第26話
"ジュギ"の街にマーリンと一人の男が現れる。
「シュデン、じゃあ頼むよ。」
マーリンは男に向かい言った。
「ああ、後は任せておけ。」
シュデンと名乗る男はマーリンにそう告げると敵がいる方へと走って行った。
「シュデンに任せておけばすぐに解決するだろう。僕の方は...ナナミ嬢を探すとしよう。」
マーリンは
「うん、ナナミ嬢は冒険者ギルドにいるのか。」
マーリンがギルドに向かうとナナミは職員たちと共に負傷者の治療にあたっていた。
「傷薬を塗りました。今は安静にしててください。」
「あ、まだ包帯を取ってはダメです。また傷が開いてしまいます!!」
ナナミに向かいマーリンは声を掛ける。
「やあ、ナナミ嬢。ここに居たんだね。」
「マーリンさん、来てくれたんですね!」
ナナミの言葉にギルドの職員は一斉にこちらを見た。
「マーリン様!?」
職員たちは全員マーリンに頭を下げた。
「ああ、そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。それよりも負傷者の手当てを続けてくれ。」
マーリンの言葉でギルド職員が再び負傷者の手当に戻る。
「さて、ナナミ嬢。君は少し手当を止めて僕に何が起きたかを教えてくれ。」
「マーリンさん、それよりも街の防衛が大変で冒険者の方々が負傷されて来てるんです。何とかなりませんか?」
ナナミはマーリンに街の防衛が切迫していることを告げる。
「ああ、それなら心配は無い。言っただろ?とっておきを連れてくると...防衛は彼に任せておけばいいさ。」
"ジュギ"の街の外では...
A級冒険者たちがB級やC級を庇いながら戦う状況になっていた。
冒険者一人に対して敵が複数体で襲い掛かる。
最初とは立場が逆転した構図だ。
「奮闘はしたものの状況は未だ劣勢。街の住人は避難できただろうか?もう長くは時間を稼げない...なら、あとは一体でも多く敵を屠るのみ。」
冒険者の一人がそう言って剣を振り上げた時...
「おいおい、冒険者ってのは諦めが悪くなけりゃやってられんぞ?お前もA級なら敵を道連れにするより最後まで足掻いて生きてみろ!!」
どこからか戦場に響く声と共に敵が次々に消えて行った。
「一体...なにが...」
突然消えた敵に困惑する冒険者たち。
すると街の方から一人の男がやってくる。
「あれは、まさか...間違いない。」
一人の冒険者がその名を口にした。
「"無敵"だ..."無敵"のシュデンだ。」
シュデンは冒険者に尋ねる。
「敵はもう居ないな?遅くなってすまない。」
その言葉に冒険者は頷き礼を言った。
「いや、アンタが来てくれて助かった。このままの状態が続いていればいずれ押し切られていただろう。」
「そうか、間に合ったのなら良かっ!?」
シュデンは冒険者を庇うように押し退ける。
「なっ!?」
困惑する冒険者だったが、すぐにその理由を知った。
シュデンの鎧が砕け大きく後方へと飛び倒れる。
その位置は先ほどまで自分が居た位置だった。
あのままでは確実に直撃し死んでいただろう。
【あーあ、狙いが外れちゃったか。まあ、一人仕留めたし良しとしよう。どうせ皆殺す予定だから変わらないしね。】
声のする方を見てみるとそこには翼の生えた少年が立っていた。
【僕の用意した
何を言っているのかまるで理解できない。
だが、目の前の少年から感じる異様な気配。
明らかに自分よりも強者だと冒険者は悟る。
冒険者は声を上げ周囲の者に知らせる。
「全員、速やかにこの場を去れ!!」
その声に周囲の者はこちらに注目する。
「この翼を持つ少年は危険だ!!この場に留まれば確実に死ぬぞ!!逃げろ!!」
状況を理解した冒険者は街へ向けて走り出した。
【何してるんだよ...虫を一匹ずつ殺すのって大変なんだよ?君のせいで散り散りになっちゃったじゃん。】
翼を生やした少年は溜め息を吐き冒険者に愚痴を言った。
冒険者は気を抜かず警戒を続ける。
皆が逃げ切るまで1秒でも多く時間を稼ぐ。
武器を構え少年を睨む冒険者。
その時、後ろから声が聞こえた。
「いててて、少し油断した。これはマーリンに嫌味を言われてしまうな。」
冒険者が振り向くと先ほどまで倒れていたシュデンが立ち上がりこちらへ歩いてきた。
冒険者の肩を叩きシュデンは言った。
「お前も逃げろ。あとは俺が引き継ぐ。」
冒険者はシュデンの言葉に頷くと速やかにその場を去った。
【あーあ、みんな行っちゃった。まあ、いいか。】
「さて、まず聞いておく。お前は何者だ?」
翼の生えた少年にシュデンは尋ねる。
【え?僕?僕はねぇ...アザゼル。】
少年はアザゼルと答える。
「アザゼル。お前は魔族か?それとも亜人種の者か?」
【魔族?亜人種?いや、僕は天使さ。そして
天使?エデン?
