第8話 復讐者の再生

 異形のグリモリングと対峙したアレリウスは、苦戦していた。

 明らかに普通では無い見た目と動き、別種なのかと思う程のパワーにアレリウスは戸惑いつつも戦っていた。


「見た目同様、動きとかも全部異質だ・・・。だが、動きはもう見切った!」と口にし、第四の腕に持った盾でグリモリングの攻撃を弾き、巨大なランスで心臓を貫いた。

 その直後、異形は無様に地面へ落ちた。


「ふぅ・・・。案外あっけないもんだな――」と落ち着いた瞬間でも、アレリウスは僅かな足音も聞き逃さなかった。

 とっさにその音の方向へ盾を向けた。そして盾を貫いたのはグリモリングではなく、人間だった。


「なっ・・・何だお前!?」


 アレリウスは後ろへ飛び退き、幻覚を見て驚いたかのように聞いた。幸いなことに、その攻撃は第三、第四の腕に持った盾を貫いただけで、彼自身へのダメージは無かった。


 そして謎の攻撃の正体へ目を向けると、幻覚ではなく確実に人間だった。

 銀髪のロングヘアーに黒い面で顔を覆い、薄黒く軽い鎧を身に纏っている女性で、人間であることへの確信と驚きがますます大きくなっていく。

 そしてその女は漆黒の剣をアレリウスへ向け、再び斬りかかってきた。


「だからっ・・・!何なんだお前っ・・・!?」と身を躱しながら質問を続けるアレリウスに対して女はこう言った。


「・・・貴様を殺しに来た。それだけだ」と一言答え、今までよりも格段に速い一閃を放ってきた。

 アレリウスはランスで攻撃を防いだが、あまりの威力に弾かれてしまった。ランスが宙を舞うその瞬間、彼の腰元からさらに速い一閃が放たれた。

 その攻撃はその女の腹をかすめ、躱されてしまった。


 そこからのアレリウスは防戦一方。時々反撃に出るも、対人戦の心得があるわけでは無いため、防ぐことがやっとだった。


「その腕は珍しいが、武器を一つしか持っていないなら脅威では無いな」


 女はそんな余裕を見せているものの、アレリウスの動きが少しずつ鋭くなっていることに内心焦っていた。

 しかし、女には全く届かず、息を切らし始めた頃、


 突如として女の側面に大剣が飛んできた。


 宙を舞う大剣と、衝撃を減らすために飛んだのか吹っ飛ぶ女、アレリウスは開いた口が塞がらなかった。この一瞬でいきなりな出来事が起こりすぎた。


 そしてその方向からアセロンが走ってきた。


「そいつは俺が相手しておく!リオラの方へ加勢してやってくれ!向こうに大半が行った!」とアセロンが言い、アレリウスの前に立った。


「あ・・・あぁ、分かっ・・た・・・」


 アレリウスは武器を拾い、リオラの元へ駆けていった。


「貴様は・・・?そうか、報告にあった仕留め損ねたやつか」と呟き、女は何事も無かったかのように立っていた。


「なんか言ったか?それよりも、俺が相手してやるよ」とアセロンは挑発するように言った。


「フン・・・、さっきのは驚いたがそんな体で相手になる訳ないだろう」と勝ちを確信したかのように女は言った。


 実際、アセロンも片腕しかない状態では勝つことはできない。そう、”片腕だけ”では。


 そしてアセロンは心の内でこう言った。


『ノク、あれをやれ』


『了解した』


 その直後、アセロンの残った左腕の先から新たな腕が生えてきた。


「ッ・・・!!」あまりの衝撃に女は絶句するしかなかった。


 そして彼の目を見ると左目を開けており、そこには瞳が復活していた。


「貴様は・・・何なんだ!?」と女は思わず聞いた。


「何って・・・、それはこっちの台詞だろ。・・・俺は一度死んだ。そして生き返った。その際にこの再生させる力を手に入れた。それだけだ」


 淡々と説明になっていない説明をするアセロンへ女は、彼の大剣を渡すまいと攻撃を仕掛けた。その攻撃はアレリウスの時よりも速く、激しいものだった。

 アセロンはその攻撃を軽々と躱し続け、反撃に出た。その反撃はおおよそハンターに似つかわしくない、拳を腹に叩き込むものだった。アセロンは容赦無い攻撃をさらに浴びせ続けた。


 女はかなり効いたのか、よろけてアセロンへ弱々しく言った。


「その力は・・・、まさか・・・」


 まさしく虫の息と言わんばかりの息遣いだった。


「武器の扱いに長けていても、素手の喧嘩には慣れてないようだな」


 するとノクがアセロンに突然言った。


『コイツの傷を見ろ。少しずつ癒えているように見える。』


『確かにそうだな。やはり直感は間違っていなかったな』


「お前・・・、この再生について何か知っているな?まぁ、また後で話を聞かせてもらおうか」


 その直後、アセロンは側頭部めがけて蹴りを加えた。相手の事などお構いなしだった。

 女は気を失い、地面に倒れ込んだ。

 アセロンの左目は元の閉じた状態に戻り、左腕の新たに生えた部分は崩れ落ち、元に戻った。



――――――


「ふぅ、ありがとうございます兄さん!」


「いいってことよ。それよりもアセロンの所へ急ぐぞ!」


「・・・、はい!」


 リオラはアレリウスの加勢を持って、グリモリングの群れを仕留めきった。そのため、アセロンの元へ行こうとした時、


「もう片付いた。帰ろう」とアセロンが女を抱えてやってきた。


「お前・・・、勝ったのか!?すげぇな!!」とアレリウスはアセロンの元へ駆け寄っていった。そして女をもらい受け、先に村へ帰っていった。


「アセロン、兄さんを助けてくれてありがとうございます」とリオラはアセロンに一言そう言った。


 だが、二人はあの異形の死骸を、希少なものとして組合へ提出する作業が残っていたためそれを進めた。

 その作業中にリオラは、異形の死骸に謎の痕跡があることに気がついた。


「アセロン、ここに噛まれた後があります。それも噛まれた言うより、食べられたかのようです・・・」


「大方、死骸に群がる動物でもいたんじゃないのか?」とアセロンが返した。


「それも・・・そうですね。作業は終わりましたし、帰りましょう」


 そうリオラは言い、アセロンの手を握って一緒に村へ帰った。この日は、リオラが普段できない二次会が開かれた。


 

――――――


翌日、アセロン達が異形の死骸を見に行った時、その死骸は血痕一つ残すことなく、その場から消滅していた。

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