第19話

マーリンの工房へ戻った三人。


「おかえり。久々の王都はどうだった?」

マーリンはノキア達に尋ねる。


「ああ...聞きたくもない昔話を聞かせれたよ。」

マーリンに向かい返答するノキア。


「ん?なんだそりゃ?とにかく楽しめたなら良かったよ。ほら、クリエイトの割符だ。シズ嬢には20枚、ノキア君には10枚...それとこれを渡しておく。」


マーリンはノキアに指輪を渡す。


「何だこれは?」


「君の罪悪感を和らげる指輪かな。」


そう言うとマーリンは指輪の説明をする。


「これは、ノキア君が暴走した時に能力値ちからを著しく下げることができる指輪さ。これで万が一の時、僕たちが君の暴走にも対処できるようになる。まあ、2年前のようになるのはもう御免だろ?君の負担も軽減されるからつけておくと良い。」


ノキアに指輪の説明をした後、マーリンはナナミの元に立った。


「君にはこれを渡しておこう。」


マーリンは腰から下げた鞄から小さな袋を取り出しナナミへと渡す。


「これは?」


「僕が作った妖精の羽粉フェアリーパウダーと言う道具だ。疑似的な妖精を模した粉で使用者の願いを叶えてくれる。」

マーリンはナナミに説明する。


「使い方はその袋から粉を手に取る。まあ、匙一つ分くらいで良いだろう。その粉にやって欲しい願いを言って撒く。すると、使用者の願いに沿った行動をしてくれるよ。あくまで願い事は単純なものに限るが意外と応用が利くからね。因みに粉は願いを叶えると勝手に袋に戻るから使い回しも可能だ。燃えたり失ったりした分は戻らないがね。」


ナナミはそれを受け取るとバッグにしまった。


「今日は僕の工房に泊まっていくと良い。寝る部屋くらいは用意しよう。それと、シズ嬢。さっき"奇跡"の一人から伝言を預かった。"貸しの返済を求める"...だそうだ。明日にでも教会に行くと良い。」

マーリンの計らいにより、寝床を確保した三人は早々と眠りに就いた。


ーーーー

翌日

ーーーー


三人は目を覚ますと工房を後に教会へと向かう。


「ノキアさん、教会ってどんなところなんですか?」

ナナミはノキアに尋ねる。


「う~ん、簡単に言えば一般向けの治癒院だな。」


「一般向け...?」


ナナミは分からなそうに首を傾げた。


「レツィオの街の領主のおっさんを覚えているか?」

ノキアがナナミに尋ねると


「勿論、覚えていますよ。」

ナナミが答える。


「ああ言った貴族や重鎮が怪我や病気を治す場所を"治癒院"。街の民や一般的な冒険者が怪我や病気を治す場所を"教会"と分けて言っているんだ。それと子供に最低限の読み書きなども教えてたりする。」


ノキアはナナミに説明した。


「命は対等に扱われるべき。そこに差別も区別もあってはならない...って言うのが理想なんだけれど、理想だけではどうにもならないのよ。ナナミちゃん。だからこそ王都は治癒院と"教会"に分かれているの。」


「難しい事なんですね。」


シズの話を聞いてナナミは呟いた。


「レツィオの件も、領主の治療を優先しなければ街がもっと酷くなってたかもしれない。そういう事も考えて治癒院の人達は治療をしているの。」


話をしているうちに三人は教会と呼ばれる場所に着いた。


その建物は王都の中央部、人々の生活が賑わう場所に建っていた。


「ナナミ、あっちの銀色の看板の建物が治癒院。こっちの白い方の看板が教会だ。」


ノキアはナナミに治癒院と教会の見方を教えた。


三人は"教会"側の扉を開け中へと入る。


教会の中は病人と教会の関係者で溢れそうだった。


「こんなに怪我をした人がたくさん...」


ナナミはそう呟くとシズが否定する。


「ああ、違う違う。なんて説明すればいいかな...そう、教会ここは街の広場のように色々な人が集まってるだけよ。」


「えっ?」


「あそこに座っている人たちはただお喋りに集まっているだけだし、あっちは読み書きを習いに来た子供たちね...本当に怪我や病気で見てもらいたく来た人はあそこの列の6人だけ。」


確かにシズの言う通り、周りを見てみると酷い怪我や具合の悪い子供を抱えてる人など深刻そうな人は数人だけだった。


「本当だ。」


「ここはなんて言うか、いつの間にか皆の憩いの場みたいになってるの。」


そんなことを話していると...


