第16話

「さて、報酬も手に入れた。まずやる事は?」


シズが二人に尋ねると...


「「まずは腹ごしらえだろですよね!」」


ノキアとナナミはシズにそう答えた。


報酬を手に入れた三人は食事ができる店へと入って行く。


店内は閑散としており2~3人の冒険者であろう者たちが食事を取っているだけであった。


「人が居ませんね。」


ナナミが呟くとシズが答える。


「仕方ないわよ。まだ、領主の息子の影響が強いんでしょ。まあ、手を打っておいたから今はご飯を食べましょう?」


手を打った?


ナナミはその言葉に首を傾げつつもノキア達と食事を楽しむことにした。


注文をし席で待っていると料理が三人のところに運ばれて来る。


「これは?」

運ばれた料理についてナナミは店員に聞いた。


「これは、猪肉を塊に切り分け煮たものです。"ブロンニ"と言います。」


ゴロリとした大きな肉の塊が皿いっぱいに盛られている。


「猪肉...」

ナナミは苦い表情を示す。


「大丈夫よ、ナナミちゃん。ここの猪肉はあの時の物とは比較にならないくらい美味しいから。」


シズの話を聞くナナミ。


確かに匂いからは美味しそうな感じが漂っている。


ナナミは一つ皿に取るとその肉を口へと運んだ。



「〜〜〜〜〜!?」


ジュワー

と口に広がる肉汁が喉の奥に流れ込む。

美味うまい、美味おいしい、美味びみ...

月並みだがそんな当たり前の賛辞しか出て来なかった。


「まだまだ、あるからね。次は...これ!」

シズが次の料理を薦める。


何だろうか?穀物のような物が紅く染まり何とも言えぬ香りを放つ。


一口食べてみるとほのかに酸味がかった味とサラサラとした食感が口の中に広がった。


「これも美味しい...何ですかこれ?」


ナナミがシズに聞いてみる。


「"ソゾティア"って言ってね、豆や穀物を煮た料理なの。昔、""した魔物の血で草や木の実を煮て食べていて、そこからきた料理って言われてるわ。」


ナナミは話を聞きゾッとして料理を見る。


「もしかして...これ...」


「大丈夫だよ。昔って言ってたろ?おい、シズ。ちゃんと誤解を解いてやれよ。」


「あはは、ごめんごめん。心配しなくても大丈夫だよ。ナナミちゃん。今の"ソゾティア"はそんな料理じゃないから。」


ナナミの反応を見たシズは笑いながら誤解を解いていく。


「あくまで昔の話よ。今の"ソゾティア"は街ごとに作り方を変化させた違う味が楽しめる料理になっているわ。勿論、魔物の血とかも使ってないから安心して、単なる煮込み料理よ。」


三人が料理を楽しんでいると...


店の中に兵士が何人も入ってきた。


「ほぅ、楽しんでいるね。この私を差し置いて。」


店にカリオスが入ってくる。


「依頼は終わったでしょう?もう構わないで欲しいのだけど...」


冷めた態度でカリオスの相手をするシズ。


しかし...


「そうつれない事を言うな。せっかく私がこのような場所まで訪ねて来たというのに...」


カリオスの態度にため息を漏らしシズは訊いた。


「はぁ...で、何の用?」


「ドラゴン退治の件、まことに見事であった。その功績に応じて私専属の使用人に召し抱えよう。」

カリオスはシズに対し伝える。


「お断りよ。」


シズはカリオスの言葉をバッサリと切り捨てて言った。


「何が不満だ?この私の元に来れば今以上の好待遇を約束されるのだぞ?」


「私はね、自由気ままな今が好きなの。縛られるなんて冗談じゃないわ。」


シズはカリオスにそう言い放つ。


「そうか、それは残念だ。」


突然、カリオスの兵士たちが三人を包囲した。


店に居た冒険者はいつの間にか居なくなり、店の店員は心配そうに遠くからこちらを見つめている。


「また脅すつもり?」


シズは静かに冷めた声で訊いた。


「はて?そんなつもりは無い。ただ、私の兵士は少し未熟でな、もしかすると手元が狂う場合があるだけだ。」


カリオスは余裕の笑みを浮かべこちらを見ている。


「お前がいれば、父も私の功績を認めざるを得ないだろう。街を襲ったドラゴンを討伐し、それを成した元S級冒険者を取り入れる。」


「そもそも、ドラゴンは貴方が原因を作ったんじゃないですか!!こちらから手を出さなければ何も無く街は平和だったのに…」


ナナミはカリオスに言った。


「だまれ、小娘よ。そんな事実などどうとでも捻じ曲げられる。その権力ちからが私にはあるからな。」


「そんな...」


カリオスはシズに手を差し伸べる。


「さぁ...私の下に来い。」


兵士が三人に武器を向け迫りくる。


「ハァ..."ノキア"。」


シズは溜め息を吐き、ノキアの名前を呼んだ。


「ハイよ!」


ノキアの姿が消えたと同時にカリオスの兵が次々と倒れていく。


「これで良いか?」


ノキアはシズに尋ねる。


すると...


