第9話 記憶の欠片

 ノルス村のとある一室で少女が目を覚ました。窓から差し込む日光から、自分が起きたのは夕方頃だということが分かった。

 そうして寝坊してしまったことに気づき起き上がった時、あることに気がついた。

 彼女の目の前には、見たことの無い景色が広がっていた。覚えの無い部屋、見たことの無い美しい雪景色を認識し、頭の処理が追いつかなくなる。


「ここは・・・どこ?」


 すると横から聞き覚えの無い声が聞こえてきた。


「起きたか」


 そうアセロンが反応した。


 この少女は、昨日の夜に対峙した女だ。彼女から謎の女について聞くために気を失っている間、リオラ達の家で寝かせていた。しかしアセロンは、その女の仕草から違和感を感じ取っていた。


「あの・・・、本当にここはどこ?そして、あなたは誰?」


「何処って・・・、ノルス村だが・・・俺を覚えていないのか?」


 女は記憶が無かったのだ。



――――――


 その後、アレリウスとリオラも部屋に呼んで話を聞いた。

 どうやらその女は、ここ数ヶ月の記憶が無くアセロン達のことや、謎の女の事も全く知らないそうだ。

 知らないというその素振りからは、嘘だと疑う事の方が難しかった。


「じゃあ、自分の事は覚えてる?」とアレリウスは自己紹介を求めた。


「私の名前は・・・ミレナです。出身の村や生い立ちも覚えています」


一同「・・・・・・」


 アセロン達は先日の襲撃の一部始終を教えた。それでもミレナは何も知らないと言っていた。


『この女からは奴と同じ匂いがする。グリモリングの群れを追いやったのもコイツであろう。そして怪我の治り具合や、普通ではない身体能力からの裏付けもできる。だが嘘をついているようには思えない』


 そう言い、ノクも疑う様子が無い。


「そうか・・・。悪いが、今すぐここを出ることにする」とアセロンはいきなり言った。


「待って下さい!!もう行くんですか!?まだ2日しか泊まってないじゃないですか!!」


 リオラはいきなりの事だったため、声を荒げた。そしてアセロンの腕を掴み、必死に彼を行かせまいとする。


「離してくれ、先を急ぐ必要がある」とアセロンは冷たく返した。


「もう我慢するんだ。行かせてやろう」


 アレリウスがリオラを押さえた。リオラは抵抗することなくその場に崩れ落ちた。


「・・・アレリウス。何か分かったらその都度頼む」


「分かった」


 二人がそう会話を交わして、アセロンは次の目的地へと行った。



 アセロンが出て行きしばらくした後、リオラが泣きながらこう言った。


「私は・・・、ずっと・・・彼と一緒に居たいだけ・・なのに・・・、ただ愛してただけなのに・・・。でも・・・、このままじゃ・・・アセロンは死ぬんじゃないかなって・・・、思っちゃったから・・・引き留めただけなのに・・・」


「えっと・・・」とミレナは気まずそうにしていた。


 そしてアレリウスがリオラを別室へ移動させた後、ミレナに質問を続けた。


「そうだな・・・ミレナさん、出身の村を教えてくれないかな?」


「出身は、ヴェール村です」


「ヴェール村か、ここから徒歩だと・・・1週間はかかるな」


 ヴェール村とは、ここから東へ行った場所にある村だ。ここほど寒くなく、雪もあまり降らない。


「よかった・・・、そこまで遠くない」とミレナは故郷へ帰れることが嬉しいのか、安堵している。


「喜んでいる所悪いが、数ヶ月に渡る記憶を思い出すために、しばらく俺達と一緒にいてもらうことになる。ゆっくりでいいから思い出して、協力してもらいたい」


「そうですね・・・」と少しがっかりしたように見えた。


「だが、また明日かそれぐらいに連れて行ってあげるよ」


 そうアレリウスが言うと、ミレナは再び嬉しそうにしていた。アレリウスは、こうしてみるとミレナは本当に記憶も敵意も無いのだと実感した。

 

 その後は、これからしばらくの間生活するノルス村を紹介して回った。


――――――


翌日


「準備はできたか?」


「はい。早速行きましょう」


 二人は留守番をリオラに任せてヴェール村へと出発することにした。

 しかし、アレリウスが厩舎へ向かうから待っていろと彼女に言った。


「わぁ・・・」


 そこに現れたのは、白銀に輝く竜とその背に乗るアレリウスだった。


「村に顔を出すだけだろう?ならサクッと行った方がいいだろう!」そう言ってミレナに手を伸ばし、彼女を隣に乗せた。

 そしてシルヴィスこと白銀の竜は両翼を広げ、大空へと羽ばたいた。


――――――


 シルヴィスの背で二人が会話をする。


「村に着いたらまず何をするんだ?俺も待っている間は観光していこうと思う。なんかいい所も教えてくれ」


「そうですね・・・、とりあえず私の両親と先生に会いに行きたいです。先生は私に剣術を教えてくれた先生で、いち早く帰ったことを報告しないといけません」


 ミレナの自分の恩師と両親への愛情がうかがえる。


「その後は、おいしいお店を知っているので一緒にいきましょう」


「おっ、いいなぁ」


 二人はそんな話をしながら大空を渡っていた。



 そしてわずか1日ほどでヴェール村に二人はたどり着いた。


 

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