シズは一人の女性に声を掛けられた。


「待っていましたよ、シズ様。」


「おはよう、シャロン。他のみんなは元気?」

シズは挨拶を返すとシャロンと言う女性に尋ねる。


「ええ、皆変わりありません。あとで皆に顔を見せてあげてください。とくにウルネが喜びます。それはそれとして、ジャンヌ様から伝言を預かってます。もし、教会側にいらしたら"治癒院の方に来るように"と。」


「ええ、分かったわ。それじゃ、また後でね。」


シズは教会を後にして治癒院の方へと向かった。


治癒院は教会とは対照的に静かで落ち着いた雰囲気をしていた。

ナナミがシズに話す。


「こっちは教会とは違って静かで落ち着いていますね。」

「まあ、こっちは貴族様が主に通う場所だからね。育ってきた環境の違いがあるのよ。"貴族たるもの、いかなる時も動じず"...みたいな?」


そんな話をしていると...


「まあ、シズ様!お待ちしておりました。」


奥から一人の女性が近づいてきた。


「リファラ、久しぶり。」


シズがリファラと呼ぶ女性は先ほど教会に居たシャロンとそっくりの容姿をしていた。


「教会に行ったら、シャロンからこっちに来るように言われたの。ジャンヌは居る?」


シズがリファラに話すと彼女は呼んできますと言いその場を去っていった。


「あの、シズさん。今のリファラさん、さっきのシャロンさんとそっくりなんですがどういった人なんですか?」


ナナミはシズに聞く。


すると...


「えっとね、あの二人シャロンとリファラは双子なの。だから容姿が似てるのよ。そして、彼女たちはS級冒険者"奇跡と聖女"の一人よ。いや...正確には7人組のうちの一人ね。」


シズの話を聞くと、どうやら彼女たちは治癒...癒しに優れた冒険者だそうだ。


リーダーの"ジャンヌ"を先頭に"マリア"、"ネーシャ"、"ウルネ"、"シャロン"、"リファラ"、"バステア"。


元は7人組の冒険者パーティだったらしい。


彼女たちは7人で冒険者を続けランクを着実に上げていった。

そんな最中さなか 故郷に近い東方の都市カウルで謎の奇病が流行はやり出した。

その原因を突き止め、解決したのが彼女たちだったらしい。

癒しの魔法が発現し、その魔法ちからを使うことで奇病を終息に導いた。

その噂が王都に届いて今の地位に至ったのだとシズは語る。


「あら、"奇跡と聖女わたしたち"の事を話していたのですか?」


声のした方を向くと、そこには先ほどのリファラと呼ばれた女性と共にもう一人の女性が立っていた。


「そうよ、ナナミちゃんが知りたそうだったからね。"聖女ジャンヌ"様たちの事を教えていたの。」


シズがジャンヌに説明すると少しくたびれた様な表情で彼女は笑った。


「ナナミさん...で良かったでしょうか?初めまして、当治癒院及び教会を管理しています"ジャンヌ"と申します。」


「は、初めまして!ナナミです。よろしくお願いします。」


ジャンヌはナナミに微笑む。


「ノキアさんも、久しぶりですね。」


「おう、そうだな。」


「早速ですが、シズさん。貴方に頼みたい事がありまして...少し時間を貰っても良いですか?」

ジャンヌはシズに尋ねる。


「"貸し一つ"なんでしょ?構わないわ。何でも言ってちょうだい。できるかは別としてね。」

シズの答えにジャンヌはクスリと笑った。


「ありがとうございます。では、こちらに...」


そう言うとジャンヌはシズ達を応接室のような場所に案内する。


応接室に通された三人は椅子に座りジャンヌから話の内容を聞いた。


「王都と東方の都市カウルの間に"ジュギ"と言う街があります。その街の近郊で最近ダンジョンが見つかりました...いえ、造られたと言った方が正しいですね。シズさんにはそのダンジョンの調査をしてもらいたいのです。」


ジャンヌから要求されたのはダンジョンの調査依頼だった。

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