にこりとシズは笑い頷いた。


「な、何が起きた!?」


一人の兵士が倒れたかと思えば次々に同じように兵士が倒れていく。

シズの後ろで埃を払う青年ノキア

あいつが消えた途端...事が起こった。

あいつがやったのか。


「無礼者め!私の兵を攻撃するという事は...この街に敵対すると捉えて良いんだろうな!!」

カリオスがノキアに言った。


その時...


「いい加減にしろ!!」

見知らぬ声が辺りに響く。


「この声は...まさか!?」

カリオスは声のする方を振り向いた。


「父上!!」


そこに居たのはレツィオの領主であった。


カリオスは驚き、父に尋ねる。


「父上!何故ここに!?」


カリオスの疑問に領主は答える。

「この方が私をここまで連れて来てくれたのだよ!」


領主の後ろに控える一人の男性。


彼はシズ達を見て話しかけた。


「やあ♪どうやら間に合ったようだね。」


「マーリン、アンタ遅いのよ!手紙を見たらさっさと来なさい。」


シズが"マーリン"と名乗る男性と話している。


「誰だろう?」


独り言のように呟いた言葉を聞いてノキアは答える。


「あれは、現S級の冒険者。"創造のマーリン"って呼ばれてる野郎だ。」


「S級...冒険者。」


S級...という事は、シズさんと同じくらい強い人なんだろうか?


ナナミはマーリンに視線を向けた。


「ん?おやおや?そこのお嬢さん。僕にそんな熱い視線を送ってどうしたんだい?」

マーリンはナナミの視線に気付き距離を近づけてくる。


「ちょっと、私のナナミちゃんに近づかないで!!」

シズはナナミを抱き寄せるとマーリンに向けて威嚇する。


「話は全てマーリン殿から聞いた。この愚か者が!!」

領主はカリオスに怒りを向け怒号を放つ。


銀煌竜シルバードレイクにも劣らぬほどだ。


「愚かにも、自分からドラゴンに報復される理由を作り、それを冒険者を脅して解決させるなどとは...」


「ち、違います。父上。ドラゴンと私は全く関係ありません。冒険者がドラゴンの卵を狙ったのです。失敗した冒険者がこの街に逃げてきて、ドラゴンが街を襲ったので、私は彼女シズに助けを求め解決してもらったにすぎません。多少強引に迫った節はありますが、全ては街のためを思い私は...」


「ふむ、ならこれを使おう。」


マーリンは一枚の割符を取り出した。


「これは"僕"が作った割符と言うものだ。この中には様々な魔法の効果を込めてある。シズなら何度か使っているようだしその効力は分かるよね?」


マーリンの言葉にシズは頷く。


「さて、説明を戻そう。この割符を使うと嘘を見破ることができる"看破"と言う魔法が込められている。これを使おうじゃないか。」


マーリンが皆の前で説明する。


途端、カリオスの顔が苦くなった表情を見せた。


「そ、そんな物信じられるか!!」


カリオスはマーリンに向かい文句を言った。


「ほう、なら試してみよう。」



マーリンは割符を使い、領主に質問した。


マーリンの目の前に白い光の玉が現れる。


「領主さま、貴方は病を治す為に王都へと行った。そうですね?」


「そうだ。」

領主の答えを聞くとその光は白い輝きを放つ。


「このように真実を述べると玉は白く光出す。そして、逆に嘘を


言うと...


「領主様、貴方は病が完治する前に来た...そうですね?」


「そうだ。」


マーリンの目の前の玉は黒くなった。


「このように黒に染まる。」


病が完治する前に来た...


その言葉で黒くなったという事は領主の病は完治してると言う事だ。


「ちなみに領主様の病は完治している。なにせ"奇跡と聖女"が協力してくれたからね。心配は要らない。」

マーリンはそう言うと領主もその事実を肯定する。


「その通りだ。」

再びマーリンの光の玉は白く輝いた。


光の玉をカリオスに向けるマーリン。


「さて、カリオス様。私の言葉は信じずとも貴方の父上のお言葉は信じぬ訳にはいきませんよね。私の質問にお答え頂けますか?」

マーリンの問いを前にカリオスは逃亡した。


「やれやれ、逃げたところでどうにもならないのに…あ、そうそう"奇跡と聖女"から伝言です。"貸し一つ"だと...」


シズは苦い顔をした後、ノキア達を連れカリオスを追った。

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