第5話 雪夜の再開
ここは年中雪が降り積もる村。名はノルス村。
そんな静かで美しい村に、二人のハンターが帰還した。この二人の帰還により、村の居酒屋は普段の様子からは想像がつかないほどに活気づいていた。
「今回の狩りは大変だったんだぜ~!」と大きな声で話す男の名はアレリウス。彼は自分がフォルガーだからこそ、この依頼を達成することが出来たのだと自慢げに話していた。
「実際、モンスターの巣穴を一つ一つ調べていくのは相当骨が折れました・・・」と、疲労が隠しきれない彼女の名はリオラ。彼女の表情からは、この依頼の過酷さがうかがえる。
アレリウスとリオラは兄妹であり、このノルス村でハンターとして働いている。妹のリオラは、フォルガーになった兄に連れ回され、気がついたらフォルガーとして名を馳せていた。その後は、とりあえず来た依頼をひたすらに受け、村の居酒屋でその依頼の話をしながら日々を楽しんでいる。
そんな勢いに身を任せたような人生を送っている兄妹だが、今回も勢いで潰れた兄を担いで帰宅するのだった。
「ただいま帰りましたー」
兄妹が帰宅した。しかし、その言葉に返す者はいない。なぜなら、二人は幼い頃に両親を亡くしてるからだ。
それでも二人の様子から、両親の死を乗り越えることのできる絆があることは、誰の目にも明らかだった。
だが!そんなことはどうでもいい程に、リオラは飲み足りなかった。毎回勢いだけで速攻潰れるのが、兄の嫌いなところだった。帰宅してすぐに兄をベッドに寝かし、自宅で独り二次会を始めようとした直後――
自宅のドアがノックされた。邪魔されたことに苛立ちを覚えるものの、リオラは渋々扉を空けた。
「おかえりなさい、リオラちゃん。夜遅くにごめんね~」と行ったのは近所のおばちゃんだった。
「あ、ただいま帰りました。挨拶するの忘れてました」とリオラは返した。
「いいのよ別に。でもね、緊急の連絡?があるそうで、ルナレア村の方が訪ねてきてたわよ」
「そうなんですか!?いつ頃来られたんですか?」と若干食い気味に返した。
「つい1ヶ月前かしら・・・?その時偶然通りかかったから、おばちゃんが代わりに伝えとくことにしたの」
「早く教えて下さい!」リオラは気がかりでならなかった。
「それがね・・・」
リオラはハンターとして生活し始めたときに、兄とともにルナレア村へ訪れたことがあった。比較的近所の村だったこともあり、お互いのハンターが双方の村を行き来することがあった。
そうする中で彼女が出会ったのが、アセロンだ。二人は交流する機会に恵まれ、恋仲にまで発展した。そのため彼女が独り二次会を開催した理由は、アセロンに会えない悶々とした気持ちを紛らわす為でもあった。
そんな彼女が聞いたのは、アセロンが重症を負った話だった。
「今すぐルナレア村へ向かいます!!」とリオラは一瞬にして焦燥感に駆られた。
「だめよ!今日は寝て明日にしなさい!」とおばちゃんは言った。
両親が亡くなってから、このおばちゃんは近所というだけで面倒をよく見てくれた。そのためリオラは反抗することができず、諦める他無かった。
「冷えない格好して寝るのよ」と言い残して、おばちゃんは帰って行った。
その後二次会を再開しようするも、動悸が止まらず、不安で胸がいっぱいになる。何度も最悪のケースを想定してしまい、考えることから抜け出せなくなってしまった。
突如、再び扉がノックされた。
一瞬で現実へと引き戻される。そして空けた扉の先にいたのは、
「よぉ」
「・・・アセロン!!」
いたのはアセロンだった。リオラはアセロンに思わず抱きつき、顔を埋める。彼の姿が変わり果てていても、彼女は一目で分かった。
「ごめんな」そうアセロンは言った。
―――――
そうしてアセロンを部屋に上げ、彼から出来事の一部始終を聞いた。そしてこれからの話も。
「私も行きます・・・」
「駄目だ。お前が付き合う必要は無い」とアセロンは突き放す。
「そんな体で・・・、その相手にどうやって戦おうって言うんですか!?」
こうして二人が口論をしていると、奥からアレリウスが出てきた。
「お~い、うるせぇぞ~・・・へ?」アセロンを見つけて情けない声を出した。
そして彼を見つけるや否や、酔った勢いで迫ってきた。
「来るなら一声かけて、返事が来た上で来いよぉ~。しかもこんな夜遅くに来やがってさぁ~。何の用だぁ~?というかリオラとの関係は別に認――」
「黙ってて下さい!今それどころじゃないんです!」とリオラが言い、アレリウスを黙らせた。
その後は、アレリウスにも事の顛末を教えた。
アレリウスは酔いが覚めたのか、こう言った。
「俺も付いていくぞ?」
「・・・ッ!」アセロンは絶句した。
この兄妹がなぜ手伝おうとするかは分かる。こんな風になってしまった自分の体を見れば、助けたくなるのも分かるから。
だが、これが玉砕覚悟の無謀な復讐であることを理解して言っているからこそ、分からなかった。
それでもアセロンの思いは揺るがなかった。
「何度も言うが、付き合う必要もなければ付き合わせるつもりも甚だ無い。ただ顔を出しに来ただけなんだ」
アレリウスとリオラは理解した。アセロンはもう何を言っても自分たちを連れて行くことはしないと。
だが、
「そうですか・・・、だったらしばらくここに滞在してくれませんか?」とリオラは少しでも彼と居たい事を口にした。彼女はワガママを言ってしまったからなのか、はっと口を手で覆った。
「・・・分かった。だが俺も急いでいる。そんなに長居はできない」と仕方なさそうに言った。
そう返した瞬間、リオラの様子が変なことに気がついた。
「大丈夫か?汗が出ているぞ。それに・・・、そんなに泣くな」と突然リオラが泣き出したことに気がついた。
リオラは再びアセロンに抱きついた。アセロンの胸の中で泣きじゃくるリオラは、この一瞬での強烈なストレスで限界を迎えたのかもしれない。
「まったく、お義兄さんの前で泣かせんなよ」とアレリウスが言い、アセロンの滞在が決定した。
しばらくの静寂がこの空間を支配した。
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