第27話

アザゼルとの勝負を終わる。


辺りを見回すと至る所で冒険者と首のない騎士の死体が散らかっていた。


「酷いものだ。俺がもっと早く来ていれば救える命もあったのだろうか...」


シュデンは割り切れない気持ちを抱え"ジュギ"の街へと戻った。


街に入ると入り口付近の建物は壊され道端には血の跡がチラホラとみられる。


死体などは転がっていないが、周りの様子から被害の深刻さが見て取れた。


「とりあえずギルドに向かおう。マーリンが何かしらしているはずだ。」


シュデンは冒険者ギルドへ向かった。





ーーーーーーーーーー

ー冒険者ギルドー

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ギルドでは負傷した冒険者が傷の処置を受けていた。


シュデンはマーリンを探す。


すると...


「あの...アナタも怪我をされた方でしょうか?」


負傷者を処置していたナナミが声を掛けてきた。


「いや、俺は...」


「ちょうど今手が空いたので、こちらへどうぞ。傷の処置をします。」


ナナミはシュデンの手を引き、傷の処置を始める。


「あの...冒険者の方々は無事でしょうか?」


「無事とは?」


「街の外に大勢の敵が現れたんですよね?敵の侵攻を防ぐために戦っている冒険者さんたちは、皆さん無事なのでしょうか?」

ナナミはシュデンに訊いた。


「皆が助かるほど都合のいい事などある訳がない。敵は退けたが、冒険者は半分以上が死んだよ。」


「そう...ですか。」


シュデンの言葉にナナミは俯く。


「だからこそ、俯いてはダメだ。」


それを見たシュデンは、ナナミに俯いてはいけないと語る。


「え?」


「死にたくないと思った者もいる、逃げたいと思った奴もいる。それでも街を守る為に彼らは戦ったんだ。生きてる俺たちに出来ることは、守ってもらった事の感謝と、そいつらの分まで生きることだ。」


ナナミはシュデンの言葉を受け止め、今やるべきことを理解した。


シュデンの手当てをしていると...


「ナナミ嬢、治癒院の方の治療は何とか終えた。アトリ嬢にも報告済だ。それから...」


マーリンが治癒院から戻ってきた。


マーリンはシュデンの姿を見て、彼に尋ねる。


「やあ、シュデン。外敵の問題は解決したのかい?」


「ああ...だが、冒険者の半数が死んだ。街にも被害が出て住民も30人が亡くなったと聞いている。もっと早く来ていれば…」


「あの...マーリンさんのお知り合いの方ですか?」


ナナミが尋ねると、マーリンが答える。


「ナナミ嬢は会うのは初めてだったね。彼はS級冒険者の一人。"無敵"の称号を有するシュデンだ。」


「シュデンだ。よろしく頼む。」


シュデンはナナミに挨拶をした。


「どうも、初めまして。ナナミと申します。よろしくお願いします。」


「さて、ナナミ嬢。少しシュデンを借りても良いかな?"ジュギ"のギルドマスターに報告して来なければいけなくてね。」


「どうぞ、今ちょうど処置を終えたところです。」


そう言うとナナミは立ち上がりシュデンの傍を離れた。


「では、行こうか。」


シュデンに向かいマーリンは言う。


「ああ、分かった。」


そして二人はナナミの元を離れる。




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ー冒険者ギルド(ギルドマスターの部屋)ー

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「失礼するよアトリ嬢。先程の起きた出来事の報告に来た。」

マーリンがアトリに声を掛ける。


アトリは自身の机に向かい合ったまま、マーリンに声を掛ける。


「ええ、報告をお願いするわ。」


「まず"ジュギ"の街に現れた敵だが、これはシュデンが対応し脅威を取り除いた。外敵は首なしの騎士の様な軍団で、首領のような者からは、天尖兵てんせんぺいと呼ばれていたらしい。」


マーリンの説明にシュデンが割り込み補足をする。


「敵の首領は、自らを天使と名乗っていた。少年の姿をしており、背に四枚の翼を生やしていた。名をアザゼルと言い、どうやら仲間も居るような口ぶりだったな。一応、脅威は排除したが、倒した訳じゃない。だが、警告もした。暫くは大丈夫だろう。」


「次に被害の報告だ。ギルド所属の冒険者が約150名。そのうちの防衛に当たった者は100名程だが、生存し無事な者は40名だった。ギルドに残った50名と合わせて90名。他は皆死んだよ。街の住人も30名程殺された。なんとも後味の悪い結果だ。」


マーリンはアトリに報告を終えた。


「そうか。なら、あとは私の方から領主様に伝えよう。報告ご苦労であった。」


アトリの元を離れ、マーリンとシュデンはナナミの所へと戻る。



ーーーーーーーーーーー

ー 冒険者ギルド ー

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マーリンとシュデンの二人がナナミの元に戻った時...


