第7話 凶兆の群れ
アセロンは厩舎にいる竜の鼻に手を当てた。
「久しぶりだな、シルヴィス」
その白銀の竜の正体は、アルビオン・ドラゴンという種族のシルヴィスだ。
彼は幼いころにアレリウスと出会い、共に成長してきたもう一人の家族のような存在だ。アレリウスとリオラと共に狩りに行ったり村での作業を手伝ったりなど、彼らだけでなく村の一員としても共に過ごしている。
そしてアルビオン・ドラゴンとは、その白銀に輝く鱗や甲殻が特徴であるとても希少な種族だ。希少とはいっても目撃情報が片手で数えられるほどしか報告されておらず、生態が謎に包まれていた。ノルス村で発見されるまでは。
そしてシルヴィスは厩舎にいるものの、普段は付近を飛び回っているため厩舎には基本いない。それでも今回は、アセロンが来たからなのか厩舎にいる。
「ありがとうな。お前まで来てくれているなんて思わなかったよ」
そう言いながらアセロンがシルヴィスの喉を撫でると、シルヴィスは小さく唸った。
するとアレリウスが突然言った。
「アセロン、俺はもうお前に同行するつもりはない。だが、こちらの方でも調査するぐらいは協力させてくれ」
「・・・わかった」アセロンは少しためらったかのように言った。
「よかった。何かが分かったらこちらからも連絡する」とアレリウスはホッとした。
―――――――
その夜
アセロン達はお決まりの居酒屋に来ていた。
「もっと飲めよぉ!どうせ明後日ぐらいには行っちまうんだろぉ!?」
またアレリウスが酔ってだる絡みをしだしても、リオラは止める様子が無かった。
「なんとかしてくれよリオラ」とアセロンは助けを求める。
「久しぶりに会った上に、もう会えなくなるんですよ?今日ぐらいはいいじゃないですか」と全く収めるつもりは無かった。
そんなこんなで楽しい一時を堪能している所に突然、扉の開く音が響いた。
「アレリウスさん!リオラさん!大変です!」
村の住民が息を切らしながらそう言った。その人が激しい焦燥感に駆られ、一刻もはやく伝えようとしていることが一目で分かった。
そしてアレリウスは酔いが覚めたのか、落ち着いて聞いた。
「息を整えて落ち着いてから言って下さい。もしかして・・・モンスター関係ですか?」
その予想は的中した。それも最悪のケースで。
「モンスターの群れが村の近くまで接近してきています!あと30分もすれば到着してしまいます!」
その人によると、群れを形成して行動するモンスターである「グリモリング」が膨大な群れを形成して接近してきているそうだ。
グリモリングとは、二足歩行で複数の触手を持ち、頭部にある複数の赤い眼球が特徴的なモンスターだ。通常はリーダー格の個体を中心に、10~20頭の群れを形成するが、今回の群れは40頭以上はあるという明らかに異常な群れだった。
しかし、その原因を考えている暇などなく、アレリウスとリオラは急いで準備している。
「クソッ!!あと30分とかやばすぎるだろ!!」と苛つきを隠せないアセロン。
「仕方ありません!私達が行くしか無いんですから!」同じく焦りを隠せないリオラ。
「すまないがアセロン!君も一緒に――」
「分かってる。俺も手伝う」とアセロンは言い、準備を終わらせた。
こうして三人は最小限の準備をして急いで向かった。
そしてその群れを発見した。
その報告の通り、およそ50頭はいた。しかし、その群れは普通のリーダー格ではなく、明らかに普通ではないグリモリングを中心に進んでいた。
そのグリモリングは通常のリーダー格より一回り大きく、不自然に生た四本足に発達した顎を持っている。その見た目の異質さは誰の目にも明らかだった。
「なんだよあのリーダー格っぽいやつ・・・。あいつが群れを成していると考えていいのか?」
困惑しているアレリウスのすぐ横で、アセロンはあることに気づいていた。それは、彼が出会った異形のモンスター(ノク)に似ていたからだ。その整合性のとれていない異質で不気味名見た目にはノクも反応していた。
『気をつけろアセロン。あの個体からは私と同じ匂いがする』
「あぁ、そんな気はしていた。アレリウス、あれは俺が言った異形と同じ類いかもしれない」
「なるほど・・・、こんなにすぐお目にかかれるとは」
その事が分かってもアレリウスの目には、不安や恐怖を感じさせるものが無く、頼もしさをアセロンは感じた。
「作戦を練っている暇はありません。速戦即決でいきましょう」とリオラが言った。
その言葉に二人が頷き、三人はその群れの横へ突撃していった。
こんな強引な方法をとれるのは、この三人がフォルガーだからこそだ。
三人は各々の武器の長所を活かしながら群れを次々と減らしていく。アセロンはその大剣を片腕でも振り回し、そのハンデを全く感じさせなかった。
リオラの装備は至ってシンプルで、彼女は寒冷地で着れるように、コートのような見た目をした白く軽い鎧を装備している。そして武器は、兄にあわせて片手で扱える剣と盾を使用している。
そんな兄の装備は全く異質なものだ。2メートルもある巨大なランスを持ち、上半身よりも下半身の方が強固な鎧を纏っている。そして、その背中にはモンスターの腕を加工して神経に接続し、自在に動かせるアームを二本繋げている。
だがこのアームは開発は全く進んでおらず、直に神経接続するため適応できなればその箇所が動かせなくなり壊死するなどの、重い後遺症が残ってしまう。そのため適合者はほんの数人しかいない。そのアームにアレリウスは適合することができた数少ない人間なのだ。
「群れを分断しましょう!」とリオラが言い三人は別れ、群れを分断した。
グリモリングの一頭一頭は弱く、上位のハンターやフォルガーなら簡単に狩ることができる。そのためこの三人のフォルガーには、例え50頭以上いても手間をかけさせることしかできない。
その後、群れの大半がアセロンとリオラの方向へ行き、アレリウスの前には異形のグリモリングだけが立っていた。
そしてアレリウスはグリモリングの動向を見て、奴らは何者かに追いやられてやってきたのではないかと嫌な予感を感じていた。
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