウスの心臓を光線が貫いた。

 彼は無力にも、その場へ倒れ込んだ。


「あ・・・、あぁ・・・」


 声を震わせながらミレナは涙を流した。

 アレリウスの元へ這いずっていくミレナにもトドメを刺そうとする男を暁が咎めた。


「この子に再生させる力は残ってないから、このままでいいのよ」


 そう言い残し、二人は去って行った。


 ミレナは、遠のいていく意識の中で、アレリウスの手を握った。


「アレ・・・リウス・・・」


 温かく、でも冷たく滲んでいく赤色が、二人を覆うように染めていく。

 



まるで、ミレナがまだ過去に囚われているかのように―――

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