第17話

ノキア達を連れ逃亡したカリオスを追うシズ。


「すぐに捕まると思っていたら見失ったわね。」


周りを見ても人らしき影は見当たらない。


「マーリン、何か探索に向いてる道具は無いの?」

シズはついてきたマーリンに尋ねた。


「やれやれ...相変わらず人遣いが荒いなぁ。」


そう言ってマーリンは懐から小さな皮袋を取り出した。


革袋を傾け、もう片方の手に袋の中に入っていた粉を少量出し握る。

マーリンはその粉を口元に近づけ何かを囁いた。

その後、持っていた粉を宙に撒く。


「こんなところで使いたくはなかったが仕方ない...お、見つけたよ。向こうだ。どうやら誰かと口論しているようだ。」


ものの数秒でマーリンはカリオスの居場所を突き止めた。


マーリンの言う通りに道を進んで行くとそこにカリオスが冒険者たちと居た。


「見つけたわ。さあ、大人しく降参しなさい。アンタ、領主の息子でしょ?潔くしたらどうなの?」

シズがカリオスに話した。


すると...


カリオスは懐から黒い玉を出し地面に向け叩き割った。

黒い破片が繋がり一つの穴が出来ていく。


「使えん冒険者共と生意気な奴らだ。私の言う通りにしていれば良かったものを...。まあいい、アイツだ言った目的も果たせたしな。もうこんな場所に未練など無い。」


そう言うとカリオスは穴を伝い彼方へと消えた。


穴はカリオスが使った後小さくなり消滅した。


逃げられてしまった。


その場に残った冒険者たちに話を聞くと...


彼らは何も知らないとシズ達に説明する。


「カリオスの旦那と一緒に居たフードの男の居場所を聞かれたんだ。俺たちが知るわけ無いと言ったらあの状況になってよぅ...今の状態になったんだ。」

どうやら協力者がいたらしい。


カリオスの逃亡手段もそいつが用意した者だろう。


色々と考えをまとめているとマーリンがシズに声を掛けた。


「これ以上、追うのは得策ではない。一度、領主の元へと戻り報告するとしよう。」


シズたちは頷き、領主の元へと戻る。


・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・


「以上が、報告となります。どうやら、領主…ウォルター様が不在の間に色々と不審な事をしていた様です。」

マーリンの働きによりこの街レツィオでカリオスがしていた事が明るみに出た。


「人身売買とギルドへの不当な介入...更に税の過剰徴収。なんという事だ。とりあえずできる事から改善して行こう。人身売買された者たちを調べよ。可能であれば買い戻し、その者たちに今後の生活を可能な限り保証せよ。税の過剰徴収もだ。リストを作り返金する。私はギルドに謝罪をしてくる。」


この領主はとても良い人だ。


みんなから慕われるのが良く分かる。


どれだけ不当な事があっても殆どの人が街を去ろうとしなかった。


それはこの領主が居たからこそだろう。

これからも大変な事は続くが領主様には街の復興を頑張って欲しい...そう思ったナナミであった。


領主の館を後に三人は街を歩く。


まだ少しだけだが、街に活気が戻りつつあった。


「そうそう、マーリン。アンタ、クリエイトの割符を寄越しなさい。全部使ってもう無いの。」


シズはマーリンに手を出した。


「もう使ったのかい!?10枚くらい持っていたよね?シズ嬢の実力があれば割符を使う機会なんて無いと思っていたが...」


「色々あったのよ。10枚じゃ足りないわ。倍の20枚は必要よ。」


「あ、俺にもくれよ。クリエイトの割符。」


マーリンは頭をかきながら悩んだ。


「うーん...なら、一度僕の工房に来てくれないか?」


マーリンはシズとノキアに話しをする。


「工房?」


「そう、王都にある僕の工房だ。こんな場所では素材も何もかもが足りないからね。君たちがもし来てくれるのなら用意すると約束しよう。」


シズはノキア達と相談をする。


「どうするの?王都に行けば割符は手に入るけど、ノキアの目的地の南方の都市サウクラップとは方向が違うわよ?寄り道と言う形になってしまうけど...」


「俺は構わねえよ。どのみち急いだところで何も変わらねえ。到着が1~2ヶ月遅れたところで気にしないさ。ナナミもそれでいいか?」


「は、はい。ノキアさんにお任せします。」


全員一致の答えが出る。


シズがマーリンについていくと伝えるとマーリンは直ぐに準備を始めた。


「君たちは、王都に向かう準備はできているのかい?」


マーリンは尋ねる。


すると...


三人がコクリと揃って頷いた。


「そうか。なら行こうか。王都=セムトガルディア=へ。」


マーリンは1枚の割符を使った。


=ワルドムーヴ=

いわゆる転移と言われる魔法である。


マーリンが使った割符に込められていた魔法だ。


割符を割った途端周囲がぐにゃりと歪み周りの景色が溶けて行った。


酔ってしまいそうな光景だが溶けた景色はすぐに逆再生されたように元に戻る。


ただし、景色だけが違った景色になっていた。

歪みが戻っていく。

気が付くとナナミ達は見知らぬ部屋に移動していた。


「転移酔いは大丈夫だったかい?そして、ようこそ!王都=セムトガルディア=へ。」

マーリンが言った言葉。


どうやらもう王都=セムトガルディア=には到着したらしい。


「マーリン、貴方また凄い魔道具を作ったわね...」

どうやらシズは呆れている様子だ。


「まあね、便利だと思ったから。そんな事より、せっかく王都まで来たんだから色々見てきたらどうだい?割符は作っておくからさ。」

マーリンの提案に三人は頷いた。


「そうだな、せっかく来たし色々見て回るか!!」


「はい。」


「そうね、次の旅の準備も兼ねて此処で色々見てみましょう。」

三人は王都へと繰り出した。

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