第3話 雪夜の再開
ここは年中雪が降り積もる村。その名はノルス村。
文字通り寒帯に存在しており、村民達は度々雪かきに追われている。
そんな静かで美しい村に、二人のハンターが帰還した。この二人の帰還により、村の居酒屋は普段の様子からは想像がつかないほどに活気づいていた。
その居酒屋には二人のハンターが訪れており、村民達に受けていた依頼の話をしていた。
「今回の狩りは大変だったんだぜ~!標的の巣があるとされてる場所がだな・・」
大きな声で話す男の名は、アレリウス。彼はハンターであり、フォルガーだ。自分がフォルガーだからこそこの依頼を達成することが出来たのだ、と酒を片手に自慢げに話していた。
「実際、モンスターの巣穴を一つ一つ調べていくのは相当骨が折れました・・・」
ため息をつくように話しており、疲労が隠しきれていない女性の名はリオラ。彼女もハンターでフォルガーだ。アレリウスとは共に活動している。そして、その表情からは受けていた依頼の過酷さがうかがえる。疲労を見せているも、その疲労を覆い隠そうと酒を飲んでいる。
アレリウスとリオラは兄妹であり、このノルス村で産まれ、この村に住み着きでハンターとして働いている。妹のリオラはハンターを目指していたが、フォルガーになった兄に連れ回され、気がついたら彼女もフォルガーとして名を馳せる程の実力を手にしていた。その後は、とりあえず来た依頼をひたすらに受けて村の危機を救い続け、依頼の終わりに村の居酒屋でその依頼の話をして日々を楽しんでいる。
ちなみに二人が引き受けていた依頼は長期間に渡って行うようなものであり、およそ1ヶ月半程の時間を掛けて行っていた。
その内容はいうと、ノルス村から離れた所に強力なモンスターが出現したという依頼だった。しかし、そのモンスターの巣穴は吹雪が吹き荒れる雪山に存在し、確かな位置が判明していなかった。そのためそこら一帯の雪山にあるモンスターの巣をしらみ潰しに探し回り、先日無事にその依頼を終えた。
彼らが受けてきた依頼の中でも、かなり上位に位置するであろう過酷さだった。
そんな勢いに身を任せたような人生を送っている兄妹だが、今回も勢いで潰れた兄を担いで帰宅するのだった。
――――――
「ただいま帰りましたー」
リオラが兄を担いでが帰宅した。
しかし、リオラのその言葉に返す者はいない。なぜなら、二人は幼い頃に両親を亡くしてるからだ。
父は鉱山で採掘をすることを生業としていたが、その最中に起った事故に巻き込まれて死亡。すると母も、まるで後を追うかのようにして病死してしまった。
若くして残され、兄であるアレリウスは働く必要があった。そしてアレリウスは様々仕事に就き、若くして仕事に明け暮れていた。
そこで彼が目をつけたのがハンターだった。給料は依頼ごとでまちまちだが平均が高く、さらには自分の両親にはハンターの知り合いが村にいる。身の危険以外は全てにおいて都合が良い。将来自分たちが大人になった時に仕事を転々としていて、確かな収入源が無いというのはリオラという妹がいる上ではかなり不味い。
ならば物は試しということで、彼はハンターになった。そして彼は両親の知り合いの指導の下、ハンターになって成功し、フォルガーと呼ばれるまでに至った。
二人の間には、両親の死を乗り越えることのできるような絆があることは、誰の目にも明らかだった。
だが!リオラは飲み足りなかった。毎回勢いだけで速攻潰れるのが、唯一兄の嫌いなところだった。
帰宅してすぐに兄をベッドに寝かし、自宅で独り二次会を始めようとした直後――
自宅のドアがノックされた。いきなり邪魔されたことに苛立ちを覚えるものの、リオラは渋々扉を空けた。
すると、そこに居たのは・・・
「おかえりなさい、リオラちゃん。夜遅くにごめんね~」
近所のおばちゃんだった。
「あ、ただいま帰りました。お伝えするの忘れてました」
「いいのよ別に。でもね、緊急の連絡?とかがあるそうで、ルナレア村の方が訪ねてきてたわよ」
「そうなんですか!?いつ頃来られたんですか?」
彼女は若干食い気味に返した。彼女には、少しばかりルナレア村に縁があったからだ。
「つい1ヶ月前かしら・・・?その時偶然通りかかったから、おばちゃんが代わりに伝えとくことにしたの」
「早く教えて下さい!」
リオラはとあることが、気がかりでならなかった。
「それがね・・・」