一体何のことだ?
「お前の目的は何だ?何故"ジュギ"の街を狙う。」
【目的か。丁度、あの街から僕らが探している物の気配がするんだ。それを僕は取りに来た。"世界樹の枝"って物だけど知っているかな?】
アザゼルの問いにシュデンは首を振った。
「いいや、知らんな。なら、あの数の兵は何だ?ただ取りに来ただけならあんな数の兵は要らんだろう?」
【何言ってるの?関わった者は殺すに決まってるじゃん。証拠を消さないと、そこからまた盗まれる可能性が生まれるからねッ!】
アザゼルはシュデンに向かい飛びかかり攻撃してきた。
【だから、皆殺しにするのに数は必要でしょ?】
アザゼルの攻撃を躱しカウンターの殴打を放つ。
殴打はアザゼルの頬に決まりアザゼルは大きく吹っ飛んだ。
【なかなかやるね?オジサン。でも、そんなんじゃ僕を倒すなんて無理だよ?】
立ち上がり頬を拭うアザゼル。
その様子からシュデンの攻撃が効いていない事が分かる。
「やはり、効かないか。まあ、こちらも飛び掛かってきたからやり返したにすぎん。やるなら相手になるがどうする?」
【それは...是非とも!!】
アザゼルは再びシュデンの元へ向かってくる。
=レイラ=
アザゼルがシュデンに向けた指より放たれる閃光。
それをシュデンはスルリと躱した。
【へぇ、あれを躱すんだ?当たっていたら楽に死ねたよ?】
シュデンはアザゼルと距離を保つため走り出す。
【あれ?相手になるとか言いつつ手を出して来ないんだね?オジサン。なら大人しく殺されてくれない?】
「それはできないな。それにお前は勘違いしている。俺は無駄な殺しはしたくない。だから、諦めて退いてはくれないか?」
シュデンの言葉が癇に障ったのか、アザゼルは少し苛立ちを見せシュデンに話しかける。
【へぇ...その言い方、まるで直ぐにでも僕を殺せるように聞こえるね。それならやってみてよ。】
アザゼルの挑発にシュデンは溜め息を吐きつつ乗った。
「ハァ~...出来れば避けたいんだがな...」
シュデンの雰囲気がガラリと変わる。
【雰囲気だけ変えても何の脅しにもならないよ!!】
=レイラ=
シュデンに指先を向け閃光を放とうとする。
「その手...邪魔だな。」
シュデンが言葉を話した途端、アザゼルの腕が千切れた様に消え去る。
【・・・何が起きた?】
慌てる様子は無くアザゼルはシュデンを見て何が起きたかを確かめる。
「おっ、上手く行ったようだ。」
【どういうこ...】
どういう事?という前にアザゼルの足が同じように千切れ消えた。
「片手片足を消した。まだやるなら次で終わるがどうする?」
シュデンは冷たい言葉を言いアザゼルに尋ねた。
【う~ん、どうやら退いた方が良さそうだ。君はまだ見逃してくれるのかい?】
「お前が退くなら見逃そう。だが、次に来た時には容赦はしない。」
シュデンはアザゼルに告げる。
すると、アザゼルは無言のまま空へと帰った。
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