ギィー


ギルドの扉が開き、ノキアとシズが戻ってきた。


「何があったんだ?街の一部は半壊し、冒険者もボロボロなんて...」


「ノキアさん!シズさん!!」


ナナミがノキア達に向かい声を上げ呼ぶ。


「ナナミ!!」


二人が駆け寄る。


「何があったんだ?」


ノキアはナナミに尋ねた。


すると...


「その話は僕からしよう。」


マーリンが説明すると申し出る。


「マーリン。アンタがいるって事は...」


シズが何かを察する。


「俺もいるぞ!」


シュデンも "自分もいる" と主張する。


「アンタには聞いてないわ。」


「ハハ、相変わらず酷い扱いだ。」


「コホン、とにかくここでは落ち着いて話せないな。ゆっくり話せる場所に移動しよう。」


ノキア・シズ・ナナミ・マーリン・シュデンの5人はギルドを出て宿へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーー

ジュギ  ー 宿 ー

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宿に着いた5人は部屋に集まり、情報を整理する。


「まずは、俺とシズの話からしよう。5日前に俺たちはアフトリのダンジョンへと向かった。前回、途中で帰還した続きから攻略を始める為にな。そして地下5階層で新種の魔物と対峙した。後でギルドに報告するが、そいつは擬態を解くまで実体のない魔物だった。シズと協力してなんとか倒したところで、天人が現れてダンジョンを壊していったんだ。俺らは無事に脱出して真っ直ぐ戻ってきた。」


ノキアが説明を終える。


そして、次にナナミ達が話し出す。


「私たちの方は、ノキアさん達がダンジョンに向かった後、街で過ごしていました。ただ胸のざわつきが消えないまま3日経った頃、空に見た事ない文字が浮かんできて、敵が降りてきたんです。冒険者ギルドが危険をいち早く察知して対処しました。私もその時マーリンさんを呼んだんです。」


「ナナミ嬢からの知らせが届いた時は驚いたよ。まさか本当に危機が訪れるなんて思ってもいなかったからね。急ぎ王城からシュデンを連れ出す許可をもらい駆けつけた。この街に来てからは戦闘はシュデンに任せて僕は支援にあたっていた。ナナミ嬢と共にね。」


「俺はマーリンと別れたあと、街の外へ向かい敵を消して行った。駆けつけた頃には、冒険者は六割減り、残りの冒険者と共に敵を退けた。あらかた片付いたところで、"天使"とか言う翼を生やした奇妙な存在と会った。今回の騒動はどうもそいつが元凶らしい。」


"天使"という言葉を聞いたノキアはシュデンに尋ねる。


「翼の生えたそいつは自分を"天使"と言っていたのか?」


「ああ、魔族とは違う雰囲気を放っていた。一度だけ攻撃を受けたが着ていた鎧が砕けたよ。しかも、まだ余力を残しているようだった。まあ、その後は何かやられる前に消してやったがな。」


「そうか...」


「どうかしたのか?」


うかない返事をするノキアにシュデンは尋ねた。


「いや....何でもない。俺らとお前らが会った敵がほぼ同一という前提での話だが、その"天使"は俺らが向かったダンジョンで、新種の魔物を育てていた。"天使"の話の内容を考察するに狙いは新種の魔物を使っての"世界樹の枝"の奪取が目的だろう。」


「"世界樹の枝"?」


「ああ、どうやら"天使"の狙いは"世界樹の枝"らしい。ダンジョンで会った時も俺らに気配がどうのこうの言っていたからな。そして、"世界樹の枝"に一番関りが近い存在が"ナナミ"、お前だ。」


ノキアはナナミに向かい告げた。


「私...」


「もちろん、お前に自覚がない事も知っているが、状況をかんがみるとその可能性が一番高い。」


「また私のせいで街が襲われたのですね...」


落ち込むナナミに対してノキアは言った。


「今回、お前が原因だったとしても狙われる可能性は半々だった。運が悪かっただけだ。」


「どういう事?」


シズが尋ねる。


師匠おまえも居たから分かるだろうが、"天使"はダンジョンで新種の魔物を育てていただろ?おそらくその魔物を使って"ジュギ"を襲うつもりでいたんだ。だが、俺らがソイツを倒した...つまり、そいつを使う計画が頓挫とんざしたって事だ。そうなると、取れる手段は2つ。諦めるか、無理にでも計画を進めるか。今回は強行手段を取ったって事だけだ。」


「つまり、新種の魔物を倒した時点で、襲う事を諦めていた可能性もあった訳ね。」


「ああ、そして慎重な奴ほど諦める可能性が高い。だから、さっきも言った通り今回街が襲われたのは運が悪かっただけだ。あまり落ち込むなよ。」


ノキアはそう説明しナナミを励ました。



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