第18話

ーーーーーーーーーーーー

王都=セムトガルディア=

ーーーーーーーーーーーー


マーリンの工房を出る。

すると...

今まで見たことが無い光景がナナミの視界に飛び込んできた。


巨大な城、城より高くそびえる塔、大きな街並みとどれもが目に新しい。


「ここが...王都なんですね。」


初めて見たであろう景色にナナミは驚いた。


「そうよ、王都=セムトガルディア=。大陸の中心にして最も栄えている最大の場所。せっかく来たんだから城下の方にも行ってみましょう。」


シズはナナミの腕を引き城下へと案内する。


「ま、待ってください、シズさん。もっとじっくり見てみたいです。」

シズはナナミを連れまわし店を巡る。


街の中は広くどこも活気で溢れていた。


「この感じ・・・懐かしいわ。ナナミちゃんを案内していると昔のノキアの事を思い出すわ。」


「おい、バカ!そんなの思い出さんでいいんだよ!!」


「き、聞きたいです!!その話!!」

ノキアが話を逸らすが、ナナミはソレを気にせずシズに昔話をするよう迫る。


「なら、一度どこかの店に入りましょう。こんな道で立ち話をするのもなんだから。それと本人に聞いて良いかも確認してみなさい。私の一存で話すこともできるけど、ちゃんと許可してもらった方が良いでしょ?」

ナナミはノキアに迫る。


「ノキアさん、お願いします。」

知ってか知らずか瞳をうるうるさせ断ろうとすると今にもなきそうだ。


「ハァ...お前、随分としたたかになったな。ぐいぐい聞いてくるじゃねえか。」

ナナミの態度に折れ、ノキアは頷いた。


三人は一つの店に入る。


「ここは...食堂ですか?」

ナナミがノキアに聞いた。


「ん?そうだが...ああ、なるほど。お前、そういえばこう言う静かで綺麗な店は初めてだったな。」


「はい。食堂ではもっと他の人の声が響いてるというイメージだったので...」


「そういえば、そうね。ナナミちゃんと冒険者たちが居ないこう言ったお店に来るのは初めてかも。」

シズは注文をしてからナナミにノキアの過去を話す。


「私がノキアと会ったのは3年前ね。当時 私はS級冒険者で王都の任についていたの。S級は6人しか居なくてね、A級が解決出来ない依頼や早急に解決しないといけない依頼を城からの要請でこなしてたわ。ある日、城に一つの依頼がギルドから届いたの。」


"お待たせ致しました。"


シズが話しているとテーブルに注文した飲み物が届く。


ナナミは見た事のない飲み物を怪しそうに見る。


テーブルに置かれた飲み物はそこが見えない程黒く澄んだ色をしている。


「これは...飲み...物なんですよね?黒く見た事ない色をしていますが、飲んでも大丈夫なんですか?」

ナナミが尋ねる。


すると...


「これはドゥーフ。北の地の飲み物で気付け薬の代わりによく飲まれているそうだ。凄く・・・美味い。一気に飲むのがおすすめだ。」

ノキアの説明を受けてナナミはドゥーフを口いっぱいに含む。


「っ!?」


なにコレ!?苦い!!

口の中が苦みでいっぱいになる。

驚きながらもその味に耐えナナミはドゥーフを飲み込んだ。

涙を浮かべノキアを睨むナナミ。


「ノキアさん!!騙しましたね!!苦いだけで美味しくないじゃないですか!」


ノキアはそれを見て笑う。


「ハハハハ、悪かった。そう怒るな。ホレ!これは大丈夫だから、飲んでみろ。」


そう言ってノキアは自分のドゥーフをナナミの方に渡す。


大丈夫と言いつつも中身の同じ飲み物だ。


ナナミはノキアを信じドゥーフをおそるおそる口へと運んだ。


「アレ!?苦くない!!」


いや、苦みはある。


だが、先ほどとは違い甘味が感じられ苦みがスッキリとした後味に変わる。


「どうして...」


「それはコイツのおかげだ。」

ノキアは同じテーブルにあった壺をナナミに見せた。


「これはされた魔物の蜜だ。魔花蜂まばなばちと言って花に魔力を込めてから蜜を取る虫型の魔物だ。その蜜を使ったんだよ。」

ノキアの説明に感心するナナミ。


コホン ー


シズは2人に気付くように咳き込む。


「!! すいません、シズさん。」


「いいのよナナミちゃん。お姉さん、相手にされてなかったけど全然寂しくないから...くすん。」

ナナミに対し拗ねて見せるシズ。


「ご、ごめんなさい!!」

ナナミは慌てた様にシズに謝った。


「フフ、冗談よ。話を続けるわね。」


そう言ってシズは話を続けた。


「城に届いた依頼は、北方の都市リネラサバンスからの依頼だったの。内容は北の魔外域まがいいきで起きている異常の調査と言うことだったわ。その時、王都から調査に選ばれたのが"天災わたし"と"創造マーリン"、そして"大罪リゲイン"。三人で北の魔外域へと向かったの。王都を出発して3週間後、私たちは北方の都市リネラサバンスへ着いた。そして、領主に話を聞き着いて早々に魔外域へと向かったわ。そこで私はノキアと出会ったの。」

シズはノキアを見る。


するとノキアは申し訳なさそうにシズを見つめ返した。


傍で見ていたナナミはソレに気付いたが何があったかは理解できず二人の顔を交互に見る。


「調査に向かった魔外域。そこでは、数えきれない程の魔物が居るはずなんだけど、何故か魔物が1体も居なかったの。私もマーリンもリゲインも異常だと気付いて警戒しながら調べたわ。そして、原因を見つけたの。暴走しているノキアをね。」


「暴走...?」

ナナミはピンと来ない様子でノキアを見た。


「・・・・。」

視線を逸らすノキア。


シズの説明は続いた。


「以前、ノキアが人間じゃないって言ったことは覚えてる?魔外域で最初に出会ったノキアは力を制御できずに暴走していたの。足元に何千、何万と言う魔物のむくろがあったわ。全力を出さないと死ぬ。私とマーリン、リゲインは死なない為だけに全力を出した。それでも防戦一方になり3日間私たちは耐え凌いだ。ノキアもさすがに限界が来たんでしょうね。暴走が解けて倒れていたわ。」


ナナミはその話を聞いて驚く。


シズの強さをナナミは目の当たりにしているからだ。


以前、銀煌竜シルバードレイクを一撃で仕留めた時でさえ本来の力の十分の一にも関わらず圧倒的な力を誇っていたのに、そのシズが全力を出すほどと述べている。


ナナミはノキアを見た。


「なんだよ・・・仕方なかったんだよ。反省してる。」


ノキアはナナミに向かい言い訳のような言葉を並べる。


だが、それは適当に繕った言葉では無かった。


その証拠にノキアはシズの話を聞いている間、終始複雑な表情で聞いていた。


「その後、私とマーリンとリゲインで話し合った結果、いつでも手を下せる状態で王都に連れてきたの。国王及びS級6人で話し合った結果、今生かされてると言う訳。条件つきだけどね。ちなみに、城での話し合いが終わった後、私がノキアに王都を案内してあげたの。あの時のノキアは抜け殻のような感じでね、感情を引き出すのに苦労したわ。それで、何やかんやあってノキアを弟子にして一緒に旅に出た...という事で昔話はお終い。」


シズの話が終わった。


「また時間がある時に違う話もしてあげる。今日はもう戻りましょう?」


そう言うと三人は工房へと戻ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る