第4話 夢だったなら

 目が覚めた。寝起きのあの意識が朦朧とする感覚が、さらなる眠気を誘う。


「夢か・・・」とアセロンは心地よい朝を迎えた。


 起き上がろうとすると、体制を崩してしまい再びベッドへと倒れ込む。そして先ほどから違和感がある。視界がいつもより狭く、胸に閉塞感を感じる。

 そして、さっきから思うように動かせない左腕に目を向けると、左腕が無かった。


「おはよー」と言いながら幼馴染みであるシリウスが扉を開け、かごを片手に部屋へ入ってくる。

 部屋に入ってくるやいなや、かごを置いて部屋から一目散に出て行ってしまった。そのかごの中には、果物やお札が入っていた。

 だがアセロンの中では、左腕が無いことのショックよりも、別のことが心の中で大きく、荒々しく渦巻いていた。

 そんなことを考えてる最中、扉が今度は勢いよく開けられた。


『アセロン!!!』とシリウスとミラやレオ、他の村の人々が入ってきた。


「心配したんだよ!?」とレオが涙ぐみながら言う。


「ありがとう。でも、俺は一体どれだけ寝てたんだ?」と疑問の一つを投げかける。


『1週間』皆が口をそろえて言う。


「1週間!?」思わず驚きの声を上げる。


「あとアセロン、自分の姿がどうなっているのか、知っておくべきだ」シリウスが普段とは違う雰囲気で話す。

 そして、シリウスにリードしてもらいながら鏡の前まで連れてきてもらった。その途中で薄々気づいていたが、鏡の前に立ったときに答え合わせとなった。

 顔の左半分と左脇腹のほとんどが傷跡になっており、左目は開かなくなっていた。そして左腕は無くなっていた。


「は・・ハハ・・・、随分と左側に集中してるんだな・・・。左耳もないし、目ぇ開かねぇし、でも髪の毛はちゃんと生えてる・・・ラッキー・・ハハ・・」と乾いた笑いとともに訳の分からない冗談が出てくる。

 だがそれでもアセロンの中で渦巻くものは、ますます大きくなっていた。


「アセロン・・・、別に片腕になってもハンターは続けられるし、それに――」と必死にフォローしようとするレオの言葉を遮って、アセロンは訊ねた。


「なぁ、ルーカスは?」



 アセロンは自分だけが村の前で倒れていたこと、その後別のメンバーで再調査へ行った時の話をシリウスから聞いた。この話に耐えられなくなった人が次々に出て行き、アセロンとシリウスとレオとミラだけになった。


「・・・で、そして俺たちが再調査して発見できたのは、ルーカスの遺体だけだった」とシリウスは包み隠さずに話した。


「・・・俺はどうして村の前で倒れていたんだ?」と訊ねるアセロン。


「それを君が知らないなら、僕たちも知らない。でも一つだけ解消されないことがあるんだが、その時の君は血まみれだったのに傷口が塞がりかけていた。今まで一体何があった?」とシリウスは淡々と話しかける。


 今度はアセロンがことの顛末を語り出した。


「・・・があって、その謎の女に俺たちは殺された。本当になぜ生きているのか分からないんだ。傷のことも分からない」とアセロンは語った。


「そうか・・・、これ以上は聞かない。気持ちの整理がつくまでゆっくりしていてくれ。」とシリウスは部屋を後にした。


「せっかく目が覚めたんだし、何か食べなよ。取ってくるよ」と明るく振る舞うレオだったが、無理をしていることは簡単に分かる。


「・・・いらない」アセロンは冷たく返した。


「そっか・・・、何か用があるなら呼んでね・・・」レオはそう言い残して出て行った。


「えっと・・・その・・・」と何かを言うことができずにいる、ミラだけが残った。

 アセロンはそんな彼女を見て、


「どうしたんだ、いつもみたいな生意気を言ってみろよ」と強く当たってしまった。


 はっと顔を上げると、彼女は作り笑いをしているが、怯えているように見えた。


「ごめん・・・」そう言って逃げるように出て行ってしまった。


「なんで謝るんだよ・・・」と自室に一人残ったアセロンは、果てしない孤独と喪失感を噛み締めながらうずくまっていた。



―1ヶ月後―


 シリウスがアセロンの元へ訪れた。彼が部屋の扉を開けると、アセロンは荷物をまとめていた。


「・・・何をしているんだ?」と呆気にとられたようにシリウスは言った。


「決まってるだろ。あの女を殺しに行くんだよ」とアセロンは低く、重く話す。


「・・・正気なのか?」


「俺は正気だ。ルーカスを殺した奴のことが憎くて仕方が無いだけだ」


「当ては無いだろ?無謀すぎる」


「そんなんどうでもいい。俺だって、早い内に気持ちの整理がつくと思ってたんだ」


 アセロンの中で渦巻いていた気持ちは、あれからさらに大きく、激しく彼の心を蝕んでいた。

 彼は続けてこう言った。


「あれから1ヶ月が経った。その間、俺は頭を抱えていたわけじゃない」


「確かに傷はほぼ回復したし、武器も振れるようになった。それに体も、以前より逞しくなった気がする。だがそれでも無茶だ!」ともう止められないことを悟ったシリウスは、彼を必死に止めようと焦り始めた。


「無茶は承知だ。この傷が回復したのは、ルーカスが俺に復讐しろと言ってる気がするんだ」


 荷物をまとめ終えたアセロンはシリウスの横を通り、部屋を出て行った。

 

「みんなによろしく伝えておいてくれ。別に会えなくなるわけじゃ無いんだ。またすぐに会えるさ」


「ッ・・・!!じゃあ・・・せめて、リオラの所へ顔を出しとけ!」


「元からそのつもりだ」


 こうしてアセロンは、己の失敗を償うため、その敵を追う決意を固めた。

 

 シリウスがアセロンを見届けると、まるで彼が暗闇に向かって進んでいるように見えた。

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