第6話 響く声と再生の朝

 アセロンは、息苦しさを感じる朝を迎えた。冷え切った体が、重く鈍い。朝の光が差し込むが、それがかえって目に痛い。温かい布団から出るも、頭の中はぼんやりと霧がかかったままだ。


 そして、謎の声がアセロンの頭の中に響く。


『よく寝れたか?』


「あぁ、そうだな・・・」


 彼は頭の中に謎の声が響いたが、動じることは無かった。

 それは、彼に起きた謎の出来事がきっかけだった。


 ――――――


 アセロンが意識を取り戻し、ルーカスの死を知った次の日のこと。

 彼が自室で項垂れていると、突然謎の声が彼の頭の中に響いた。


『・・・おい』


「・・・・!?」と目を大きく見開いた。気のせいかと思ったのも束の間。


『気のせいではない。私・・・、この声の主は貴様の中に存在しているのだ』とこの声の主は言った。


「・・・、幻聴だこんなの。幻聴に決まってる」と大量に出る冷や汗と共に、自分を落ち着かせる為の言葉を言い聞かせる。


『幻聴ではない。ホラ、言いたいことを思い浮かべてみるがいい』


 アセロンは戸惑いつつも思い浮かべてみる。


『・・・・・・、こうか?』と重い浮かべた。


『よく出来ているぞ』謎の声はそう返した。


 どうやら会話をすることは出来るらしい。しかし、会話ができることで、より一層彼の不安や恐怖は大きくなっていった。


『お前は・・・、お前は何なんだ!?勝手に人の頭の中に入ってきて、どういうつもりだ!?』


 アセロンは最早正気では無かった。自らの容姿の変貌、相棒の死、と立て続けに不幸が降りかかったからだ。

 そして謎の声は語り出した。


『説明すると長くなるのだが・・・まぁよい。私は貴様に殺された・・・、貴様達流で言うとあのモンスターだ。』


 あのモンスターとは、アセロン達が謎の女と接敵する前に討伐した、謎のモンスターのことだ。

 続けてこう言った。


『端的に言えば、私が貴様を生き返らせた。私自身の意思で』


 何を言っているのか分からなかった。自分が狩ったというのに、なぜ助ける義理があったのだろうと。

 さらに説明を続けた。


『何故かというと、私もあの女に恨みがあるからだ。

私はかつて、誇り高き竜だった。そこであの女に狩られ、その後私は何者かによって改造を施された。そしてあの醜悪な見た目になってしまったのだ。他のモンスターの肉体を無理矢理繋げる改造だった・・・。

その改造の影響なのか、私は竜だったということしか覚えていないのだ。生前は何をしていたのか、そもそも私という人格は竜のころの私なのか、奴らが一体何者なのかも覚えてないし分からないのだ』


 謎の声は自分に何があったのかや、アセロンと同じ恨みで動いていたということを教えた。


『ならば、俺はどうして生き返ったんだ?』とアセロンは前より落ち着いた声で尋ねた。


『私は死ぬ直前に、貴様に私の血液を大量に浴びせた。その血液が貴様の心臓と融合し、全身の失われた機能を再生させたことで貴様は生き返ったのだ。つまり、貴様の心臓と融合したことで、全身に流れる血のほとんどが私の血で構成されている』


『だとしたら・・・、俺は生き返ったのではなく、お前に生かされているだけなのか・・・?』


 アセロンは狼狽えたように言う。


『言ってしまえばそうだ。貴様の了承さえあれば、意識を乗っ取ることだってできる。だが今考えて、動いて、話しているのは紛れもなくお前自身だ』


 謎の声はそう言った。そして最後にこう言った。


『貴様も私も、あの女を恨んでいる。私が貴様の生命活動を維持してやる代わりに、私の分の恨みも晴らしてくれないか?・・・聞くまでも無いか』


『元からそのつもりだ。だが一つ引っかかることがある。あの女に恨みがあるのなら、何故俺を狙った?』とアセロンは何故自分を殺したのかを聞いた。


『人格改変だ。記憶が残っているだけで、その時の私は自分の意思で行動していない。驚異的な生命力と人格改変を施されるのは中々気持ち悪いものだ』


 こうしてアセロンは生き返り、謎の声が爆誕した。


――――――


 元の時刻に戻る。


『最近判明したことなのだが・・・』とアセロンの体についての事を報告しようとする。


「今はいい。朝に考え事はしたくないんだ」


『そうか。だが、気持ちは分かるぞ』と謎の声は理解した。


「(なんで分かるんだ・・・?)いいかげん名前とか名乗ってくれてもいいんじゃないのか?無いなら考えるぞ」


 なんと、謎の声はまだ謎の声のままだったのだ。

 そして困ったようにヤツは言った。


『私は生前の記憶が無いと言っただろう。無いに決まっている・・・、ノクとでも呼んでくれ』と何かを閃いたかのように言った。


「何か思い出したんだな?ならそう呼ばせてもらうぞ、ノク」


 そう言った瞬間、後ろの扉が開いた。


「お~い、起きたならさっさと来いよ」アレリウスだ。


 アセロンは久しぶりにノルス村での朝を迎えた。



 場面は変わって、アセロンはリオラと共に村を巡っていた。


 昔から何も変わらない。アセロンの傷に驚いていたものの、いつもと変わらない態度で接してくれたことに彼は温かみを感じた。


 アセロンとの再会が数ヶ月ぶりということもあり、リオラは積極的に彼と触れあおうとした。しかし、復讐を決意したアセロンとの間には何か壁があるように感じた。それでも彼女にとっては有意義な時間だった。


 二人は村のほとんどを巡り、アレリウスの居る厩舎へと向かった。


 そこには白銀に輝く竜の姿があった。

 

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