第8話
"逃げろ"
マルクスはノキア達に一言だけ告げる。
「どういうことですか…」
「この状況...もはや破られるのも時間の問題じゃ。防域結界が無事な内に主らだけでも逃げるのじゃ。」
「でも、そうすればこの町は無事ではすみません。私が狙いだと言うなら私が魔族の元に戻れば、この町は...」
ナナミが自らを犠牲にする話をしていると…
「あー、ダメダメ。ナナミちゃん、自分を犠牲にするのは悪手よ。お姉さん泣いちゃうわ。」
シズが話に割り込んでくる。
「シズさん...でも、これ以外に方法は...」
ナナミはシズに反論すると...ノキアがナナミに声を掛ける。
「要は、勝てばいい話だろ?簡単じゃねえか。」
「...無理ですよ。冒険者の皆さんが必死に戦っています。それでも魔物の進行は止まらない...これしかないんです。」
ナナミは自分を責め泣き崩れた。
泣いている場合ではない。
頭では理解しているのに、自分には何もできないという無力感と、どうすればいいのか分からない焦燥感でいっぱいになる。
涙が止まってくれない。
そんな中...
「ねえ、ナナミちゃん。貴女の理想を教えて?」
シズは泣き崩れたナナミに笑顔を向けて尋ねる。
「魔族の元に貴女が戻り、町が救われる...それがナナミちゃんが望む一番の理想?」
ナナミは首を振り否定する。
そして...
「私の理想は...町が無事に救われて、ノキアさんと一緒に旅をする。それが私の一番の理想です。」
ナナミの口から出た本音を聞いた。
それを聞いたシズは大丈夫とナナミに笑いかけた。
「じゃあ、お姉さんがナナミちゃんの理想の景色を見せてあげる。」
ナナミに優しく微笑んだ後、シズの雰囲気がガラリと変わった。
「ノキア…貴方、どれくらいの魔物を相手出来る?厳しければこっちで全部請け負ってもいいけど?」
シズは淡々とした口調でノキアに尋ねる。
「
「そう...なら、半々で行くわね。」
何を話しているのだろうか?
まるで全ての魔物を相手にするように聞こえる。
「何をする気ですか?シズさん達も魔物と戦いに...」
ナナミは不安そうにシズ達を見る。
シズはこちらに気付き笑顔を見せナナミに言った。
「大丈夫。こう見えてお姉さんは強いのよ。"てんさい"なんだから。」
シズはそう言い残すとノキアと共にギルドを出て行く。
「天才...?」
町の外では冒険者たちが苦戦しながら戦っていた。
「負傷した者は後退しろ!魔物どもが町に入れない今がチャンスだ!!強い魔物は二人以上で対応しろ!!声を掛けて連携を取れ!!」
ベテランの冒険者が指揮を取りつつ戦況を凌ぐ。
800はいた魔物も減りはしたが、それでも50体程度である。
状況は劣勢。
それでも一部の冒険者は諦めることなく足掻いていた。
そこへ来たノキアとシズ。
「おい、
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※
ただし、再現される力は本来の10分の1。
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ノキアはシズに対し割符を要求する。
「そんなに持ってない。1枚でやりなさい!」
そう言うとシズはノキアに1枚の割符を渡した。
「魔族の方は貴方に任せる。討ち逃した魔物はこっちで片付けるから安心しなさい。」
シズはそう言い残すと町の外(防域結界外)へ飛び出した。
「おい!アンタ!!そっちは結界の外だ、戻れ!!」
冒険者の一人がシズに気付き戻る様に促す。
だが...
シズは魔物の群れ目がけて大きく跳躍する。
パキン ー
割符が割られ、シズの手に武器が作られる。
その棒を地面に向かい叩きつけた。
=
グゥォオオォン ー
地の底から響く轟音と共に大地が裂け、地形が隆起していく。
魔物の大半は地の裂け目に落ち隆起した大地に潰される。
一振りで50~80の魔物を屠る。
「やっぱりイメージで作るレプリカはダメね。強度が足りないわ。」
パキン ー
再び割符を割るシズ
すると先ほどの
=
その双剣は一つ振るごとに嵐のような風を起こし敵を巻き上げ切り裂いていく。
二刃で魔物を切り、繋がった紐を引き寄せ一打に持ち替え魔物を砕く、シズは自在に武器を持ち替え戦っていく。
地形を荒らし敵を屠るソレはまさしく"
パキン ー
再び割符を割る
=
残る魔物は火に焼かれ苦痛の叫びを漏らす。
その火は存在することを赦さずあらゆる魔物が灰と化す。
「ゴメンネ...
淡々と冷徹に話す独り言に知性の無い魔物たちは恐怖を感じた。
町の中で見ていた冒険者は語る。
アレはまさしく天災だ。
大地は隆起し、空は荒れ、いたるところで火の手が上がる。
耳を澄ませば聞こえてくる魔物の悲鳴のような叫び。
まさにこの世の終わりのような光景だったと...
「チッ、半々と言ったくせに結局一人で全部片づけやがった。何を焦ってんだろうな...」
ノキアは愚痴を呟いた後、近くで呆然と見ている冒険者たちに言った。
「心配しなくてもアンタらが考えてることにはなんねえよ。」
ノキアの一言に冒険者たちは注目する。
「アンタらの思ってることが手に取るように分かるぜ?あの力がこっちに向かないかを危惧してるんだろ?」
冒険者たちは皆一同に目を逸らした。
「安心しろ、あの力がこっちに向くことは無えよ。今回は特別だ。アイツも使いたくない力らしいからな。気が小さいくせに強がりやがって。」
冒険者の一人がノキアに尋ねる。
「君はあの"天災"を知っているのか?」
「ああ、知ってるぜ。なんせ、アイツは俺の師匠だからな。」
冒険者の問いに答えを返すノキアだった。
「さて、それじゃ本命の魔族だけでもこっちで倒すか。」
そう言うとノキアは町を出る為に門へと走っていった。
「ま、待つんだ!!」
冒険者の静止など聞かず町の外へ...
町の外は荒れ果て生きてるものなどは存在しない。
ノキアは走りシズの元へと向かった。
前方にその姿を見つける。
「おい、師匠。そろそろ・・・」
戻れと話そうとした瞬間、地面が揺れ大地が隆起する。
『ほう...この力に倒れた訳ですね。もう少し力を明け渡すべきでした。』
目の前の魔族はそう言ってシズの
その一撃で
「なっ!?」
崩れゆく
二刃が地面に落ち、三焼が風に舞った。
『確かにその力は強力です。ですが、相手がそれよりも格上には通じないですよ!!』
魔族は再びシズに殴打を放つ。
素早くシズは二刃を拾い魔族の殴打を防いだ。
呆気なく破壊される二刃。
二刃も壊れ
シズはまた割符を割ろうとする。
だが、スッとノキアがそれを止めた。
「もう止めておけ...確かに"
だが、アレはお前が嫌ってる力だろ?
あとは引き受けるから
ノキアの言葉を聞くとシズは小さく返事をする。
「...うん、あとはよろしく。」
言葉を残し去っていく。
『おやおや、まだ楽しめると思ったのですが...』
魔族はノキアに残念そうに伝える。
「悪いな、選手交代だ。だが、まあ...もう一度殺されるのもいい体験だろ?」
ノキアは魔族を見て確信する。
その姿は間違いなく以前倒したユルドその者であった。
「てめぇ、何で生きてる?」
ノキアはユルドに尋ねた。
『何故?・・・・・ああ、そういう事ですか。』
何かを理解したユルド。
『私を倒したのは先ほどの女性ではなくアナタだったんですね?なら、教えてあげましょう。貴方が倒したユルドとは私の分身体なのです。』
ユルドは再び間合いを詰めノキアを攻撃する。
=
ガキン ー
ユルドの攻撃を容易く防ぐ外套。
防がれた攻撃を見て距離を取るユルド。
『ふむ、攻撃が通りませんか…』
再度、距離を詰めユルドはノキアの腹部に殴打を叩き込もうとする。
=
再び防がれる攻撃。
『威力を上げても無理...吹き飛ばす事も難しいですか。中々に厄介ですね。ですが、決して手が無い訳では無さそうだ。』
「どう言うことだ?」
ノキアはユルドの言葉に警戒する。
『貴方自身はそれほど脅威ではないということです。厄介なのはその攻撃を防ぐ力だけ...貴方は普通の人間で私を殺せる手段を今持ち合わせていない...違いますか?』
ノキアは沈黙する。
『まあ、それは大した問題ではありませんね。その証拠にほら…簡単に勝敗がつきました。』
ガクンと膝から崩れるノキア。
じわりと毒が回る感覚。
ゴフッ –
「はぁ...はぁ...何をしやがった...」
『貴方が私だけに警戒しててくれて良かった。そのおかげでこの通り上手く事が運びました。』
ケラケラと嗤うユルド。
『まあ、どうせ死ぬなら教えましょうか。私が二度目の攻撃を仕掛けた時、私は威力を上げて攻撃しました。それと同時に周囲に私の魔力を放出し撒いたのですよ。貴方は私が力を上げた程度にしか見えなかったかもしれませんがね。あとは簡単です。時間を稼げば私の魔力が瘴気となり空気を汚染し貴方に浸透して行く...では、サヨナラです。』
ノキアの意識が薄れて行った。
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