第7話 記憶の欠片
ノルス村のとある一室で少女が目を覚ました。
少女は窓から差し込む日光から、自分が起きたのは夕方頃だということを理解した。そうして自分は寝坊してしまったことに気づき起き上がった時、あることに気がついた。
彼女の目の前には、見たことの無い景色が広がっていた。覚えの無い部屋、外に目を向ければ見たことの無い村の風景が広がっている。さらに気候も違うようで、辺り一面に雪が降り積もっている。
「ここは・・・どこなの?」
すると横から聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「起きたか」
その方向には、片腕と片目の無い男が立っていた。
――――――
アセロンは少女が目覚めたことをアレリウスとリオラに伝え、三人でこの部屋へと集まった。
この少女とは、昨日の夜に対峙した女だ。彼女から謎の女について聞くため、気を失っている間はアレリウス達の家で寝かせていた。しかしアセロンは、その女の仕草から違和感を感じ取っていた。
「あの・・・、本当にここはどこ?そして、あなたは誰?」
「何処って・・・、ノルス村だが・・・俺を覚えていないのか?」
なんと女は記憶が無かったのだ。
どうやらその女はつい最近の事だけでなく、ここ数ヶ月の記憶が無くなっているらしい。そのためアセロン達のことや、謎の女に関する事も全く知らないそうだ。
知らないというその素振りは、嘘だと疑う事の方が難しかった。
「じゃあ、自分の事は覚えてる?」とアレリウスは自己紹介を求めた。
「私の名前は・・・ミレナです。出身の村や生い立ちも覚えています」
アセロン達は先日の襲撃の一部始終を教えたものの、それでもミレナは何も知らないと言った。
「もしかして、俺が頭を蹴ったからか・・・?」
『いや、その可能性は無いだろう。この女からは奴と同じ匂いがする。グリモリングの群れを追いやったのもコイツであろう。これは怪我の治り具合や、普通ではない身体能力から裏付けができる。だが嘘をついているようには思えない』
そう言い、ノクも疑う様子が無い。
「そうか。・・・今すぐここを出ることにする」とアセロンはいきなり言った。
「待って下さい!!もう行くんですか!?まだ2日しか泊まってないじゃないですか!!」
リオラはいきなりの事だったため、声を荒げて言った。そしてアセロンの腕を掴み、必死に彼を行かせまいとする。
「離してくれ、先を急ぐ必要がある」
アセロンは冷たく返した。
「我慢するんだ!・・・行かせてやろう」
アレリウスがリオラを押さえた。しかし、リオラは抵抗することなくその場に崩れ落ちた。
「・・・アレリウス、何か分かったらその都度頼む」
「分かった。お前も気をつけろよ」
「言われなくてもそうするさ」
二人は最後に会話を交わして、アセロンは次の目的地へと行った。
アセロンが出て行ってしばらくした後、リオラが泣きながら震える声で心の内を漏らし始めた。
「私はずっと・・・彼と一緒に居たいだけなのに・・・ただ愛してただけなのに・・・。でも、このままじゃアセロンは死ぬんじゃないかなって・・・思っちゃったから、引き留めただけなのに・・・」
出会って間もない人間によって目の前で繰り広げられる展開に、ミレナは困惑していた。
「えっと・・・私はどうすれば・・・?」
そしてアレリウスが急いでリオラを別室へ移動させ、二人きりになってミレナに質問を続けた。
「そうだな・・・ミレナさん、出身の村を教えてくれないかな?」
「出身ですか?ヴェール村です」
「ヴェール村か。ここから徒歩だと・・・1週間はかかるな」
ヴェール村とは、ノルス村から東へ進んだ所にある村だ。ここほど寒くなく、雪もあまり降らない。
「よかった・・・。そこまで遠くないんですね」
ミレナは故郷へ帰れることが嬉しいのか、安堵している。
「喜んでいる所悪いが、君には数ヶ月に渡る記憶を思い出してもらう必要がある。しばらく俺達と一緒にいてもらうことになる。ゆっくりでいいから思い出して、協力してもらいたい」
「そうですね・・・。あなた達に迷惑をおかけしてしまったので、構いません」
表向きでは協力する姿勢を露わにしているが、その表情は少しがっかりしているように見えた。
「だが、また明日かそれぐらいに連れて行ってあげるよ」
そうアレリウスが言うと、ミレナは表情を明るくした。アレリウスは、こうしてみるとミレナは本当に記憶も敵意も無いのだと実感した。
この日は、これからしばらくの間生活するノルス村を紹介して回った。
――――――
翌日
「準備はできたか?」
「はい。早速行きましょう」
二人は留守番をリオラに任せて、ヴェール村へと行くことにした。すると、アレリウスはミレナに厩舎へ向かうから待っていろと言った。
「わぁ・・・」
そこに現れたのは、白銀に輝く竜とその背に乗るアレリウスだった。
「これぐらいのことは、サクッと行った方がいいだろう!」
そう言ってミレナに手を伸ばし、彼女を後ろに乗せた。
そしてシルヴィスこと白銀の竜は両翼を広げ、大空へと羽ばたいた。
――――――
シルヴィスの背で二人が会話をしている。
「村に着いたらまず何をするんだ?俺も待っている間は観光していこうと思う。なんかいい場所でも教えてくれ」
「そうですね・・・とりあえず私の両親と先生に会いに行きたいです。先生は私に剣術を教えてくれた人で、いち早く帰ったことを報告しないといけないんです」
ミレナの自分の恩師と両親への愛情がうかがえる。
「その後は、おいしいお店を知っているので一緒にいきましょう」
「おっ!いいなぁ」
二人はそんな話をしながら大空を渡っていた。
そしてわずか1日ほどでヴェール村に到着した。
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