第7話

翌日、二人は旅立ちの準備を進める。


ノキアはギルドに向かい、マルクスにナナミの件を伝えに行く。

その間、ナナミは旅に必要な物を調達し揃えることになった。


「はぁ!?お前、一体何に使ったんだよ?銀貨が5枚あったんだぞ!それが残金が大銅貨5枚って…」

(銀貨 1枚=10,000円、大銅貨 1枚=1,000円)


「えっと、人生相談と人助け...です。」


「まあ、自由に使えとお前に渡した金だったから文句は言えないが、今後は節約も覚えておけよ?今渡す分で今日は旅に必要な保存が利く食糧と水を買ってこい。一週間分で、なるべく荷物にならないような物をたのむぞ。これから町での食料調達を任せるからな、しっかりやれよ?」


ノキアはそう言うと銀貨4枚をナナミに手渡した。


ナナミは3番通りを歩き、食糧と水を探す。

「まずは食糧を売っているお店を探さなきゃ…」


キョロキョロと周りを伺うと…露店のある物がナナミの目に止まる。


いつぞやに食べた"パン"である。


「ゔっ..."石パン"だ...」

値段は銅貨5枚とお手頃な価格。(銅貨 1枚=100円)

おまけに紹介文には、保存よし!値段よし!旅の必需品!と書いてある。


ナナミはそれを見て少し考えた。

考えた後、ナナミは頭をブンブンと振り口を開く。


「…うん、これは無いな、他を探そう。」


ナナミが露店を去ろうとした時、後ろから声を掛けられる。


「ナナミちゃん。」


後ろを振り向くとそこにはシズが立っていた。


「シズさん!」


ナナミも思わず声を掛ける。


「昨日ぶりね。あれからどうなったの?」


「はい、実はあれから…」


ナナミはシズに一緒に連れて行ってもらえる事を話した。


「良かった。やっぱり、自分の気持ちには正直にならないとね。」


「はい、ありがとうございます。これもシズさんの言う通りにしたおかげです。」


「それで...今は何をしていたのかしら?」

シズがナナミに尋ねる。


「あ、はい。旅に必要な食糧と水の買い出しです。」


「なるほどね。なら、この"パン"は外せないわ。」

シズは露店に並ぶ"パン"を指差す。


ナナミは少し顔を引きらせシズの商品説明を聞いた。


「これは保存も効く、腹持ちも良い、安いの良いとこ取りなのよ。まず、旅ならこれね。」


「あの...シズさん。これ以外にも保存のきく食糧はありますか?」


「え?これ以外?う~ん、そうね...あっちの店の・・・」


気付けばナナミはシズと共に食糧の買い出しをしていた。


「ふぅ...こんなとこかな?」


「ありがとうございます。シズさんのおかげで食糧選びのコツがわかった気がします。」


「いいわよ、別に。それで出発はいつなの?」

シズがナナミに尋ねていると...


「おっ、ここに居たのか。どうだ?食糧は買えたka・・・」


ノキアがナナミ達の前に現れた。


「あ、ノキアさん。はい、バッチリ買うことができましたよ!!あ、こちら私の買い出しを手伝ってくれたシズさんと言う方で...ノキアさん?」


ノキアはシズを見て固まった。


「ああ、やっと見つけた。やっほー、久しぶりだね。ノキア。」


シズの話の途中でノキアはナナミを抱え、人に紛れながら立ち去ろうとする。


シュッ ー


後ろに居たはずのシズはいつの間にか目の前に立っていた。


「つれないな~...そんなに避けなくてもいいじゃん!」


シズの一言を聞き観念したようにノキアは溜め息を吐いた。


「ハァ…」


「立ち話もなんだし、そこの店で何か食べよ!」

シズは二人を連れて大衆食堂へと入って行った。


「っぷはぁ!!おやっさん、もう一杯おかわり。お金はノキアこいつにツケておいて。」

シズは食堂に入るなり料理を片っ端から注文していく。


この女...遠慮と言う言葉を知らないのか?

ノキアはシズに対しそう思いながら、ナナミとの接点を訊いた。


「ナナミ、コイツとはどう知り合ったんだ?」


「えっと、この前ノキアさんがマルクスさんと話していた時です。私がギルドの外に出てた時、相談に乗ってもらいました。」


「あの時か...」


ナナミは説明を続ける。

「その次の日も悩んでいる私の相談に乗ってくれて...」


「分かった。もういい。それで、お前シズはここに何しに来たんだ?」


ナナミの話を聞いた後、ノキアはシズに尋ねた。


「ん?アンタを追ってきたの。」


「理由は?」


「勿論、お金を借りる為に...ってことでお金貸して♪」


シズの一言に怒気を込めて話すノキア。

「あ‶っ?貸すわけねえだろ。お前、今の状況分かって言ってんのか?」


テーブルを見ると空になった料理の皿が大量に積み重なっていた。

「ここの支払いだけで精一杯だ!!ボケェ!!」


支払いが終わり店を出る三人。


「シズさん、この町にいる弟子に会いに来たって...ノキアさんの事だったんですね。」


「そうよ。この子、3年前に会った時から放っておけなくて...ついね。」


「よく言えるな、さっき金の事だけしか言って無かったろ!」


そんなことを話していると突然町の鐘が鳴る。


町中が鳴り響く鐘に目を向けた瞬間、一人が声を上げた。


"スタンピードが起きた!"...


一人の言葉に町中の人が沸き立つ。


至るところで悲鳴が起こり町中がパニックになった。


「な、何が起きたんですか?」


周りの様子から察すると只事じゃない事だけは分かる。


「あの、シズさん。"スタンピード"って一体...」


「"スタンピード"・・・まあ、簡単に言うと魔物による災害ね。数百から数千の魔物が町や村などを横断するの。魔物が通ると町や村は壊滅し、運良く残ったとしても悲惨な結果しかないわ。それがここで起こっているの。」


ナナミはシズの話を聞いて、事の大きさに気付く。


「おかしい...」

ノキアがボソリと呟く。


「ノキアさん?おかしいって何のことですか?」


ナナミがノキアに尋ねると...


「"スタンピード"は滅多に起こるものじゃないんだ。ここは魔物の数も間引かれてる..."スタンピード"が起こる条件ができてないんだ。」


「つまり、人為的に"スタンピード"を起こした輩がいるという事...でしょ?とにかくギルドに向かうわよ、ノキア。」


三人は冒険者ギルドへと向かった。


ーーーーーーーー

ー冒険者ギルドー

ーーーーーーーー


ギルドに着いた時、そこにはルッツの町に滞在している冒険者たちが集まっていた。


数にして30~40人。


新人はもちろんのこと長年ルッツに住んでいるベテランまで集まる。


その光景を見たナナミは驚いた。


「そっか。ナナミちゃんはここまで人が揃うのを見るのは初めてなのね?町で鐘が鳴ったのは覚えている?あれは緊急事態を知らせると同時にギルドに冒険者を集める合図でもあるの。」


暫くすると...


マルクスが現れ冒険者たちに何が起きたかを伝える。


「呼び出してしまい申し訳ない。実はこの町に問題が起きた。この中にはもう知っている者もおるやもしれんが"スタンピード"が発生した。とある冒険者達の情報によると約800の魔物がこの町に向かっておる。町の防域結界もあるが持ちこたえられるか分からん。冒険者たちは速やかに魔物を少しでも間引い欲しい。頼む。」


マルクスは状況を説明した後、冒険者たちに頭を下げた。


冒険者の中には不満を漏らす者や逃げる算段を立てる者もいた。


だが、その他の冒険者たちは声を上げギルドを出て魔物達を討伐に出て行く。


冒険者が掃けてきた頃、マルクスはノキア達の下へと近づいてきた。


「主らに話がある。こっちへ来い。」


ノキア達はマルクスについて行き話を聞く。


「爺さん、話ってなんだ?」


「…冒険者の情報でもう一つあの場で出しておらんものがある。」


「どういう事かしら?」

シズがマルクスに尋ねる。


「お主は…まさか!?」


「それは今はどうでもいい事だと思うけど違う?」


「そうじゃった。冒険者の情報では、今回のスタンピートはどうやら魔族が絡んでおるらしい。そして、その魔族が主らが倒したユルドと言う魔族に酷似しているとのことじゃ。」


ユルド…アイツは俺が確実に仕留めたはずだ...

何故生きている?


「これはワシの推測じゃが、奴らはナナミを狙い攻めて来たのかもしれん。」


「そんな…これはみんな私のせい…」

話を聞いていたナナミは崩れ落ちる。


「辛いとは思うが今はそんな暇もない。ワシの見立ても甘かった。ルッツここならナナミを守れると思っておったが…すまない。」


マルクスは深々と頭を下げた。


そして…マルクスはノキア達に一言だけ告げる。

「逃げろ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る