第7話 別視点

ここ2~3日の話だ。


西の森周辺の魔物がごっそりと減った。

未だギルドは知らないだろう絶好の穴場だ。

冒険者である"ジノ"はギルドにて依頼を請け今日も西の森へ向かう。


「あれ?ジノさん、今日も西の森の近くに行くのですか。」


「ああ、最近素材の集まる穴場を見つけてな...稼げるうちに稼ごうとな。」


「あ、ジノさんはDランクでしたね?ならあちらの依頼も請けてみては?」


職員は壁にある依頼を指してジノに教える。


「何々…ランクD:ガガミの実の採取?

洞窟のような穴倉に実るガガミの実を取れるだけ取ってくる…報酬は実1つにつき"銀貨"一枚!?」 ※銀貨1枚=10,000円


その内容に驚き、ジノは職員に尋ねた。


「こんな好待遇な依頼、一体どうしたんだ!?」


職員はジノの問いに答える。


「何でもそのガガミの実が王都で大変人気のようで商人の方が色々な場所のギルドで募集をかけてるようです。確か、半年ほど前に西の森の付近で依頼をこなしてた人が納品したのを見たので...どうですか?」


ジノは勢いよく首を縦に振った。


「ああ!是非頼む!!今日は楽に稼げそうだ。」


「承りました。でも、ジノさん。油断してはいけませんよ?西の森や付近にはコボルトやガーゴイルがいるんですから。」


職員の反応を見るに未だ冒険者ギルドには西の森の状況が伝わってないらしい。


これはチャンスだ!


ギルドで依頼を請け早々にルッツを出て西に向かう。


森まで約8時間掛かる道をひたすらに歩く。


「少し前まではここにも獣が出ていたものだが今は獣のケの字もない。なにがあったのだろうか?まぁ、俺には関係ないな。」


そんな独り言を言いつつジノは西へと足を進める。


8時間後...陽は傾き始めた頃、西の森に着いた。


「さて、依頼にあった薬草を採ってガガミの実でも探すか。」


ジノは森で依頼した薬草を摘み始める。



30分後–


依頼された薬草を集めきる。


「ふぅ、警戒はしているがやはり魔物の気配が全くしない。お陰で薬草は安全に取り放題だがな。さてと、そろそろガガミの実でも探すか。」


そう言うとジノは少し森の奥へと足を運んだ。


「コボルトすら居ない...奴らに会ったら仲間を呼ばれる前に対処しないといけないから助かるが流石に不気味だな。」


ジノが歩いていると森の中で更地のように何もない場所に着く。


「これは…」


普通では見ない光景に警戒感が一気に高まる。


「何が起きてる?魔物が居なくなったのと関係があるのか?」


そこは爆発でも起きたかのように中心部からクレーターが周囲に拡がっていた。


警戒を続けジノは更に奥へと進む。


奥には洞窟が崩れたような場所があった。


ゾクっとした感覚がし、洞窟から声が聞こえる。

誰かいるのだろうか?


『なんて事だ!繋がりパスが切れて様子を見に来てみれば"世界樹の枝"は奪われて洞窟も破壊されるなど…

しかし待て、枝が天使ではなく人間に奪われたのなら...

様子を見に行くとしましょう。ここから一番近い町はルッツですか。』


洞窟は瓦礫で埋もれており、洞窟内に誰かいるか確認はできない。


だが、周囲の空気が重い...頭で警鐘が鳴り響いている。


"ニゲロ逃げろにげろ逃げろ!"


ジノは身の危険を感じ森を出て町へと駆ける。


陽は沈んだ。辺りも暗く一寸先は闇の状態。


普段なら夜型の獣が襲い掛かるが、ジノが町へと走る間に獣に襲われることは無かった。


夜が更けてきた頃、ジノは辺境の町ルッツへたどり着く。


「門番!開けてくれ!至急、ギルドへと伝言がある。」


訳を話し無理を言って開けてもらう。


ジノはギルドに向かいマルクスに西の森で起きたことを伝えた。


―スタンピード発生まであと12時間―


朝を迎えた。


いつも通りの朝だ。


あの後、ジノはマルクスに西の森での異変を話し、宿で夜を明かした。


「町に変化はない...杞憂だったかな?」


だが、胸の奥の違和感は簡単には消えてくれない。


警戒だけはしておこう。


―スタンピード発生まであと4時間―


一方、冒険者ギルドでマルクスはジノの話を基に西の森周辺から戻ってきた冒険者たちから情報を集めていた。


「やはりジノの情報が一番気になるのう。森の奥の洞窟か…ちと、キツイが千里眼を飛ばして見るか。」


西の森の様子を千里眼魔法で見る。


なにやら奥は更地が広がっていた。


「これがジノが言っていたものか。じゃが、これはおそらくノキアあやつの戦った跡じゃな...」


更に奥を覗いてみるとそこには無数の陣が展開している。


なんだあれは?


マルクスは千里眼魔法を近づけ詳しい情報を探る。


陣を介し地の底から這い出る魔物の姿がそこに在った。


『おや?何やら覗かれている様子...いけませんよ?盗み見なんて品が無い。』


暗く響く声がした後、バチンと千里眼魔法の映像が途絶えた。


だが、見た情報をマルクスは繋ぎ合わせ一つの答えに辿り着く。


「スタンピードが起こるかもしれん...」


―スタンピード発生まであと30分―


マルクスは町の住民に伝える。


「スタンピードが来る!町の鐘を鳴らせ!住人に避難と1・2・3・4番通りの代表に連絡と連携を取れ!!」


―スタンピード発生―


町の鐘が響くのであった。

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