リオラはハンターとして生活し始めたときに、兄とともにルナレア村へ訪れたことがあった。比較的近所の村だったこともあり、お互いのハンターが双方の村を行き来することが少しばかりあった。
そうする中で彼女が出会ったのが、アセロンだ。
二人は交流する機会に恵まれ、恋仲にまで発展した。そのため彼女が独り二次会を開催した理由は、アセロンに会えない悶々とした気持ちを紛らわす為でもあった。
そんな彼女が聞いたのは、アセロンが重症を負った話だった。
「今すぐルナレア村へ向かいます!!」
リオラは一瞬にして焦燥感に駆られた。嫌な予感がしていたが、その予感が的中してしまった。
「だめよ!今日は寝て明日にしなさい!」
両親が亡くなってから、このおばちゃんは近所というだけで面倒をよく見てくれた。そのためリオラは反抗することができず、諦める他無かった。
「冷えない格好して寝るのよ」
そう言い残して、おばちゃんは帰って行った。
その後二次会を再開しようするも、動悸が止まらず、不安で胸がいっぱいになる。何度も最悪のケースを想定してしまい、考えることから抜け出せなくなってしまった。
突如、再び扉がノックされた。
一瞬で現実へと引き戻される。そして大急ぎで空けた扉の先にいたのは、
「よぉ」
そこに居たのはアレリウスだった。しかし、彼の姿は変わり果てていた。
顔の左半分は凄まじい傷跡が残されており、左目が閉ざされている。彼は大きなケープを羽織っており分かりにくいが、彼の左腕が無いように見えた。
「・・・アセロン!!」
リオラはアセロンの様子から彼が無事なことに安堵し、思わず抱きついて彼の胸に顔を埋めた。
「ごめんな」
アセロンは弱々しい謝罪をした。
―――――
そして、リオラはアセロンを部屋に上げ、彼から出来事の一部始終を聞いた。何故ここに訪れたのかも。
リオラはその話を聞いて、口を震わせて言った。
「・・・私も行きます」
「駄目だ。お前が付き合う必要は無い」
「そんな体で・・・、その相手にどうやって戦おうって言うんですか!?」
リオラが大声を上げると、家の奥からアレリウスが出てきた。
「お~い、うるせぇぞ~・・・へ?」
アセロンを見つけて情けない声を出した。
そして彼を見つけるや否や、驚いた表情を浮かべて酔いが覚めたように話始めた。
「お前・・・アセロンか・・・?どうしたんだそれ・・・」
「おお、俺だよ。これは、少しあってな」
「そうなのか・・・。・・・く、来るなら一声かけてから来いよぉ~。しかもこんな夜遅くに来やがってさぁ~、何の用だぁ~?というかリオラとの関係は別に認――」
「黙ってて下さい!今それどころじゃないんです!」
リオラが言い、アレリウスを黙らせた。場は和むどころか、さらに張り詰めていた。
その後は、アレリウスにも事の顛末を教えた。
すると、アレリウスは落ち着いた声でこう言った。
「俺も付いていこうか?」
「・・・ッ!」
アセロンは絶句した。
この兄妹がなぜ手伝おうとするかは分かる。こんな風になってしまった自分を見れば、助けたくなるのも分かるから。
だが、これが玉砕覚悟の無謀な復讐であることを理解して言っているからこそ、分からなかった。
それでもアセロンの思いは揺るがなかった。
「何度も言うが、付き合う必要もなければ付き合わせるつもりも甚だ無い。ただ顔を出しに来ただけなんだ」
アレリウスとリオラは理解した。アセロンはもう何を言っても自分たちを連れて行くことはしないと。
だが・・・
「そんなこと・・・!・・・だったらしばらくここに滞在してくれませんか?」
リオラは少しでも彼と居たい事を口にした。
しかし、彼女はワガママを言ってしまったからなのか、はっと口を手で覆った。
「・・・分かった。だが俺も急いでいるから、そんなに長居はできない」
仕方なさそうに言った。リオラがこんな様子だと、断ろうにも断り切れない彼の甘さが出てしまった。
そう返した瞬間、リオラの様子がさらに変なことに気がついた。
「大丈夫か?汗が出ているぞ。それに・・・、そんなに泣くな」
さらに、突然リオラが泣き出したことに気がついた。
リオラは再びアセロンに抱きついた。アセロンの胸の中で泣きじゃくるリオラは、この一瞬での強烈なストレスで限界を迎えたのかもしれない。
「まったく、お義兄さんの前で泣かせんなよ」
アレリウスがそう言い、アセロンの滞在が決定した。
しばらくの静寂がこの空間を支配した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます