第3話

「逃げられないなら、最後まで足掻くとするか。」


ノキアは構えた短刀をユルドに向けた。


『足掻く?まあ、それも良いでしょう。最後に良い悲鳴を聞かせてください。では、さようなら。』

ユルドの合図と共に数十体の魔物がノキアに飛び掛かる。

一瞬でノキアは大量の魔物に埋め尽くされた。


ドォン ー


突然、ノキアを埋め尽くす魔物の群れから轟音と共に爆炎が広がった。

爆風で周囲の木々がバリバリと音を立てて吹き飛んでいく。


『な、何が起きたのですか!?魔物は?あの侵入者はどうなった!』


周囲の木や魔物は吹き飛び辺りが何もない更地へと化す。


「ふぅ...やはり準備を怠ってはいけないな。」

黒い外套が霧散する。

パンパンと服についたほこりを払いノキアは呟いた。


ユルドはノキアを指差し驚く。


『何故生きている!魔物たちはどうしたんだ!!』


動揺するユルドにノキアは答えた。


「お前と魔物どもが外に出て来てくれて助かった。穴の中なら攻撃出来ず完全に詰んでいたからな。」


『バカな!貴方にそんな攻撃手段は無いはず...』

ノキアは2つに割れたカード状の板の残骸をユルドに見せる。


『何だ、それは?』


割符わりふと言ってな、強力な魔法を封じてる道具だ。知り合いに貰ったものだが、あの時に貰っておいて良かったぜ。」

ノキアは割符の残骸を宙へと放り投げた。


ユルドの視線が割符へと移る。


それを見て真っ直ぐに突っ込むノキア。

割符から即座にノキアに視線を戻すユルドであったが、その一瞬でノキアはユルドの首に短刀を突き立てた。


「お前にも感謝しないとな。俺に攻撃手段が無いと勝手に思い込んでくれて...おかげで付け入る隙ができた。」


『があああああああああ!!』

首に刺さる短刀を振り抜きノキアは距離を取る。



『こ...の私が...人如きに...だが...』


もがき苦しむユルドはボロボロの姿で朽ちていく。

だが、その身体を這わせ、穴の方へと向かおうとしている。


『あの娘を...魔皇様に...世界樹の枝を...』


ユルドの身体は崩れ、灰となり朽ちた。


世界樹の枝?一体何のことだ?

ノキアはユルドの残した言葉について考える。


「・・・ダメだ、分からん。」

そう言って考えるのを後に回しノキアは先ほどの穴へと戻った。


「ええと...お!いたいた。」

穴の中...隅の方で気を失っている少女を見つける。


あの魔族ユルドが言ったのは間違いなくコイツの事だろう。

だが、考えたところで何も分かることは無いな。

とりあえず、今はコイツを連れて町に戻ることにしよう。


ノキアは少女を抱えて穴を出る。


外へ出たノキアは振り返り洞穴を見た。


「危険は無くなった...はずだが、一応ここも埋めておくか。」


ノキアは鞄から割符を取りだした。


割符を半分に割り、穴の中へと投げ込んだ。


ドォン ー


轟音と衝撃で穴が崩れ出し塞がる。


「さてと、それじゃあ森の出口を探すとするか。」

ノキアは少女を担ぎ出口を探して森を彷徨った。


陽が沈み夜になる頃、ノキアは最初の森の入り口へと戻ってくることができた。


「やっと戻ってこれたな。だが、すっかり夜になってしまった。今日はここまで...町へ戻るのは明日にしよう。」

ノキアは担いだ少女を降ろし、薪を集める。


・・・・・・

・・・・

・・


ーーパチパチと焚火が音を鳴らす。


ノキアが火を見つめ考え事をしていると...


「うぅ...ん?...ここは?」


連れてきた少女が目を覚ました。


「よう、やっと起きたか。気分はどうだ?」

ノキアは少女に調子を尋ねる。


「ええと、はい...大丈夫です。」


「そうか。」


どうやら問題はなさそうだ。


「あの...貴方は?」


少女はノキアに名前を尋ねる。


「俺か?俺はノキア。冒険者...だ。」


「冒険者?」

少女はノキアに問い返す。


「まあ、一応だけどな。そういうお前は?名前は何と言うんだ?」


「私?...私の名前......」


ノキアの問いに少女は黙り込む。


「おいおい、名前だよ名前。まさか、分からないなんて言うわけじゃ・・・」


「・・・分からない...名前...私は...誰なの?」


記憶喪失というものだろうか?

少女は不安そうにノキアを見る。

様子からして嘘をついては無さそうだ。

その表情から少女の不安が伝わってくる。


「私...私は誰なの?分からない...分からないよ。」

不安から来る焦りからか少女は自問を繰り返し今にも取り乱しそうな雰囲気を出す。

それを見たノキアは宥めるように「落ち着け。」

そう言って少女の頭を軽く叩く。


「痛っ...」


「分からない事はどう考えても、分からない事もある。まあ、そのうち思い出すだろう。」


「...はぃ。」


どうやら落ち着きは取り戻したようだ。

だが、その表情は明らかに沈んでいた。

自分が誰かも分からない不安は本人にしか分からない。

当然の反応だろう。


それを見たノキアは少女に話しかける。


「とりあえず、名前が無いと不便だな。」

そう言ってノキアは少し考えこむ。


そして...


「よし!今からお前の名前は"ナナミ"だ。」

ノキアは少女を指差し命名する。


「"ナナ...ミ"?」


「昔、俺の知り合いに73ななじゅうさん番と呼ばれる奴がいた。

底抜けに明るい奴でな、"ナナミ"はそいつが付けた名前なんだ。

番号で呼ばれるのは可愛くないって理由だけで勝手に自分の番号を美化させやがった。

"なな"と""で73ナナミ。今からそう呼べだの、番号で呼ぶなだのと、うるさい奴でな、うっかり番号で呼んだ日には周りを巻き込んで大暴れ。挙句には口も利いてくれないと大変で...」


「あはははは。」

少女は声を上げ笑い出す。


「なぜ笑う?」


「ごめんなさい。その人の話を聞いていたら落ち込んでいたのがどうでも良くなってきて…そうですね。名前が分からないくらいで落ち込んでいてもしょうがないですよね。」

少女の顔に明るさが戻る。


「決めた!今から私の名前は"ナナミ"です。私もその人のようになりたい。だから…その、よろしくお願いしますね。。」


「おう、よろしくな。。とりあえず町に戻ったらお前の情報がないか調べてみよう。だから、まだ寝ていろ。明日、朝になってから町に戻る。」


ナナミにノキアは返事を返した。


「はい、おやすみなさい。」


ノキアの話を聞きナナミは再び目を閉じた。

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