第15話

「普通の人間じゃ...ない?」


ナナミの言葉にノキアは頷く。


「まあ、俺の生い立ちは少し特殊でな普通の人間ではできない事ができるんだ。」


「その一つが今、私がノキアに茸を食べさせた理由よ。ノキアは毒が効かないの...いや、解毒できると言った方が良いわね。」

シズはナナミに説明する。


「アンタと旅していた時と同じ感覚でやってたわ。可食判断...つまり、私とナナミちゃんが食べれる物かを調べてた訳。まさか、ナナミちゃんに話していなかったなんて思わなかったから...ごめんね。」


「そうだったんですね。」

ナナミはホッと息を吐いた。


納得されたようだが釈然としない。

苦しい事には変わらないから正直、あまりやりたくはない。

だが、まあ...いいだろう。


「俺はな、人間を基礎ベースを混ぜた..."混合獣キメラ"と言う存在だ。大抵の奴らより丈夫なうえ生命力も高い。無事だから安心しろ。」


「はい。」


「それよりノキア、これも試してみてよ。食べれなければ今日は狩った獣肉だけね。」


そう言ってシズは茸をノキアに渡した。


「これは...食べれられそうだな。獣肉と茸に水。量も申し分ないな。」


ノキアの可食判断が終わり三人は食事にありついた。


森で採った謎の茸と同じ森で採った猪の肉。


それを焚火に当てじっくりと火を通す。


茸は味が無く、猪肉は獣臭い風味が噛むたびに広がる。


三人はソレを水で流し込み食事を終える。


「ああ‶~美味しいご飯がだべだい!!」

思わず不満を漏らすシズ。


そして...


「よし!決めた!!明日は銀煌竜シルバードレイクをすぐに討伐して帰りましょう。」

シズは二人にそう言った。


3日目の朝ー


三人は陽が出ると共に出発し山へと向かった。


銀煌竜シルバードレイクは山の中腹におり卵を外敵から守っている。

だが、今回討伐する銀煌竜シルバードレイクは違った。

カリオスが原因で卵は割れ気性は既に荒れていた。


ノキア達が山に入ろうとした時、大きな咆哮が聞こえる。


「これは...向こうは完全にこっちに気付いてるな。」


「今の咆哮は警告でしょうね。」


「ああ、だが依頼を請けた以上、討伐しないとな。街にも危害が及ぶかもしれん。」


ノキアとシズは話し合い山へ登る。


山道は荒れ瓦礫のように積み上がった岩の上を崩れぬように慎重に登る。


やがて三人は山の中腹へと至った。


「加勢は必要か?」


銀煌竜シルバードレイクを目の前にノキアはシズに問う。


「いいえ、必要ないわ。」


シズが答えた瞬間、銀煌竜シルバードレイクが羽ばたき空へと上がる。

吹き飛びそうな風圧に耐え三人は敵を見る。


轟く咆哮と共に業火の息吹きブレスを吐いてきた。


パキン ー


割符が割られシズの手に武器が握られた。


五全ごぜん:透ける程の薄い刃が4枚重なり一つの刀の形を成した武器。


シズは手にした五全ごぜんで業火の息吹きブレスを払う。


フッとまるでろうそくの火を消したかのように目の前の業火が一瞬で無くなった。


「ごめんね。アナタに恨みは無いけれどこれも仕事だから...」

そう言ってシズは目の前の空気を斬る様に刀を振るう。

すると...

羽ばたき空に居た銀煌竜シルバードレイクが突然落ちてきた。

ズゥンと音を響かせその巨体が地に落ちる。


その目は白く濁りポカリと口を開いたまま絶命していた。


一薙ぎで決着するほど圧倒的な力...これがS級。次元がもはや違うことをナナミは感じ取った。


「さて...討伐証明はどこだったかしら。」


シズは銀煌竜シルバードレイクに近づき呟いた。


「さあな...鱗か牙か目玉か爪か...ああ、魔核を取り出せばバッチリじゃねえか?」


ノキアがシズに話す。


「じゃあ、ノキア。銀煌竜シルバードレイクの中にある魔核、取ってきなさい。」


魔核は心臓の近い位置に存在する。


つまり、こいつシズは俺に銀煌竜シルバードレイクの身体に入って持ってこいと言っている。


冗談じゃない。誰がこんなトカゲの身体に入るかよ。


ノキアが断ろうと口を開くとシズは五全ごぜんをノキアに見えるようにチラつかせる。


あっ...コイツ、断るとやべぇ。


「・・・やらせていただきます...」

そう言って、ノキアは銀煌竜シルバードレイクから身体の中に入り魔核を探した。


ー 30分後 ー


ノキアは魔核を持ち銀煌竜シルバードレイクの身体から出てくる。


「もう二度とやらん...」


体液まみれのノキアはそう言うとシズに魔核を渡した。


「大きいわね。これがあれば討伐証明にもなるでしょう。あとはこれをギルドに納品すれば依頼完了よ。」

ついでに銀煌竜シルバードレイクの牙も一本だけ回収する。


「これで用は済んだ。あとは討伐を報告して西方の都市ベルサへと向かうぞ。」


ノキア達は3日かけてきた道を戻っていった。



ーーーーーー

レツィオ

ーーーーーー


「あの...ノキアさん。今思ったのですが、今回請けた討伐依頼を別の街に行って取り消すことはできなかったんですか?」


ナナミがノキアに尋ねる。


「それはできなくは無いな。だが、それはあまりいい方法では無い。」


「それは何でですか?」


「今回請けた依頼は誰が出していた依頼だ?」

ノキアはナナミに尋ねる。


「えっと、領主・・・の息子です。」


「そう。それが依頼を取り消しにくい理由なんだ。」

ナナミは首を傾げる。


「本来、貴族や国・街の権力者などの依頼ってのはな、A級S級など等級ランクが高い者に割り当てられるんだ。それは何故だか分かるか?」


ナナミは首を左右に振る。


「確実に完了させなければ国の発展を妨げたり、国が滅びたりする場合があるからだ。だからこそ、大きな依頼には多額の金が動くしそれに見合った報酬もある。が大きい証だ。」


「信用...。」


「今回、アイツシズが領主の息子の依頼を請けてから取り消したとなると、その噂はギルドを通して国中に広がりアイツシズの信用が落ちてしまう。だから、請けた以上取り消すことはできなかったんだ。冒険者ランクが高すぎるのも考えものだよなぁ...」


それを聞いていたシズがボヤく。


「本当よ、依頼を失敗して王都の城で王様に事情を話す時とか、胃が痛くて堪らなかったわ。王様に"次は無い"とか言われたりね...まあ、貴族たちの目の前での説明だったりしたから立場的に仕方なかったんだけどね。」


そうこう話しているうちに三人はギルドへと辿り着いた。


ギーグを呼びシズは討伐完了の手続きをする。


「討伐証明はこれでいいわよね?」


そう言ってシズは銀煌竜シルバードレイクの魔核を渡した。


「おい、本当に討伐してきたって言うのか?まだ、依頼を請けて一週間そこらだぞ!?1~2ヶ月掛かる依頼だと言うのに...」


ギーグは驚きシズを見る。


「やっぱり元S級か...さすがは"天災"だな。」


「やめて...その呼び名は好きじゃ無いの。それよりもさっさと手続きをして頂戴。それと報酬もね。」


シズは手続きを終えると、ノキア、ナナミと共にギルドを出た。

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